上 下
7 / 37

7.「生まれついてのブッチャーだからよ」

しおりを挟む
 二人はたっぷり切り身の入ったタッパーを受け取ると、平泉と六さんに別れをつげ、港をあとにした。

 別れ際、「咲希!」と、平泉が管理事務所の玄関から手をあげた。「出棺のときにゃあ、約束どおり港で待機しとく。もっとも、そのまえにちゃんと焼香させてもらいに寄るがな」

「ええ。よろしくお願いします」

「どうも」

 交野も頭をさげた。
 咲希は肘のところまで手をあげてこたえると、極力関わりたくないといわんばかりに歩き出したので、交野はあわてて彼女の横に並んだ。

「港で待つとは」

「ここだけの話」咲希はそれには返事せず、「あの人が苦手だった。7年ぶりに会って、わたしにも変化があるかなって思ってたけど、やっぱり無理」

「世渡りがうまそうだからな。誰にでも愛想がいいんだろう」

「そうじゃなく」と、咲希は険しい顔をして、「生まれついてのブッチャー、、、、、だからよ。生理的に受けつけないの」

「ブッチャー?」

 とっさに1970から80年代に日本プロレスで活躍した黒人レスラーの姿が思い浮かんだ。リアルタイムに観た世代ではないが、熱烈なファンの友人に教えられたことがあった。

「そのことについても、あとで説明するわ。とにかく順を追っていかないと、あなただって混乱するだろうから」

「なんのことやら、さっぱりだな」と、交野は肩をすくめた。彼女に従うしかなかった。



 県道に出て、30分ばかり時間をつぶしたのち、バスに乗りこむと、悉平島の山間部に分け入った。
 山には抜きん出て背の高いアカマツが目立つ一方、南国特有のソテツが生い茂り、内地とは異なる趣を醸していた。
 こずえのすき間からのぞく空は快晴。蒸し暑いが陰気臭さは感じさせず、車窓から吹きこんでくる風には濃い山気がまじり、鼻をくすぐった。

 15分もバスの後部座席で揺られると、急に開けた土地に出た。
 左右にビニールハウスが立ち並んでいた。なかではよく手入れされたマンゴーが栽培されていた。
 実はたっぷり太陽の光を吸収して緋色ひいろに完熟し、落下防止用のネットにひとつずつかぶせられていた。8月上旬のこともあってか、収穫のピークはすぎ、実の数は少ないながら、華やかな彩りが眼の保養になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日高川という名の大蛇に抱かれて【怒りの炎で光宗センセを火あぶりの刑にしちゃうもん!】

spell breaker!
ホラー
幼いころから思い込みの烈しい庄司 由海(しょうじ ゆみ)。 初潮を迎えたころ、家系に伝わる蛇の紋章を受け継いでしまった。 聖痕をまとったからには、庄司の女は情深く、とかく男と色恋沙汰に落ちやすくなる。身を滅ぼしかねないのだという。 やがて17歳になった。夏休み明けのことだった。 県立日高学園に通う由海は、突然担任になった光宗 臣吾(みつむね しんご)に一目惚れしてしまう。 なんとか光宗先生と交際できないか近づく由海。 ところが光宗には二面性があり、女癖も悪かった。 決定的な場面を目撃してしまったとき、ついに由海は怒り、暴走してしまう……。 ※本作は『小説家になろう』様でも公開しております。

機織姫

ワルシャワ
ホラー
栃木県日光市にある鬼怒沼にある伝説にこんな話がありました。そこで、とある美しい姫が現れてカタンコトンと音を鳴らす。声をかけるとその姫は一変し沼の中へ誘うという恐ろしい話。一人の少年もまた誘われそうになり、どうにか命からがら助かったというが。その話はもはや忘れ去られてしまうほど時を超えた現代で起きた怖いお話。はじまりはじまり

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ヴァルプルギスの夜~ライター月島楓の事件簿

加来 史吾兎
ホラー
 K県華月町(かげつちょう)の外れで、白装束を着させられた女子高生の首吊り死体が発見された。  フリーライターの月島楓(つきしまかえで)は、ひょんなことからこの事件の取材を任され、華月町出身で大手出版社の編集者である小野瀬崇彦(おのせたかひこ)と共に、山奥にある華月町へ向かう。  華月町には魔女を信仰するという宗教団体《サバト》の本拠地があり、事件への関与が噂されていたが警察の捜査は難航していた。  そんな矢先、華月町にまつわる伝承を調べていた女子大生が行方不明になってしまう。  そして魔の手は楓の身にも迫っていた──。  果たして楓と小野瀬は小さな町で巻き起こる事件の真相に辿り着くことができるのだろうか。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

孤独の旅路に伴侶をもとめて

spell breaker!
ミステリー
気づいたとき、玲也(れいや)は見知らぬ山を登っていた。山頂に光が瞬いているので、それをめざして登るしかない。 生命の息吹を感じさせない山だった。そのうち濃い霧が発生しはじめる。 と、上から誰かがくだってきた。霧のなかから姿を現したのは萌(もえ)と名のる女だった。 玲也は萌とともに行動をともにするのだが、歩くにしたがい二人はなぜここにいるのか思い出していく……。 ※本作は『小説家になろう』さまでも公開しております。

感染した世界で~Second of Life's~

霧雨羽加賀
ホラー
世界は半ば終わりをつげ、希望という言葉がこの世からなくなりつつある世界で、いまだ希望を持ち続け戦っている人間たちがいた。 物資は底をつき、感染者のはびこる世の中、しかし抵抗はやめない。 それの彼、彼女らによる、感染した世界で~終わりの始まり~から一年がたった物語......

処理中です...