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第二章:騎士学校・中等部
第23話 第六層
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セリスは初めて目にする〈迷宮人〉の風貌――その神秘的な雰囲気と言動――に戸惑っているようだったけど、彼らが丁寧に対応してくれたおかげで、緊張はすぐに和らいだ。
「噂ほど怖い人たちじゃないのね、迷宮人って……」
セリスは、まだ半信半疑といった表情でつぶやく。
「あの人たちが迷宮と深く結びついてるって噂は、なんとなく信じられるけどね。それに貴重な品を鑑定してもらうだけじゃなく、時には有用な情報もくれるから、とても頼もしい存在なんだ」
セリスは興味深そうに僕の話を聞く。彼女の好奇心が刺激されたのだろう。
「でも、のんびりしてる時間はないぞ。いよいよ下層だからな」
ラティは先導しながら、僕たちに気を引き締めていく。
これまで僕らが相手にしてきたのは、ホーンラビットや小鬼といった低ランクの魔獣や魔物だったけど、第六層からは強力な魔獣が出現するようになる。
「ここからが本番だね」
セリスも緊張を隠せないようだったけど、その瞳には期待が込められていた。
「学校での訓練がどこまで通用するのか、確かめるにはちょうどいい機会だよ」
ラティは笑いながら言ったけど、周囲の警戒は怠らない。
第六層につづく階段を下りるにつれ、空気が変わっていくのを感じた。
つめたい湿り気を帯びた空気、そして肌を刺すような微かな緊張感――ここから先は、僕らにとって新たな挑戦の場でもある。
「気を引き締めていこう。どんな敵が出てきても、焦らずに対処するんだ」
僕はそう言いながら、ゴーストと一緒に先頭に立った。
第六層に足を踏み入れてしばらくすると、薄暗い通路の向こうから重い足音が響いてきた。
「来た……ホブゴブリンだ」
ラティは小声でつぶやくと、素早く武器を構える。
「集団で動いてる。数は……六体か七体」
僕はその足音と息遣いを聞き分けながら、〈気配察知〉で敵の数を確認していく。
一体でも手強い相手だったけど、今の僕たちは違う。
「奇襲で仕留めよう。まずはセリス、魔術で敵を混乱させてくれ」
彼女はうなずくと、魔術の準備を行う。
やがて複数の〈火球〉がホブゴブリンの集団に向かって撃ち込まれる。直撃と共に火花が飛び散り、煙が視界を奪っていく。
「今だ!」
僕は駆け出すと、煙の中で敵の位置を確認していく。
そして魔術で身体能力を向上させながら一気に接近し、前衛の一体の武器を弾き飛ばすと、間髪を入れずに喉元を斬り裂いた。
ラティもその隙を逃さず、別のホブゴブリンに飛びかかる。猫人特有の俊敏さと、鍛え上げられた身体能力を活かした連撃で、敵を圧倒していく。
ゴーストに守られていたセリスは、後方から〈火球〉を放ち、混乱していたホブゴブリンを焼き尽くしていく。
戦闘が始まって数分。気がつけば、ホブゴブリンたちは全滅していた。
「よし、終わりだ」
僕は剣を振り、刃に付着した血を拭う。
「すごい! あんなに恐ろしい怪物を、こんなにも早く倒せるなんて……」
セリスが驚いた表情で言う。
彼女にとっては、ホブゴブリンは童話に出てくる恐ろしい怪物だったのだろう。
「ホブゴブリンは人間から奪った武器を持っていることが多いんだ」
ラティは倒したホブゴブリンの死体から武器を引き抜きながら言う。
「お、これはいい剣だな。鍛冶屋で磨いてもらえば売り物になるぞ」
さらにホブゴブリンの死体を慎重に解体し、体内から魔石を取り出していく。
「この魔石も組合で換金すれば、それなりの額になるんだ」
セリスに魔石を見せながら言うと、彼女はぎこちない笑みを浮かべる。
こうして僕らは戦利品を手に入れながら、第六層を順調に攻略していく。この調子なら、どんな敵にも問題なく対処できるはずだ。
さらに進むうちに雰囲気が一変した。荒れ果てた迷宮の通路は姿を変え、壁には奇妙な模様が彫られた石板がはめ込まれているのが見られるようになった。
足元には粉々になった陶器の破片が散らばっていた。
「ここには……生活の痕跡があるな」
ラティは立ち止まると、目を細めて周囲を見回した。
「〈迷宮人〉たちが遺物を集める区画だよ」
僕は迷宮の地図を広げながら、現在地を確認する。
この辺りは、かつての文明の痕跡が残る区画として知られていた。
しかし貴重な遺物のほとんどは〈迷宮人〉たちや、冒険者たちによって持ち去られていて、今では価値のないものばかりが散乱している状態だった。
セリスは足元に転がる壺の欠片を拾い上げる。
「これ、すごく古い王国のものかしら……?」
指で模様をなぞりながら、小声でつぶやく。
「その可能性はある。迷宮は、もともと異世界の遺跡だって説もあるんだ。なんでこんな場所にあるのかは誰にも分かってないんだけどね」
迷宮に眠る遺物や建築物の由来には、多くの謎が残されている。
「皿や壺が残ってるってことは、食事をしたり何かを保管したりしていた場所かもね。今となっては、役立つものはほとんどないんだけど」
ラティは足元の瓦礫を軽く蹴りながら、苦笑いを浮かべた。
「そうは言っても、罠や隠された遺物がないとも限らない」
僕たちは注意深くその区画を探索しながら進んでいく。しかし、時間が経つにつれて気づいたことがあった。
やはりこの区画にはほとんど何も残っていない。陶器や錆びた金属片は散らばっているけど、実際に役立つものは見当たらない。
「遺物はもう全部持っていかれたみたいだね」
セリスが苦笑しながら言った。
「この先にも通路が続いてる。そこに期待しよう」
セリスを励ましながら、地図を頼りに次の通路へと向かった。
「貴重な品を手に入れたいなら、念入りに探索しないとな」
ラティは短剣を肩にかけ、壁のひび割れや瓦礫の隙間に目を走らせた。
「隠し部屋とか見つけられるかもしれないだろ」
ラティは苦笑しながら言ったけど、彼の目線は鋭く、小さな異変を見逃さないようにしている。
「魔物も遺物を集めるって話だし、古くからこの階層に棲みついてるホブゴブリンがいれば、何か面白いものを隠し持ってるかもしれない」
僕たちは暗い迷宮を慎重に進みながら、心の中で期待を膨らませていた。
「噂ほど怖い人たちじゃないのね、迷宮人って……」
セリスは、まだ半信半疑といった表情でつぶやく。
「あの人たちが迷宮と深く結びついてるって噂は、なんとなく信じられるけどね。それに貴重な品を鑑定してもらうだけじゃなく、時には有用な情報もくれるから、とても頼もしい存在なんだ」
セリスは興味深そうに僕の話を聞く。彼女の好奇心が刺激されたのだろう。
「でも、のんびりしてる時間はないぞ。いよいよ下層だからな」
ラティは先導しながら、僕たちに気を引き締めていく。
これまで僕らが相手にしてきたのは、ホーンラビットや小鬼といった低ランクの魔獣や魔物だったけど、第六層からは強力な魔獣が出現するようになる。
「ここからが本番だね」
セリスも緊張を隠せないようだったけど、その瞳には期待が込められていた。
「学校での訓練がどこまで通用するのか、確かめるにはちょうどいい機会だよ」
ラティは笑いながら言ったけど、周囲の警戒は怠らない。
第六層につづく階段を下りるにつれ、空気が変わっていくのを感じた。
つめたい湿り気を帯びた空気、そして肌を刺すような微かな緊張感――ここから先は、僕らにとって新たな挑戦の場でもある。
「気を引き締めていこう。どんな敵が出てきても、焦らずに対処するんだ」
僕はそう言いながら、ゴーストと一緒に先頭に立った。
第六層に足を踏み入れてしばらくすると、薄暗い通路の向こうから重い足音が響いてきた。
「来た……ホブゴブリンだ」
ラティは小声でつぶやくと、素早く武器を構える。
「集団で動いてる。数は……六体か七体」
僕はその足音と息遣いを聞き分けながら、〈気配察知〉で敵の数を確認していく。
一体でも手強い相手だったけど、今の僕たちは違う。
「奇襲で仕留めよう。まずはセリス、魔術で敵を混乱させてくれ」
彼女はうなずくと、魔術の準備を行う。
やがて複数の〈火球〉がホブゴブリンの集団に向かって撃ち込まれる。直撃と共に火花が飛び散り、煙が視界を奪っていく。
「今だ!」
僕は駆け出すと、煙の中で敵の位置を確認していく。
そして魔術で身体能力を向上させながら一気に接近し、前衛の一体の武器を弾き飛ばすと、間髪を入れずに喉元を斬り裂いた。
ラティもその隙を逃さず、別のホブゴブリンに飛びかかる。猫人特有の俊敏さと、鍛え上げられた身体能力を活かした連撃で、敵を圧倒していく。
ゴーストに守られていたセリスは、後方から〈火球〉を放ち、混乱していたホブゴブリンを焼き尽くしていく。
戦闘が始まって数分。気がつけば、ホブゴブリンたちは全滅していた。
「よし、終わりだ」
僕は剣を振り、刃に付着した血を拭う。
「すごい! あんなに恐ろしい怪物を、こんなにも早く倒せるなんて……」
セリスが驚いた表情で言う。
彼女にとっては、ホブゴブリンは童話に出てくる恐ろしい怪物だったのだろう。
「ホブゴブリンは人間から奪った武器を持っていることが多いんだ」
ラティは倒したホブゴブリンの死体から武器を引き抜きながら言う。
「お、これはいい剣だな。鍛冶屋で磨いてもらえば売り物になるぞ」
さらにホブゴブリンの死体を慎重に解体し、体内から魔石を取り出していく。
「この魔石も組合で換金すれば、それなりの額になるんだ」
セリスに魔石を見せながら言うと、彼女はぎこちない笑みを浮かべる。
こうして僕らは戦利品を手に入れながら、第六層を順調に攻略していく。この調子なら、どんな敵にも問題なく対処できるはずだ。
さらに進むうちに雰囲気が一変した。荒れ果てた迷宮の通路は姿を変え、壁には奇妙な模様が彫られた石板がはめ込まれているのが見られるようになった。
足元には粉々になった陶器の破片が散らばっていた。
「ここには……生活の痕跡があるな」
ラティは立ち止まると、目を細めて周囲を見回した。
「〈迷宮人〉たちが遺物を集める区画だよ」
僕は迷宮の地図を広げながら、現在地を確認する。
この辺りは、かつての文明の痕跡が残る区画として知られていた。
しかし貴重な遺物のほとんどは〈迷宮人〉たちや、冒険者たちによって持ち去られていて、今では価値のないものばかりが散乱している状態だった。
セリスは足元に転がる壺の欠片を拾い上げる。
「これ、すごく古い王国のものかしら……?」
指で模様をなぞりながら、小声でつぶやく。
「その可能性はある。迷宮は、もともと異世界の遺跡だって説もあるんだ。なんでこんな場所にあるのかは誰にも分かってないんだけどね」
迷宮に眠る遺物や建築物の由来には、多くの謎が残されている。
「皿や壺が残ってるってことは、食事をしたり何かを保管したりしていた場所かもね。今となっては、役立つものはほとんどないんだけど」
ラティは足元の瓦礫を軽く蹴りながら、苦笑いを浮かべた。
「そうは言っても、罠や隠された遺物がないとも限らない」
僕たちは注意深くその区画を探索しながら進んでいく。しかし、時間が経つにつれて気づいたことがあった。
やはりこの区画にはほとんど何も残っていない。陶器や錆びた金属片は散らばっているけど、実際に役立つものは見当たらない。
「遺物はもう全部持っていかれたみたいだね」
セリスが苦笑しながら言った。
「この先にも通路が続いてる。そこに期待しよう」
セリスを励ましながら、地図を頼りに次の通路へと向かった。
「貴重な品を手に入れたいなら、念入りに探索しないとな」
ラティは短剣を肩にかけ、壁のひび割れや瓦礫の隙間に目を走らせた。
「隠し部屋とか見つけられるかもしれないだろ」
ラティは苦笑しながら言ったけど、彼の目線は鋭く、小さな異変を見逃さないようにしている。
「魔物も遺物を集めるって話だし、古くからこの階層に棲みついてるホブゴブリンがいれば、何か面白いものを隠し持ってるかもしれない」
僕たちは暗い迷宮を慎重に進みながら、心の中で期待を膨らませていた。
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