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第二章:騎士学校・中等部
第22話 実戦訓練!
しおりを挟む今日は久々の迷宮探索だ。僕たちが向かったのは、帝国が厳重に管理している〈はじまりの迷宮〉だった。
その迷宮は初心者向けとして知られていて、低ランクの魔獣や小鬼しか出現しない。迷宮探索の初心者でもあるセリスにとっては、これ以上ないほどいい場所だ。
それに、僕自身も迷宮探索は久々だし、学校の授業ばかりで少し勘が鈍っているかもしれない。ラティも同じ意見で、まずはここで身体を慣らそうということになった。
乗合馬車に揺られながら、ゆっくりと遺跡のある平原に向かう。どこまでも広がる草原と、ぽつぽつと点在する小さな農村の風景が見える。
旅に出ると感じるこの独特な自由さは、いつも心を落ち着けてくれる。
「遺跡って、どんな感じなんだろう?」
となりに座るセリスが目を輝かせながら聞いてきた。
「兵士たちが見張りに立っていて、あんまり自由に出入りできる場所じゃないんだ」
僕は過去の記憶を掘り返しながら答える。彼女の期待に満ちた様子を見ていると、初めて迷宮に来たときのことを思い出して、少し微笑んでしまった。
馬車が目的地に到着したのは、それからほどなくしてだった。
遺跡の入り口には大きな石造りの門がそびえ立ち、帝国から派遣された兵士たちが警戒の目を光らせている。装備は簡素だが、動きに隙がなく、緊張感を漂わせていた。
「ここが、遺跡の入り口……」
セリスはその荘厳な雰囲気に圧倒されたのか、ぽつりとつぶやいた。
遺跡には露店が並び、賑わいを見せている。商人たちが武器や薬草、保存食などを取引していて、探索する冒険者たちが買い物を楽しむ光景が見えた。
「見て、あの杖! すごく綺麗!」
セリスは装飾付きの杖を指差して、目を輝かせている。
「実用性は微妙だな。それよりも、こっちの地味な杖のほうが信頼できるよ」
となりの棚に並べられた実戦向けの杖を示した。
セリスは少し不満げな顔をしたが、すぐにまた別の店に興味を移した。
やがて迷宮の門前に到着する。僕たちは組合が用意してくれた許可証を取り出して、門番の兵士に見せた。
蜥蜴人でもある大柄の兵士は許可証を確認すると、無言でうなずいて、門を開ける合図を送る。
重厚な門が軋みながらゆっくりと開いていき、その奥に広がる暗い空間が姿をみせた。
「いよいよだね」
セリスが緊張と興奮の入り混じった表情でつぶやいた。
冷たく湿った空気が肌を包み込み、独特のニオイが鼻をくすぐる。灯りに照らされて薄っすらと浮かび上がる苔むした壁が、迷宮の内部へと続いていた。
「ここが迷宮なのね!」
セリスは目を輝かせていた。彼女にとって、これが本格的な迷宮探索だった。
その様子を見ていると、剣術の師範でもあるラリアンに付き添ってもらった日のことを思い出す。
迷宮内に足を踏み入れると、すぐに独特の湿った土のニオイが鼻を突く。天井のあちこちで光る苔が、微かな青白い光を放ち、僕たちの道を照らしている。
「なんだか、思っていたより怖くないんだね」
セリスが安心したように言う。
「まだ入り口付近だからね。深く進めば、もっと薄暗くて嫌な感じになってくるよ」
ラティが軽く肩をすくめながら答えた。
「下層まで行けば〈迷宮人〉もいるから、何か珍しいものを見つけたら鑑定してもらえるかもしれない」
彼女に説明しながら周囲に警戒する。
少し歩くと、迷宮内に響くかすかな音に気づいた。
「来るぞ、準備して!」
僕の言葉に反応して、セリスは緊張した面持ちで杖を構えた。
暗がりから数匹の小鬼があらわれると、錆びた短剣を振り回しながら近づいてくる。僕たちは慌てることなく、迎え撃つ準備を整える。
「ラティとゴーストは前衛を頼む!」
「任せろ!」
ラティが俊敏な動きで小鬼たちの注意を逸らしている隙に、セリスに指示を出した。
「セリス、〈火球〉を準備してくれ! ラティとゴーストが敵を引き付ける」
「わ、わかった!」
練習の成果が出たのか、彼女は慌てることなく小さな〈火球〉を発生させ、小鬼たちに向けて放つ。〈火球〉は見事にゴブリンに命中し、悲鳴と共に崩れ落ちる姿が見えた。
「やった……!」
セリスが緊張した笑顔を見せる。
「さすがだな。でも、まだ気を抜かないで。迷宮探索では常に警戒が必要だ」
こうして、僕たちの迷宮探索が本格的に始まった。徐々に下層に進むにつれて、迷宮独特の空気と緊張感が僕たちを呑み込んでいく――
暗い迷宮のなか、戦闘の感覚に馴染んでもらう。
ラティとゴーストは素早さを活かして先行偵察をしながら、暗がりに潜む小鬼や低ランクの魔獣を察知すると、的確にその位置を知らせてくれる。
「セリス、右から来るよ!」
ラティが警告すると同時に、岩陰から小鬼が飛び出してきた。
「させない!」
セリスは緊張で汗ばむ手でしっかりと杖を握りしめながら、魔術を放っていく。
ゴブリンが武器を振りかざして突進してきた瞬間、セリスは一歩後退し、〈風刃〉の魔術を撃ち放つ。
鋭い一撃がゴブリンの胸を裂き、敵は短い悲鳴を上げて崩れ落ちる。
「やった……!」
セリスの顔に緊張感と喜びが入り混じった表情が浮かぶ。
「いい動きだった。でも、まだ油断しないで」
彼女にそう声をかけながら、倒れたゴブリンを確認する。
その後も僕たちは、セリスを中心に迷宮の探索を続けた。彼女に戦闘経験を積ませるのが今回の目的だ。
手を抜けば危険だし、彼女自身のためにもならない。だからこそ、ラティと僕、そしてゴーストで彼女をしっかりとサポートしながら戦いを重ねていった。
迷宮の構造が次第に変化し、〈迷宮人〉たちがいる階層が近づいてくる。
「そろそろだね」
僕は振り返ると、緊張で少し顔が強張っていたセリスの顔を覗き見る。
「迷宮人……本当にいるんだね」
彼女はそうつぶやきながら、〈迷宮人〉という存在に対する期待と不安を隠しきれていない様子だった。
「最初は驚くかもしれないけど、彼らは敵じゃないよ。それに、貴重な品を鑑定してくれる頼れる存在でもある」
僕は彼女を安心させるように微笑みながら、ゴーストを軽く撫でた。
するとラティが思い出し笑いを浮かべながら言う。
「〈迷宮人〉って、たしかに不思議な存在だよな。俺も最初に会ったとき、ちょっとビビってたかもしれない」
しばらくして〈迷宮人〉たちの姿が見えてきた。
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