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第二章:騎士学校・中等部
第18話 決着!
しおりを挟む激しい戦闘が続けられるなか、僕はライアスの動きを注視していた。目の前では、こちらの主力部隊に向けて執拗な攻撃が続いている。
盾を手にした重装歩兵が矢の雨に耐えながら進軍しているが、突破の見込みは薄い。
敵の動きに異変が見られるようになったのは、ちょうどその時だった。
「なにか……おかしい」
城壁に立つ敵部隊が急に陣形を変えたことに気づいた。
それまで渡河を阻止するのに全力を注いでいたのに、敵は部隊を二手に分け、一部が城の内側へと引き返していくのが見えた。
「……セリスが動いたな」
思わず笑みを浮かべる。
セリスの陽動作戦が上手くいったのだ。彼女が率いた別働隊は、無人の城下町を進軍し、ついに城塞都市に侵入する方法を見つけたのだろう。
「セリス、部隊の状況を教えてくれ」
となりにいるセリスに確認すると、彼女は小さくうなずいた。
「城壁の内側に入り込んだ。ライアスは監視のための警備兵を配置していたけど、広範囲に部隊を展開させていて、それが逆に隙を生んでしまった。気づかれないように彼らの駒を一体ずつ確実に仕留めたの。今は城門にいる兵士を制圧してるところ」
「よくやった、セリス!」
彼女は得意げな表情で応える。
けれど、ライアスも当然この状況を放置するはずがない。城壁内での動きを察知した彼は、すぐに迎撃部隊を送り込んできた。
城の守備兵が急いで配置を変えたのは、そのせいなのだろう。
「このチャンスを逃すわけにはいかない、主力部隊は突撃を開始してくれ」
僕は迷わず指示を飛ばした。
重装歩兵を中心とした主力部隊が川を渡り始める。けれどまだ完全に攻め込むつもりはない。ただ、敵にさらなる混乱を与え、セリスたちの攻撃を支援するための陽動だ。
「まだ防御を崩すな!」
「盾をしっかり構えて前進しろ!」
「敵の注意を引きつけるんだ!」
クラスメイトたちが声を掛け合いながら駒を進めていく。
そこで戦場の空気が変わり始める。敵の隊列が乱れ、ライアスの指揮にも若干の迷いが生じるようになる。
城壁を制圧したセリスの部隊が城門を開け放ったとき、勝負は決まるだろう。
けど油断は禁物だ。ライアスが反撃する瞬間に備えながら、僕は冷静に次の指示を与え続けていた。
「盾を掲げるんだ! 突撃開始!」
僕の声が戦場に響くと同時に、重武装の主力部隊が一斉に突撃を開始した。
兵士たちは盾を頭上に掲げながら、矢の雨の中を駆け抜ける。
城壁に立つ敵兵が放つ無数の矢が空を覆い尽くすが、兵士たちは盾をしっかりと構え、攻撃をものともせずに前進する。
「今だ、一気に攻めるんだ!」
クラスメイトたちの声に従い、駒たちは次々と城壁に取りついていく。
激しい攻撃にも屈せず、梯子をかけるその姿に、敵兵は焦りを見せ始めていた。
すると敵の動きが変わる。ライアスが城内に戻っていた部隊を再配置し、こちらの動きを食い止めようとしているのが見えた。
「焦ってるな……けど、もう遅い」
そして、その時がやってきた。
「門が開いたわ!」
セリスの部隊は敵の隙をついて城壁内に侵入し、ついに巨大な門を開放したのだ。
それはライアスの痛恨のミスだった。一瞬の油断が招いたミスに彼は憤慨するが、すぐに冷静さを取り戻すと、門の前に兵士を集めていく。
「……何だ、あれは?」
門の向こう側で、ライアスの駒が奇妙な行動を始めた。彼は部隊の駒を次々と犠牲にし、何かを召喚しようとしている。
それはまるで、悪魔の儀式のような光景だった。
やがて地面が激しく震え出す。そして次の瞬間、門の前に巨人があらわれた。
その巨人は全身を分厚い鎧で覆い、周囲を圧倒するほどの威圧感を放っていた。その存在感だけで、クラスメイトたちは動揺して駒の動きを止めてしまうほどだった。
「な、なんだあれは……?」
困惑した僕は、思わず審判を務める教官のほうに視線を向けた。しかし教官たちは無反応だ。
どうやら駒を犠牲にして新たな兵士を召喚する行為は、ルール上認められているらしい。確かに、セリスも偵察用の鳥を召喚するために駒を使っていた。条件は同じだ。
けどライアスが召喚したものは規格外だ。巨人の一撃がどれほどの威力を持つのか、想像するだけで背筋が凍る。
「全軍、距離を保て! 弓兵を前に出せ!」
僕はすぐに冷静さを取り戻し、指示を飛ばした。
セリスもとなりで唇を引き結び、緊張した表情を浮かべている。
巨人を倒せば勝機が見えてくるが、戦いはさらに熾烈さを増していく。
巨人が立ちはだかるなか、主力部隊を前線に送り込んで戦わせる。その巨体から繰り出される攻撃は地震のような衝撃を伴い、盾を構えた兵士たちを弾き飛ばしていく。
その間にも、城壁からは容赦なく矢が降り注ぐ。主力部隊は耐えていたが、長くは持たないだろう。けれどその攻撃も、時間とともに徐々に減り始めていた。
「……セリスだな」
場内に進入していたセリスの部隊が、敵の弓兵や魔術師を次々と倒しているのだ。彼女の駒は少数精鋭であり、隠密行動に特化している。
城内を駆け回りながら敵の戦力を削ぎ取っていくその動きは、まさに精密な刃だった。
しかしそれも長くは続かなかった。
ライアスが送り込んだ増援に囲まれた駒たちは、やがて全滅してしまった。それでも、城壁に立つ敵を大きく減らした功績は計り知れない。
セリスの奮闘で敵が混乱するなか、すかさず次の指示を出す。
「投石機を用意しろ! 狙うは城門から出てきた敵兵と巨人だ!」
巨大な石弾が轟音を伴いながら空を切り裂き、ライアスの兵士たちと巨人に降り注ぐ。
「直撃だ!」
投石部隊を率いるクラスメイトの声が上がる。
巨人の肩口に石弾が命中し、その衝撃で巨人はぐらついた。
ライアスは混乱していたのか、それとも戦況を読み間違えたのか、投石機の脅威を見逃していたのだろう。おそらく仲間からの警告はあったはずだ。
けれど彼はその忠告を無視した。
「巨人が倒れた!」
クラスメイトの中から歓声が上がる。最後の石弾が巨人の膝を砕き、その巨体が崩れ落ちたのだ。
「全軍、攻め込め!」
僕は拳を握りしめて命令を下した。
巨人を失った敵軍は士気を失い、混乱に陥っていた。僕たちはここぞとばかりに攻め立て、セリスが切り開いた城壁内へと突入した。
僕たちは残存する敵兵を排除しながら、ライアスの最後の砦である本丸を占拠するべく進軍を続けた。
そして――
「これで終わりだ!」
僕の声が響くと同時に、最後の駒が倒れた。
「勝った……!」
仲間たちが歓声を上げるなか、僕は肩の力を抜いて深呼吸した。
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