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第二章:騎士学校・中等部
第17話 激戦!
しおりを挟む決勝戦が始まるまでに、ライアスが揉め事を起こすだろうと予想していた。
これまで彼のやり口を見てきたからなのか、裏で汚い手を使ってでも僕らを出し抜こうとすると思っていたんだ。
けど意外なことに、ライアスは正々堂々と試合に挑むつもりだった。
「妙だな……あいつがこんなに静かだなんて」
すると、となりに立っていたセリスが微笑む。
「本当はウルとの勝負を楽しみにしてたんじゃない? 正々堂々と戦うことで、自分の強さを証明したいのかも」
本当にそうなのだろうか?
これまでの彼の言動を見ていれば、それは疑わしかったし、繊細で多感な子どもが数週間で変わるとは思えなかった。
けど、それでも構わない。この決勝戦で彼に勝ち、僕たちの力を証明するだけだ。
試合開始の時間が迫るなか、僕らは作戦の最終確認を行っていた。
「川の渡り方が重要になるな……」
クラスメイトのひとりが地図を指しながら言う。
「水流を逆手に取るか、それとも橋を使うか、あるいは……」
話し合いは白熱していく。
決勝戦では各クラスに事前に戦場が伝えられていて、今回のバトル・フィールドは川を挟むようにして築かれた城塞都市だった。
どちらが攻める側で、どちらが防衛側になるかは、試合開始直前まで分からない仕組みになっていた。
セリスは地図をじっと見つめ、思案顔で言う。
「防衛側になったら、まずはどれだけ初期配置で優位な位置を取れるかがカギになると思う。攻める側だったら、正面突破は難しいから……側面や裏手を狙うしかないかも」
彼女の言葉にうなずく。
「そのどちらにも対応できるよう、準備を進めよう。あとは現場で判断するしかない」
そして、ついに試合開始の時間がやってきた。
会場に入ると観客席から大歓声が湧き上がる。決勝戦の舞台となるだけあって、フィールドの規模も装飾も格別だ。
対する相手は、クラス〈キング〉。そしてクラス代表はライアスだ。
バトル・フィールドを挟むようにして、遠くにライアスの姿が見えた。彼の表情には、いつもの冷笑も挑発もない。ただ純粋な闘志が瞳に宿っている。
そして僕らは言葉を交わすことなく試合の開始を待つ。
フィールド中央の川が、この戦いのカギを握る。渡河をどうするか、どのように城壁を攻めるのか、すべては瞬時の判断にかかっている。
ライアスの視線が鋭くこちらに向けられる。その瞳に宿る意志を受け止めながら、僕も気持ちを切り替えていく。
そして試合開始の鐘の音が高らかに響き渡り、ついに戦いの幕が上がる。
試合開始と同時に、目の前のフィールドが光の波を描きながら形成されていく。
川の流れが作られ、対岸には堅牢な城壁がそびえ立つ。その向こう側に塔が連なる城塞都市が見えた。
バトル・フィールドの形成が完了すると、次は戦闘に使用される駒が形成されていく。地面に光の模様が浮かび上がり、そこから次々と兵士たちが具現化されていった。
決勝戦では、魔素さえあれば無限に駒が生成できる形式ではなく、最初に配置される駒の数がすべてだ。それ以上の追加召喚は一切認められない。
つまり、どの駒をどう動かし、どこで使い捨てるかの判断が試合の成否を決める。
僕たちの陣営は、攻める側として六百体の駒が用意されていた。一方、ライアス率いる防衛側は三百体。
「数では勝っているけど……それでも城を攻略するには少なすぎる」
攻め手としての難しさは、このフィールドにおける地形そのものだ。
川を越えて敵の城塞に攻め込む必要がある。橋は二か所だけ。川を無理に渡ろうとすれば流れに飲み込まれ、仮に橋を渡れたとしても敵の狙撃にさらされることになる。
防衛側の駒は攻撃に有利な要塞に配置されていて、弓兵と魔術師の配置が極めて強力だ。一方で、こちらは数を頼りにしながら敵陣に突っ込むしかない。
「全員、配置を確認しろ!」
僕は振り返り、クラスメイトに声を掛けていく。
「セリス、偵察用の鳥の駒をすぐに出せるか?」
「もちろん!」
セリスは兵士の駒を犠牲にして偵察用の駒を形成する。彼女の視界と共有されるこの駒は、敵の布陣を見極めるために不可欠だった。
川の流れの速さ、城壁の高さ、敵の配置。そのすべてを詳細に調べあげていく。
厳しい戦いになるけど、僕たちは勝たなければならない。
「行くぞ!」
僕の指揮のもと、六百体の駒が一斉に動き始める。
重武装の主力部隊が、まるで要塞そのもののように川岸に布陣する。大盾を構えた歩兵たちが前線を固め、その背後には弓兵と槍兵が控えている。
その光景は圧倒的な物量を示していた。
「よし、このまま敵の注意を引きつける」
僕は前線に指示を飛ばしながら、側面に展開した別働隊の進軍状況を確認する。
北側の川沿いを進む軽装部隊は、セリスから指示を受けながら、目立たないように移動していた。
歩兵が目指すのは、城の側面に位置する城下町。
直接城内に入るのは無理でも、町を経由して侵入の糸口を探る作戦だ。
問題は城を囲む高い壁だった。どこかに侵入できる場所があるはずだけど、それを見つけるには時間がかかる。
刻一刻と本格的な衝突が迫る緊張感の中で、別働隊は注意深く進軍を続けていた。
「敵の動きはどうだ?」
質問にセリスは顔をしかめる
「まだ私たちの動きに気がついていないみたいだけど……何か嫌な予感がする」
異変が起きたのは、ちょうどそのときだった。
「来る!」
クラスメイトの言葉と同時に、城壁から無数の矢が降り注いできた。
「盾を上げろ! 全員防御の姿勢だ!」
前線の兵士たちが即座に大盾を掲げ、矢の雨を防いでいく。無数の矢が盾に突き刺さり、重い音が響く。
その中で手足を破壊される駒も出始めていたが、誰も退かない。
「投石機を前に出せ!」
僕はすかさず次の指示を出す。
投石機が重々しい音を立てながら前線に展開される。大きな岩を乗せたアームが勢いよく振り上げられ、次の瞬間、巨大な石弾が城壁に向けて放たれた。
「着弾!」
岩が城壁に衝突し、石の破片が四散する。けれど城壁は簡単には崩れない。
「もっと撃ち込め! 城壁を揺さぶって、敵の注意を逸らすんだ!」
その間にも敵の攻撃は激化していく。再び降り注ぐ矢の雨に加え、城壁の歩廊に立つ魔術師から〈火球〉が放たれるようになる。
「これは厳しいな……」
僕は歯を食いしばりながら戦況を見つめた。
戦場は混沌を極めていたけど、僕らの作戦は着実に進行していた。この激しい戦闘の中、勝利への糸口を掴むための駆け引きが続いていく。
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