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第一章:少年期
第23話 クエスト報酬!
しおりを挟む無事に事件を解決して家路につくころには、空は茜色に染まっていて、長い影が大通りに伸びているのが見えた。
夕日が遠くの尖塔を黄金色に染め上げていて、帝都全体がどこか幻想的な雰囲気をまとっていた。
僕たちの足取りは重く、少し疲れていたけれど、それでも今日一日の成果に心のどこかで満足感を抱いていた。
屋台が並ぶ通りを歩いていたときだった。視線の先に見知った豹人の姿が見えた。
カチャは長い尻尾を揺らしながら、屋台の店主と談笑していた。彼女の艶やかな黒い体毛が夕日の光を浴びて輝いて、一際目を引く。
僕たちの姿を見つけると、彼女は満面の笑みを浮かべながら手を振る。
「待ってたよ、おチビちゃんたち」
彼女の声はどこか楽しげで上機嫌だった。
「無事に仕事が終わったみたいね」
彼女は手早く報酬を渡してくれた。小さな布袋の中で硬貨が音を立てる。
「おめでとう、試験は合格だよ」
「……試験?」
僕とラティは、ほぼ同時に顔を見合わせた。突然の言葉に、状況が飲み込めない。
「今回の依頼はね、君たちの実力を測るためのものだったの」
彼女はニヤリと笑ってみせたあと、僕たちに串焼きを渡してくれた。もちろん、ゴーストの分も用意されていた。
どうやらこの依頼は、はじめから僕たちの実力を確かめるためのモノだったのだという。
彼女は徴税人が殺されていたことも、その犯人のことも知っていた。そのうえで、僕たちがどのように行動するのか、ずっと見守っていたのだという。
ラティは驚いて口を半開きにしたまま、ポカンと彼女の顔を見つめている。
「そんな顔しないで」
カチャは軽く肩をすくめたあと、悪戯っぽい笑みを浮かべながら続けた。
「犯人をどう扱うのか、情報をどう集めるのか、そして危険な状況でどのように動くのか。そのすべてが、ある種の試験として機能していた。結果は……合格ってわけ」
それから彼女は思い出したように言う。
「税金もくすねなかったし、ソシウスから与えられた仕事も文句ひとつ言わずに達成した。そして何より、ふたりは犯人を殺さなかった。それがとくによかった。〈盗賊組合〉には絶対のルールがある。それはとても簡単なこと。わたしたちは殺しをしないの」
カチャは腕を組んだあと、満足げにうなずいた。尻尾がゆっくりと左右に揺れているのは、気分がいい証拠なのだろう。
彼女が僕たちのことを認めてくれていることは純粋に嬉しかったけれど、同時に、どこか居心地の悪さを感じさせるものがあった。
僕の表情から何かを読み取ったのか、彼女はニヤリと笑ってみせた。すると鋭い牙が夕日を反射して光るのが見えた。
「おチビちゃんたちは、これで正式に〈盗賊組合〉に入る資格を得たわけだ」
ラティが不安げに口を開く。
「えっと……でも僕たち、盗賊になりたいなんて言ってないけど?」
その言葉に彼女はクスクス笑ってみせた。
「意思なんて関係ないのさ。すでに君たちは充分な実力を示したし、組合との取引の実績もある。身元もしっかりしているし、何より、君たちには〝見込み〟がある」
通常なら、もっと厳格な審査が行われるようだ。能力や組織に対する忠誠心、どれも徹底的に調べられる。ほとんどの人はそこで弾かれて試験すら行われない。
でも何の因果か、僕たちには試験を行う機会が与えられて、見事ソレに合格することができた。
彼女は僕たちのことをまじまじと見つめる。すると黄色い眼が金色に輝くのが見えた。どこか本質を見透かされているようで、思わず緊張してしまう。
「でも、それってつまり……僕たちは〈盗賊組合〉の一員ってこと?」
ラティの言葉に彼女はうなずく。
「その通り。これから君たちは堂々と〈盗賊組合〉の構成員だと名乗れるわけだ。……まぁ、〝堂々と〟っていうのは言葉の綾だけどね」
軽い調子の言葉に反して、その言葉の裏には重みが感じられた。
それでも僕は、求めてもいない枠に無理やり押し込められたような、そんな嫌な感覚がして落ち着かなかった。
「もちろん、君たちには選ぶ権利がある。このまま組合に入るか、それとも拒否するか。でもさ、こんなチャンスを逃すわけにはいかないよね」
僕は彼女から視線をそらすと、ラティの顔を見つめる。彼は一瞬戸惑ったような表情を見せたけど、すぐにうなずいて見せた。
「せっかくのチャンスだ。無駄にすることはできない」
覚悟を決めた僕たちの目を見て――カチャは満足そうに微笑んだ。
「それじゃあ、手首を出して」
ラティに向かって腕を差し出すと、彼女の指先が光るのが見えた。彼女は模様を描くようにして、僕たちの手首を撫でていく。すると淡い光が肌に染み込むようにして消えていくのが見えた。
次の瞬間、肌に微かな温もりを感じたかと思うと、刺青のような模様が浮かび上がる。それは鎖のような形状で、ぐるりと手首を一周している。
「これが〈盗賊組合〉の証よ。普段は見えないようになっていて、特別な魔術にしか反応しないから安心して」
ゴーストを従魔として登録したときの〈契約魔術〉のことを思い出す。あのときに浮かび上がった模様も、特殊な魔術がなければ見えないモノだった。
彼女の言う通り、しばらくして鎖を思わせる模様は消えてしまう。
「これで君たちも正式な構成員ってわけね。さて、それじゃ本当の報酬を渡すね」
カティは背負っていた革の背嚢から、いくつかの巻物を取り出した。羊皮紙だと思われる巻物の表面には、精密な呪文が描かれている。
僕たちが驚いた顔をすると、彼女は満足そうに尻尾を揺らした。
「まずは気配を消せるようにする〈隠密〉の魔術と、それから〈消音〉の魔術。これは猫人なら種族特性として身についている能力だけど、足音を完全に消せる便利な魔術よ。そしてこれが〈解錠〉の魔術を習得する巻物。鍵開けに使える便利な魔術で、これから必要になるものだよ」
ラティが目を丸くして巻物を受け取る。
「これ……とても高価なモノだと思うけど、俺たちがもらってもいいのですか?」
「気にしないで、君たちはもう組織の〝見習い〟なんだから」
カチャは満足げにうなずいて、それから僕たちに向き直った。
「今日はゆっくり休んでね。明日から仕事をしてもらうことになるから、朝食を取ったあと、忘れずに噴水がある広場に来てね」
それから彼女は軽く手を振って、まるで霞に溶け込むようにしてその場から姿を消した。
僕たちは何も言わず、しばらく立ち尽くしたまま手にした巻物を見つめていた。
これから先の未来がどんなものになるのか――その期待と不安が、夜風に混じって胸をざわつかせていた。
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