悪役令嬢の騎士

コムラサキ

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第一章:少年期

第17話 戦利品!

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 探索の翌日、僕たちは市場にやってきていた。

 迷宮で手に入れた戦利品の鑑定をしてもらうためだ。市場の通りは多くの買い物客で賑わっていて、歩くのもやっとだったけど、僕たちの足取りは軽かった。

 以前も訪れていた鑑定屋につづく道は、薄暗い裏通りを抜けた先にある。周囲の喧騒から離れると、ひんやりとした静けさに包まれる。

 しばらく歩くと、片眼鏡が彫りこまれた木製の看板が見えてくる。質素だけど、一目でソレと分かる看板を見つけると、自然と胸が高鳴る。

 扉を開けると、数え切れないほどの書物や〈遺物〉で埋もれたカウンターの奥に年配の店主の顔が見えた。



 僕とゴーストのことを覚えてくれていたのか、笑顔で迎えてくれる。

 短い挨拶を交わしたあと、僕たちは迷宮から持ち帰った杖や指輪、それに巻物スクロールをカウンターに並べていく。

「今日も鑑定をお願いします」

 店主は僕たちが持ち込んだ品々をじっくりと眺めたあと、少し驚いたように眉をひそめるけど、すぐに作業に取りかかってくれた。

 子どもが貴重な品を持ち込むことに疑問を抱いている様子が見て取れたけど、さすがプロフェッショナルだ。

 余計な詮索をすることなく、自分の仕事に専念してくれた。

「このお店に来て正解だったみたいだな」
 ラティが興奮気味に言う。

 僕はラティの言葉に同意するように、小さくコクリとうなずく。

 実際のところ、素晴らしい鑑定士にめぐり会えた幸運に僕は感謝していた。あるいは、神々の加護に幸運をもたらす効果があったのかもしれない。

 いずれにせよ、僕らは期待しながら鑑定結果を待つことにした。

 店主は熟練した手つきで、ひとつひとつの品を細かく調べていく。鑑定のさいには、瞳の色が微妙に変化するのが見えた。魔素まそに反応して色合いが変化しているのかもしれない。

 僕たちは期待に胸を膨らませながら、その様子をじっと見守っていた。ラティも僕の横で大きな眼を輝かせていたけど、ゴーストは不思議そうに首をかしげていた。

 最初に鑑定にしてもらったのは、小鬼ゴブリンが隠し持っていた〈指輪〉だ。一見すれば、どこにでもありそうなシンプルな銀の指輪だ。宝石や装飾もなく、特別なモノには見えない。

 あちこちに使い込まれたような擦り傷があるけど、小鬼が雑に扱ったせいなのかもしれない。

 期待していなかったけど、いざ鑑定が終わると、その指輪に体内の魔素を増やす効果があることが分かった。

「大気中から体内に取り込める魔素の量を、ほんの少しだけ増やしてくれる効果があるみたいだな」

 店主は片眼鏡の位置を直しながら、子どもでも分かるように簡単に説明してくれた。
「些細な変化だが、魔術師なら身につけていても損はないだろう」

 たしかに魔術師にとって魔素の量が増えるのはいいことだ。集中力や体力を温存しながら、少しずつ魔素を蓄えることができるこの指輪は、地味ながらも実用的だと分かった。

 魔術を使う僕には魅力的な〈遺物〉だけど、これからの探索のために装備を買いそろえなければいけないので、売るかどうか悩んでしまう。

 つぎに鑑定してくれたのは、小鬼の寝床で見つけた短いワンドだ。

 店主の手に握られた細い杖は魔術を使用するさいに、魔素を制御しやすくなる効果があるという。しかし市場でも簡単に手に入る低級のモノだという。

「貴族の坊ちゃんが魔術の練習用に購入するモノだな」と、店主は鼻を鳴らす。

 僕の魔術に関して言えば、ほとんど自己流だったし、魔素を自力で制御するのにも慣れていた。だからこの杖は売ることにした。それなりの金額で売れたら儲けものだ。

 それからホブゴブリンから手に入れたロングソードも鑑定してもらった。

 重厚な刀身がロウソクの灯りをゆらゆらと反射して、その見た目からして質が良さそうに見える。

 けれど特別な効果は付与されていないようだ。残念だったけど、それでも売り物になるので、そこまでガッカリはしていなかった。

「品質はいいからな」と、店主は言う。
「こういう頑丈な剣は、それだけで買い手がつくから、きっと高値で売れるだろう」

 それから古代文字が彫り込まれた短剣も見てもらう。

 ラティがカウンターに短剣をのせた瞬間、何か独特な気配を感じたのかもしれない。店主の目が光るのが見えた。

 店主は両手で短剣を持ち上げると、古代文字をじっくり観察して、それから口を開く。

「この短剣には、小鬼に対して力を発揮する魔術の効果が付与されているようだ」

 店主の言葉に僕は驚いてしまう。どうやら特定の敵に対してのみ効果を発揮する〈遺物〉が存在するようだ。

 力のないラティでもホブゴブリンの脇腹を斬り裂けたのは、きっとその効果が付与されていたおかげなのだろう。鑑定の結果に僕たちは納得してしまう。

 小鬼がこの短剣を使わなかったのも、その効果を嫌がっていたからなのだろう。

 それから、とくに期待していなかったバックラーの鑑定が始まった。丸い盾の表面に小さな刻印があるのを見て、店主の目が光るのが見えた。

「この小さな盾には魔術に対する抵抗効果が付与されているようだ。防御面では頼りないかもしれないが、少なくとも魔術の衝撃を和らげるには役立つかもしれないな」

 僕たちにとって、それはとても有用な効果だった。

 魔術に対して何の対策もできていなかったので、少しでも魔術に耐性があるモノは貴重だった。

 それに小さくて軽いので、戦闘での負担も少なそうだ。

「これもお願いします!」
 ラティが緊張しながら巻物を差し出すと、店主は思わず笑顔を浮かべて、それから巻物を鑑定してくれた。

 古びた皮紙に書きこまれた模様は、ロウソクに反応して神秘的な光を放っている。店主は巻物をじっくりと調べたあと、眉をひそめながら言った。

「どうやら低級の支援魔術が覚えられるようだな。あまりにも古いモノだったから、実際の効果までは分からなかったが……そうだな、たとえば身体能力を少しだけ向上したり、防御力を上げたりする類のものだろう」

 低級とはいえ、支援魔術を取得できる巻物は貴重だ。市場に出せば高値で売れることが期待できる。けれど売る前に、自分たちで使うという選択肢もある。

 そして最後に鑑定してもらったのは、小鬼から手に入れていた銀貨だった。今も輝きを放つ古代の銀貨には独特の模様が彫り込まれていて、時の重みを感じさせる。

 それを手に取った店主は、驚きと興味が混ざったような目でしばらく銀貨を見つる。

「これは……とても希少なものだ」

 古代の貨幣なので帝国では使えないけど、愛好家がいて高値で取引されているようだ。金属自体が希少なモノで、精錬して再利用する者もいるらしい。

 ただの銀貨に見えたけど、希少な金属だったようだ

 まさか古代の銀貨にそんな価値があるとは思ってもいなかった。愛好家がいるということは、興味を持つ貴族や商人が高値で買い取ってくれる可能性があるということだ。

 資金が必要な僕たちにとって、それは価値のある戦利品だった。鑑定が終わると僕たちは鑑定の代金を払い、店主に感謝してからお店をあとにした。
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