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第一章:少年期
第3話 はじめての組合
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説得から数日、俺は母さんと一緒に組合にやってきていた。
この世界にはいくつかの組合がある。トブさらいから戦争まで、ありとあらゆる仕事を請け負う〈傭兵組合〉、魔術を探求するエリート集団〈魔術師組合〉、そして政府公認の暗殺を生業とする〈暗殺組合〉まで、ありとあらゆる種類の組合が存在する。
そこで僕が資金調達のために選んだのは、この組合だった。
「見習いとして、僕を雇ってくれませんか?」
すると受付の青年は困ったような表情を見せた。かれは妖精族で――多くのファンタジー作品に登場するエルフと言えば想像しやすいだろう――だったので、とても綺麗な顔立ちをしていた。
青年は、「ふむ」と腕を組んで、それから言った。
「君は、ここがどういう場所なのか知っているのかい?」
青年の優しい声に応えるように、僕は大きくうなずいてみせた。
「それでは、この紙に必要事項を記入してください」
綺麗な顔立ちの青年は、僕の母親にではなく、ちゃんと僕に申し込み用紙を手渡して、それから組合について説明してくれた。僕は用意してもらった椅子にちょこんと座って、さらさらと必要事項を書いていく。
貴族と比べて市民は識字率が低いからなのか、青年は僕が文字を書いているのを見て驚いているようだった。
しかし無理もない。僕だって徐々に記憶を取り戻しいく過程で知識の重要性に気がついて、母親に教えてもらいながら一生懸命に勉強してきたのだから。
傭兵組合では子どもの登録も受け付けているけど、帝都内の管理された森で薬草を集めるような、子どもでもできる簡単な仕事を斡旋してくれている。
以前、お小遣いを稼ごうとしてやろうとしたけれど、それは女子の仕事だと近所の子どもたちに笑われてから興味を失くしていた。
しかし記憶を取り戻していく過程で、その仕事がどれほど重要なもので、そこに男子も女子も関係のないことだと分かってからは考えが変わった。
たしかに僕の精神は小さな身体に合わせて幼くなっていたけど、カッコ悪い、という理由だけでお小遣いが稼げるチャンスをみすみす見逃すのも変な話だ。
なにより、その広大な人工の森は僕が目指す地下牢につながっているのだ。
「それでは、このカードに血液を垂らしてください。大丈夫、痛みはありません」
青年に言われたとおり金属質のカードに指を近づけると、目に見えない針で刺されたような感触がして、血が一滴だけ垂れて、カードに触れた瞬間に微かに発光するのが見えた。
「これで登録完了です。このカードは貴重なモノなので、失くしてしまわないように注意してください」
失くしてしまっても再発行ができるけど、それにはお金がかかるという。それに、カードは個人情報を取り扱うIDカードとしての機能の他に、報酬が振り込まれる銀行口座としても機能するので注意しなければいけない。前世でも情報端末をつかっていたが、その代わりとして充分に役立ってくれると思う。
こうして僕は〈傭兵組合〉に所属する立派な人間になった。まだ見習いで、一番低い階級だったけど、気にすることなく毎日欠かさずに薬草拾いを続けることにした。
ここでお金の価値と、報酬について説明しておこう!
まず薬草拾いの報酬は――回収できた薬草の数で変動するけど、一日でだいたい10ディレンだ。〈ディレンニ帝国〉の通貨だから〈ディレン〉と呼ばれているらしい。この銀の貨幣には、だいたい日本円で1000円ほどの価値があると考えて大丈夫だろう。
そうして、こつこつと薬草拾いをつづけて三か月ほど経ったころ、受付の青年に声を掛けられる。いつものようにお菓子をもらえるのかと思っていたけれど、今日は違うようだ。
「フェル君に頼みたい特別な仕事があるんだ。いつものように薬草を集めてもらう仕事だけど、帝国が管理する区画で薬草を集めてきてほしいんだ。君の仕事は丁寧だし、信頼できる。だから普段は入れない場所だけど特別に許可がもらえたんだ。どうだい、素敵な場所だし、一度は見てみるのもいい経験になると思うんだ」
もちろん僕は了承した。そもそも、その管理区域に入ることが目的だったのだ。
依頼を受けてから数日、僕は組合が発行した許可証を手に、広大な森の入り口に立っていた。
ちなみに森は公園としても側面もあって、普段は家族連れや恋人たちが行き交う賑やかな場所になっている。しかし帝国が管理する場所は公園の深い場所にあるため、どこか陰鬱な雰囲気が漂っていた。
この世界にはいくつかの組合がある。トブさらいから戦争まで、ありとあらゆる仕事を請け負う〈傭兵組合〉、魔術を探求するエリート集団〈魔術師組合〉、そして政府公認の暗殺を生業とする〈暗殺組合〉まで、ありとあらゆる種類の組合が存在する。
そこで僕が資金調達のために選んだのは、この組合だった。
「見習いとして、僕を雇ってくれませんか?」
すると受付の青年は困ったような表情を見せた。かれは妖精族で――多くのファンタジー作品に登場するエルフと言えば想像しやすいだろう――だったので、とても綺麗な顔立ちをしていた。
青年は、「ふむ」と腕を組んで、それから言った。
「君は、ここがどういう場所なのか知っているのかい?」
青年の優しい声に応えるように、僕は大きくうなずいてみせた。
「それでは、この紙に必要事項を記入してください」
綺麗な顔立ちの青年は、僕の母親にではなく、ちゃんと僕に申し込み用紙を手渡して、それから組合について説明してくれた。僕は用意してもらった椅子にちょこんと座って、さらさらと必要事項を書いていく。
貴族と比べて市民は識字率が低いからなのか、青年は僕が文字を書いているのを見て驚いているようだった。
しかし無理もない。僕だって徐々に記憶を取り戻しいく過程で知識の重要性に気がついて、母親に教えてもらいながら一生懸命に勉強してきたのだから。
傭兵組合では子どもの登録も受け付けているけど、帝都内の管理された森で薬草を集めるような、子どもでもできる簡単な仕事を斡旋してくれている。
以前、お小遣いを稼ごうとしてやろうとしたけれど、それは女子の仕事だと近所の子どもたちに笑われてから興味を失くしていた。
しかし記憶を取り戻していく過程で、その仕事がどれほど重要なもので、そこに男子も女子も関係のないことだと分かってからは考えが変わった。
たしかに僕の精神は小さな身体に合わせて幼くなっていたけど、カッコ悪い、という理由だけでお小遣いが稼げるチャンスをみすみす見逃すのも変な話だ。
なにより、その広大な人工の森は僕が目指す地下牢につながっているのだ。
「それでは、このカードに血液を垂らしてください。大丈夫、痛みはありません」
青年に言われたとおり金属質のカードに指を近づけると、目に見えない針で刺されたような感触がして、血が一滴だけ垂れて、カードに触れた瞬間に微かに発光するのが見えた。
「これで登録完了です。このカードは貴重なモノなので、失くしてしまわないように注意してください」
失くしてしまっても再発行ができるけど、それにはお金がかかるという。それに、カードは個人情報を取り扱うIDカードとしての機能の他に、報酬が振り込まれる銀行口座としても機能するので注意しなければいけない。前世でも情報端末をつかっていたが、その代わりとして充分に役立ってくれると思う。
こうして僕は〈傭兵組合〉に所属する立派な人間になった。まだ見習いで、一番低い階級だったけど、気にすることなく毎日欠かさずに薬草拾いを続けることにした。
ここでお金の価値と、報酬について説明しておこう!
まず薬草拾いの報酬は――回収できた薬草の数で変動するけど、一日でだいたい10ディレンだ。〈ディレンニ帝国〉の通貨だから〈ディレン〉と呼ばれているらしい。この銀の貨幣には、だいたい日本円で1000円ほどの価値があると考えて大丈夫だろう。
そうして、こつこつと薬草拾いをつづけて三か月ほど経ったころ、受付の青年に声を掛けられる。いつものようにお菓子をもらえるのかと思っていたけれど、今日は違うようだ。
「フェル君に頼みたい特別な仕事があるんだ。いつものように薬草を集めてもらう仕事だけど、帝国が管理する区画で薬草を集めてきてほしいんだ。君の仕事は丁寧だし、信頼できる。だから普段は入れない場所だけど特別に許可がもらえたんだ。どうだい、素敵な場所だし、一度は見てみるのもいい経験になると思うんだ」
もちろん僕は了承した。そもそも、その管理区域に入ることが目的だったのだ。
依頼を受けてから数日、僕は組合が発行した許可証を手に、広大な森の入り口に立っていた。
ちなみに森は公園としても側面もあって、普段は家族連れや恋人たちが行き交う賑やかな場所になっている。しかし帝国が管理する場所は公園の深い場所にあるため、どこか陰鬱な雰囲気が漂っていた。
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