雨の向こう側

サツキユキオ

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3日目

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 佑月は二人の部屋に避難していた。彼女は無気力だった。何をする気も起らなかった。
「山峯さんが来たよ」
 小田が彼女の背中をさする。佑月はゆっくりと顔を上げた。山峯が困ったような顔でこちらを見下ろしている。
「長谷さんたちとは全然別の場所に部屋取ったから、今夜はそっちで一緒に寝よう」
 彼女はいかにも優しげな声で話しかけてくる。佑月は顔を上げずにゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、亀山さんのことをお願いね」
「うん、二人で部屋に籠ってるよ。5日目まで待つのは大変かもしれないけど」
 山峯が背中をさするが、その気遣いが気持ち悪くて佑月は歩みを速めた。
 部屋を出て静まり返った施設の中を歩く。
「亀山さんの荷物も私が集めておいたから、部屋に置いてあるよ」
 彼女は気遣いのつもりなのか、ひどく優しい声でそう言った。
「あんまりだよね、あの二人。いくらパニック状態だからってあんな風にカメちゃんの荷物をめちゃくちゃにするなんて。人としてどうかと思う」
 彼女は佑月に寄り添っているつもりなのだろう。雄弁に彼女たちを批判する。佑月はこみあげてくる笑いをこらえるのに必死だった。
 傍観していた彼女とて佑月にとってはあの二人と同列であった。彼女はかの狂乱の中何も言わずに立ち尽くしていただけなのだから。彼女が佑月を気遣う素振りを見せたのはあの二人が完全に姿を消したからであり、その行動にはさもどちらにも良い顔をしようという意思の弱さが明らかであった。
 佑月はほとんど無言のまま彼女と同じだという部屋に入った。部屋の構造は昨日まで過ごした四人部屋と全く同じものであった。あの二人とは階層が異なるらしい。食事などの配布も山峯が言ってくれるというので佑月は少なからず気が楽になった。
「ごめん、疲れたから寝るね」
「うん分かった。ご飯の時間になったら声をかけようか?」
 彼女の提案に佑月は首を横に振った。今はとにかく眠りたかったし、構ってほしくなかった。佑月は布団に潜り込む。ひんやりとした布団の感触にどこか雨の冷たさを感じた。
 目が覚めたら自室のベッドでありますように。彼女はそんなことを考えながら眠りに落ちていった。

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