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1日目
⑥
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今日の午前9時、最寄りの駅に集められた参加者はマイクロバスに乗せられてここまでやってきた。山道を30分以上の道のりである。当然施設の周りには自然しかなく、これは逃げられないぞと彼女は内心焦っていたのだ。しかも主催者の方針により着替え以外の荷物は全て講師の管理下にある。俗世と隔離して心身共にリフレッシュするのだという。佑月はスマートフォンと離れられる安心感よりも通信手段を奪われたことへの不安が強かった。しかし今のところプログラムは想像通りのものであった。ヨガをして健康的な食事をするというのも特に問題は無いように思えた。
「でもね、ご飯が合わないんですよ」
佑月はとうとう白状する。
食事も講師たちに管理されていた。彼女たちの指示するものしか食べてはいけない。
断食と言っても完全に食事を断つのはプログラムの中で三日目だけであった。断食に向けて食事の量を減らし、丸一日完全に断つ。そして翌日から徐々に戻していく。断食中でも水分の摂取に制限はないため、一見緩やかなこの断食プログラムにも惹かれたのだ。
しかし実際はどうだ。用意された食事はオートミールとスムージーなど、横文字のものばかりである。佑月は生憎そういったものに馴染みがなかった。手にしたことも、まして口にしたこともなかった。
ここで出される食事はどれも既製品のようだった。袋から出したオートミールを牛乳に浸して胃に流し込む。オートミールの味なのか、既製品ゆえの後天的につけられた味なのか、とにかく彼女の口には合わなかった。はっきりしない食感と噛めばすぐに崩れて口の中で溶けるそれの舌触りはどうしても吐瀉物を想像させる。穀物特有の甘さが口の中から喉の奥まではりついて気持ち悪くて仕方がなかった。そして飲み物と共にどうにか飲み込んだとしても胃にたどり着いた瞬間から体が拒否反応を示すのだ。
施設に到着して早々昼食に出されたそれらを口にした彼女であったが、吐き気と腹痛に襲われ慌ててトイレに駆け込んだのだ。幸い口から吐き出すことはなかったが、それでも腹痛と戦う数十分は壮絶なものであった。脂汗が全身から吹き出し何も出るものはないというのに体ばかりが一生懸命異物を排出しようとするのである。
そのときは長距離の移動で疲れていたのだろうと無理やり納得させたのだが、夕食時にも同じ症状が出て確信した。自分はこれを食べてはいけないのだと。
「オートミールなんて、鳥の餌ですよ」
鳥の餌、と繰り返してスバルは笑う。彼は気さくな人間であるらしかった。
「あんなぱさぱさした、なんの味だかよく分からないものを食べなきゃいけないなんて知りませんでした。噛んでいくと、なんていうのかな、変な甘さがあるでしょう? あれが駄目なんです。どうしても受け入れられなくて」
彼は笑いながら頷く。そこには変に話を合わせようという気遣いはないように思えた。彼は心から彼女の話に共感してくれているようだった。
「特にここのは独特ですよね。僕も食べられないことはないけど苦手です」
「あとスムージーも好きじゃないです。野菜の繊維が残っていると飲み込めなくて。それから青臭いし」
「同感です。人参が嫌いな人の気持ちが初めて分かりましたよ。野菜を摂取して青臭いと思ったのは初めてです。健康にはいいんでしょうけど、だからと言って積極的に飲もうとは思いませんね。どうせなら野菜炒めにしてくれればいいのに」
野菜炒め! そう言って今度は佑月が笑った。
「炒めてくれればこっちも困らないのに!」
「ついでに豚肉も入れてもらって」
「ええ、本当に!」
野菜炒めのことを考えていたら佑月の腹がきゅうっと縮んだ。そう、彼女は腹が減っているのだ。
「でもね、ご飯が合わないんですよ」
佑月はとうとう白状する。
食事も講師たちに管理されていた。彼女たちの指示するものしか食べてはいけない。
断食と言っても完全に食事を断つのはプログラムの中で三日目だけであった。断食に向けて食事の量を減らし、丸一日完全に断つ。そして翌日から徐々に戻していく。断食中でも水分の摂取に制限はないため、一見緩やかなこの断食プログラムにも惹かれたのだ。
しかし実際はどうだ。用意された食事はオートミールとスムージーなど、横文字のものばかりである。佑月は生憎そういったものに馴染みがなかった。手にしたことも、まして口にしたこともなかった。
ここで出される食事はどれも既製品のようだった。袋から出したオートミールを牛乳に浸して胃に流し込む。オートミールの味なのか、既製品ゆえの後天的につけられた味なのか、とにかく彼女の口には合わなかった。はっきりしない食感と噛めばすぐに崩れて口の中で溶けるそれの舌触りはどうしても吐瀉物を想像させる。穀物特有の甘さが口の中から喉の奥まではりついて気持ち悪くて仕方がなかった。そして飲み物と共にどうにか飲み込んだとしても胃にたどり着いた瞬間から体が拒否反応を示すのだ。
施設に到着して早々昼食に出されたそれらを口にした彼女であったが、吐き気と腹痛に襲われ慌ててトイレに駆け込んだのだ。幸い口から吐き出すことはなかったが、それでも腹痛と戦う数十分は壮絶なものであった。脂汗が全身から吹き出し何も出るものはないというのに体ばかりが一生懸命異物を排出しようとするのである。
そのときは長距離の移動で疲れていたのだろうと無理やり納得させたのだが、夕食時にも同じ症状が出て確信した。自分はこれを食べてはいけないのだと。
「オートミールなんて、鳥の餌ですよ」
鳥の餌、と繰り返してスバルは笑う。彼は気さくな人間であるらしかった。
「あんなぱさぱさした、なんの味だかよく分からないものを食べなきゃいけないなんて知りませんでした。噛んでいくと、なんていうのかな、変な甘さがあるでしょう? あれが駄目なんです。どうしても受け入れられなくて」
彼は笑いながら頷く。そこには変に話を合わせようという気遣いはないように思えた。彼は心から彼女の話に共感してくれているようだった。
「特にここのは独特ですよね。僕も食べられないことはないけど苦手です」
「あとスムージーも好きじゃないです。野菜の繊維が残っていると飲み込めなくて。それから青臭いし」
「同感です。人参が嫌いな人の気持ちが初めて分かりましたよ。野菜を摂取して青臭いと思ったのは初めてです。健康にはいいんでしょうけど、だからと言って積極的に飲もうとは思いませんね。どうせなら野菜炒めにしてくれればいいのに」
野菜炒め! そう言って今度は佑月が笑った。
「炒めてくれればこっちも困らないのに!」
「ついでに豚肉も入れてもらって」
「ええ、本当に!」
野菜炒めのことを考えていたら佑月の腹がきゅうっと縮んだ。そう、彼女は腹が減っているのだ。
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