1 / 7
こちら御山ダンジョン管理局鑑定部鉱石部門です
はじめまして
しおりを挟む
篠山は昼食を食いっぱぐれたことを思い出した。腹がきりきり、きゅうきゅうと痛むのは空腹のせいらしい。彼は白髪交じりの頭をかいてあくびをした。
本日の御山ダンジョン管理局鑑定部鉱石部門は朝から大忙しだった。早朝に戻ってきた調査隊からの山のような鑑定依頼をこなさなければならなかったからだ。ダンジョンから採取してきた鉱石は文字通り宝の山だ。装飾品として価値のあるものから魔術に必要不可欠なものまで、幅広い鉱石が手に入る。中には直ちに処理をしないと魔力が消えてしまうものがあり、その鉱石を正しく仕分け消えないように魔術をかける、この「一次鑑定」は時間との勝負であった。鉱石部門の彼らは──珍しく──ただただ一心不乱に仕事に没頭した。ミスは許されない。なぜなら消えた分だけ報酬が減るから。鉱石の鑑定、及び販売による収入は鉱石部門だけでなく御山ダンジョン管理局全体にとっての重要な収入源になっていた。
ようやく第一鑑定を終えて処理済みの鉱石を運び出して、気づけば時刻はすでに午後3時。食堂はもう閉まっている。夕方の営業は午後6時から。空白の3時間。どのように過ごすべきか。食堂に押しかけて何か余り物でももらってくるか、それとも購買部でしなびたサンドイッチを買うか。究極の選択である。篠山は両腕をいっぱいに広げて伸びをした。
「佐伯ちゃんさあ」
「はい、なんでしょう」
佐伯女史が向かいの机の本棚の陰からひょっこりと顔を出す。鉱石部門の紅一点であり優秀な魔術師だ。ひっつめで露わになる大きな額に丸眼鏡、そんな彼女を見るたびに篠山は心の中で「丸いなあ」と好ましく思うのであった。
「お昼どうする?」
「私は済ませましたよ。軽くですけど」
そう言って取り出したのは携帯食料、通称「ダンジョンバー」である。名前の通りダンジョン探索の際に気軽に栄養補給できるようにと開発されたシリアルバーだ。軽い食事代わりになるということで今では非探索者の間でも人気の商品になっている。
黄色と水色の賑やかなパッケージで覆われたダンジョンバーの登場に篠山は思わず顔をしかめ、佐伯は「その顔!」と大笑いした。
「篠山さん嫌いですもんね、ダンジョンバー。これ新商品ですよ、一口どうですか?」
「ちなみに何味?」
「真夏のパイナップル味」
「絶対ヤダ!」篠山は叫んだ。「パイナップルアレルギーだから、そもそも食べられないし」
彼は眉間から鼻の頭にまでしわを寄せた。佐伯はゲラゲラと笑いながら封を切った。
「そんなに癖のある味じゃないと思うんですけどね」
「後味がどうしても好きになれなくて」
篠山は言いづらそうに「喉に甘さがへばりつく感じが無理で……」とため息をついた。数多くのラインナップを持つダンジョンバーであったが、どれもこれも彼の好みには合わなかった。
「狭田ちゃんは?」
「裏で愛妻弁当食べて一服してます」
「羨ましい~!」
いくら騒いだところで空腹感は消えない。そろそろ購買部に行ってサンドイッチでも買うか、と篠山が立ち上がったときであった。
入り口がノックされる。返事をする間もなく扉が開いて大柄な男が現れた。日に焼けた肌に鍛え上げられた肉体を持つ彼は運搬部の大多喜だ。「今いいか?」と彼はずかずか中に入ってくる。
「お疲れ様」と応えた篠山はすぐに彼の後ろにいる青年に気がついた。見知らぬ青年だ。目の覚めるような金色の髪は惜しげもなく短く切り揃えられており、すっと通った鼻梁に彫りの深い目元はまるで石膏像のような美しさだ。ぱっちりとした二重に碧い瞳は存外力強さを湛えており、単純に「美青年」と表現するだけでは足りない迫力がある。薄い唇がにっかりと笑みを作ったかと思えば「どうも、初めまして!」と大声を響かせた。篠山は目を白黒させた。
「どちら様?」
「今日から入った新人」
「どうも、ジドっていいます。よろしくお願いします!」
「運搬部に入ったんですか?」と佐伯が怪訝な顔で尋ねた。「体力自慢でもなかなかキツイって聞きますけど」
するとジドは「心配ご無用!」と自分の胸を叩いた。
「前職も体使う仕事だったんで大丈夫です!」
「前職?」
「軍で働いていました! 下っ端ですけど!」
はきはきと──大きな声で──応える彼には実に好感が持てた。
「実際、勘はいいよ。慣れればすぐに主戦力になる」
大多喜がジドの背中を叩き彼をよろけさせる。
「それで、篠山たちに御山ダンジョンの説明を頼みたい。暇だろ?」
「失礼な」
そう言いながらも篠山は椅子を一つ取り出した。
本日の御山ダンジョン管理局鑑定部鉱石部門は朝から大忙しだった。早朝に戻ってきた調査隊からの山のような鑑定依頼をこなさなければならなかったからだ。ダンジョンから採取してきた鉱石は文字通り宝の山だ。装飾品として価値のあるものから魔術に必要不可欠なものまで、幅広い鉱石が手に入る。中には直ちに処理をしないと魔力が消えてしまうものがあり、その鉱石を正しく仕分け消えないように魔術をかける、この「一次鑑定」は時間との勝負であった。鉱石部門の彼らは──珍しく──ただただ一心不乱に仕事に没頭した。ミスは許されない。なぜなら消えた分だけ報酬が減るから。鉱石の鑑定、及び販売による収入は鉱石部門だけでなく御山ダンジョン管理局全体にとっての重要な収入源になっていた。
ようやく第一鑑定を終えて処理済みの鉱石を運び出して、気づけば時刻はすでに午後3時。食堂はもう閉まっている。夕方の営業は午後6時から。空白の3時間。どのように過ごすべきか。食堂に押しかけて何か余り物でももらってくるか、それとも購買部でしなびたサンドイッチを買うか。究極の選択である。篠山は両腕をいっぱいに広げて伸びをした。
「佐伯ちゃんさあ」
「はい、なんでしょう」
佐伯女史が向かいの机の本棚の陰からひょっこりと顔を出す。鉱石部門の紅一点であり優秀な魔術師だ。ひっつめで露わになる大きな額に丸眼鏡、そんな彼女を見るたびに篠山は心の中で「丸いなあ」と好ましく思うのであった。
「お昼どうする?」
「私は済ませましたよ。軽くですけど」
そう言って取り出したのは携帯食料、通称「ダンジョンバー」である。名前の通りダンジョン探索の際に気軽に栄養補給できるようにと開発されたシリアルバーだ。軽い食事代わりになるということで今では非探索者の間でも人気の商品になっている。
黄色と水色の賑やかなパッケージで覆われたダンジョンバーの登場に篠山は思わず顔をしかめ、佐伯は「その顔!」と大笑いした。
「篠山さん嫌いですもんね、ダンジョンバー。これ新商品ですよ、一口どうですか?」
「ちなみに何味?」
「真夏のパイナップル味」
「絶対ヤダ!」篠山は叫んだ。「パイナップルアレルギーだから、そもそも食べられないし」
彼は眉間から鼻の頭にまでしわを寄せた。佐伯はゲラゲラと笑いながら封を切った。
「そんなに癖のある味じゃないと思うんですけどね」
「後味がどうしても好きになれなくて」
篠山は言いづらそうに「喉に甘さがへばりつく感じが無理で……」とため息をついた。数多くのラインナップを持つダンジョンバーであったが、どれもこれも彼の好みには合わなかった。
「狭田ちゃんは?」
「裏で愛妻弁当食べて一服してます」
「羨ましい~!」
いくら騒いだところで空腹感は消えない。そろそろ購買部に行ってサンドイッチでも買うか、と篠山が立ち上がったときであった。
入り口がノックされる。返事をする間もなく扉が開いて大柄な男が現れた。日に焼けた肌に鍛え上げられた肉体を持つ彼は運搬部の大多喜だ。「今いいか?」と彼はずかずか中に入ってくる。
「お疲れ様」と応えた篠山はすぐに彼の後ろにいる青年に気がついた。見知らぬ青年だ。目の覚めるような金色の髪は惜しげもなく短く切り揃えられており、すっと通った鼻梁に彫りの深い目元はまるで石膏像のような美しさだ。ぱっちりとした二重に碧い瞳は存外力強さを湛えており、単純に「美青年」と表現するだけでは足りない迫力がある。薄い唇がにっかりと笑みを作ったかと思えば「どうも、初めまして!」と大声を響かせた。篠山は目を白黒させた。
「どちら様?」
「今日から入った新人」
「どうも、ジドっていいます。よろしくお願いします!」
「運搬部に入ったんですか?」と佐伯が怪訝な顔で尋ねた。「体力自慢でもなかなかキツイって聞きますけど」
するとジドは「心配ご無用!」と自分の胸を叩いた。
「前職も体使う仕事だったんで大丈夫です!」
「前職?」
「軍で働いていました! 下っ端ですけど!」
はきはきと──大きな声で──応える彼には実に好感が持てた。
「実際、勘はいいよ。慣れればすぐに主戦力になる」
大多喜がジドの背中を叩き彼をよろけさせる。
「それで、篠山たちに御山ダンジョンの説明を頼みたい。暇だろ?」
「失礼な」
そう言いながらも篠山は椅子を一つ取り出した。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

第3次パワフル転生野球大戦ACE
青空顎門
ファンタジー
宇宙の崩壊と共に、別宇宙の神々によって魂の選別(ドラフト)が行われた。
野球ゲームの育成モードで遊ぶことしか趣味がなかった底辺労働者の男は、野球によって世界の覇権が決定される宇宙へと記憶を保ったまま転生させられる。
その宇宙の神は、自分の趣味を優先して伝説的大リーガーの魂をかき集めた後で、国家間のバランスが完全崩壊する未来しかないことに気づいて焦っていた。野球狂いのその神は、世界の均衡を保つため、ステータスのマニュアル操作などの特典を主人公に与えて送り出したのだが……。
果たして運動不足の野球ゲーマーは、マニュアル育成の力で世界最強のベースボールチームに打ち勝つことができるのか!?
※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる