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3章 探しもの

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 可愛らしい白い机に椅子。日焼け防止のパラソル。庭園で最高級の立地。
 俺はエミリーに以前のように食べて良いのかと聞いたが影も形も無い。この状況に落胆した。

「ルーク、今日はサンドウィッチとスープだよ。さ、食べよう」
「ああ、そうだな」

 記憶に残っているサンドウィッチと別物だ。

「ルーク王子、お飲み物はいかがなさいますか?」

 待っていましたと言わんばかりに待機していた料理長が訪ねる。
 以前調理室で会った時と全然雰囲気が違う。

「季節のフルーツジュースで」
「かしこまりました」

 俺にだけ飲み物を聞く。エミリーはと言うと自分でそそくさと用意している。
 そう、何も違和感を感じずに今まで通りと言った感じだろうか。

 同じ奴隷なのに王子というだけでここまで差が生まれてしまう。
 人間と奴隷、その差は何だ。
 王子だからという理由で俺は奴隷なのに人間のような扱い。何だかよく分からない。

「ルーク、今日のサンドウィッチ美味しいね」
「そうだな」

 明らかすぎるほどの高級食材が使われている。美味しいのは当然だ。もう何も言うまい。
 
「そう言えばルーク、午後からはどうする?何かしたいことある?」

 したいことか。何も考えずにここへきてしまった。ただ、会いたい。みんなに久しぶりに会いたいと言う想いだけで。

「特にはないな」
「なら提案なんだけど、最近地下に出来た温泉に入ってみない?」
「温泉?前からあるあの立派なのの他に出来たのか?」
「うん、イザベラさまが新事業計画の一環だとか何とか言ってたような」

 何かあるんだな。
 王宮で暮らし始めてずっと温泉には入っているが、新しいものに巡り合うのは未知で楽しみでもある。

「行ってみようかな」
「はーい。じゃあ午後からはそれで決まりね。庭園でゆっくりしたあとお風呂に行きましょう」
「そうだな」

 季節の花を見て、ゆっくり庭園を周り、ぼーっと過ごし一旦自室に戻ることになった。

 楽しそうにするエミリーの笑顔。それが輝いているのにどこか影を感じる。
 彼女といると楽しい。それなのにどこかもどかしい。
 どうしてだろうか。彼女が時々、人形のように思える。

 王子なのに奴隷になって感情が少しずつ溢れ出してきている。感情、それはなんて面倒なものなのだ。

「ルーク王子、湯浴みの準備が調いました。ご案内致します」

 アデルがルークを迎えに来る。

 そこはエミリーの役目じゃないのか。それにしても王子、王子。みんな口を揃えてそう言う。そう言われる度に胸が騒ぐな。
 王子って何が良いんだ。

「おまたせ致しました。こちらで御座います。ごゆっくりお寛ぎください」
「はい」

 今まで上の立場だと思っていたアデルが頭を下げている。不思議で変な感じだ。

 ルークはアデルから着替えを受け取り、目的の場所へ向かう。

 地下だと言うのに明るい。灯りといえば蝋燭や暖炉だがここは違う。
 確か最近、電気と言うものが開発されたとか習った気がする。
 忘れていたがここは俺が来た時から技術がやけに発展していたな。

 この世界で魔法は使える人がほとんどいないしあまり実用的じゃない。
 実用的な魔法は憎いがこの奴隷紋ぐらいで、他はまだまだだから技術が発展していくのは良いことだ。

 薄い布を羽織り、ルークは湯殿に向かう。

 良い香りが漂ってくる。温もるのが楽しみだ。早く身体を洗って入ろう。せっかく沸かしてくれたのに暖かいうちに入らないなんて損だ。

「ルーク、待ってたよ」

 タオルを一枚巻いただけのエミリーが、シャワーを持って待ち構えていた。
 少し顔が熱っていて緊張しているようだ。

 そう、ルークが奴隷として連れてこられた日と同じ。いや、照れている様子は少し違うかもしれないが同じシチュエーションだ。
 
 しかしルークに動揺した様子はない。当然と言わないばかりに、用意された椅子に腰掛ける。
 だが、もうあの時のルークではない。ここにいるのは感情が目覚め始めているルークだ。

「エミリー、これはイザベラ様の命令か?それとも自分の意思か?どっちだ?」

 今日はルークの中で常識が変わった瞬間。奴隷に意思はない。その呪縛から解き放たれた。
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