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僕がついた本当の嘘
第5話 事件
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引越しから2か月、コートが必要な季節に変わった頃、ようやく自分の棲家として落ち着きはじめた。部屋に樹里の荷物が徐々に増えていくのも嬉しかった。
しかし私生活とは反対に仕事は上手くいっていない。
営業成績は上がらず、ありえないミスも度々起こし、上司に怒鳴りつけらえる事も少なくない。そんなジレンマを感じながら、僕はいつからか毎日「あれ」をポケットに忍ばせるようになった。どこかのタイミングで一発逆転を狙ってやる。
僕には「あれ」がある。
仕事で自暴自棄になりそうな心を支えてくれるには十分な効果があった。
年末が近づき京都でその年初めて雪が舞った日のことだった。
営業車の中で携帯が鳴った。ディスプレイには登録されていない、電話番号が表示されている。誰だろうと思いながら僕は急いで車を道路脇に停車させ、ラジオのボリュームを下げ通話ボタンを押した。
「もしもし、(隆久さん)、の携帯でよろしかったでしょうか」
「はい、そうですが」
聞き覚えのない女性の声。
「こちらは京都市立病院です」
嫌な予感がした。
女性は続けて話し始めた。
「実は数時間前、若い女性がトラックに巻き込まれこちらの病院に緊急搬送されてきました」
僕は生唾をゴクリと飲み込んだ。
「所持品の中にあった携帯が幸いロックかかっておらず、発信履歴に(隆久君)が頻繁にあったので、親しい方という判断で取り急ぎご連絡を差し上げた次第です」
携帯を持つ手が小刻みに震える。
「で、樹里の容態はどうなんですか!」
僕は問い詰めるように大きな声で女性に言った。
「かなりの事故だったようで、今緊急手術をしていますが、意識はない状態です」
言葉が出なかった。
「そんな、、どうして樹里が、、」
「落ち着いてください。病院に来ていただくことは可能ですか?」
しかし私生活とは反対に仕事は上手くいっていない。
営業成績は上がらず、ありえないミスも度々起こし、上司に怒鳴りつけらえる事も少なくない。そんなジレンマを感じながら、僕はいつからか毎日「あれ」をポケットに忍ばせるようになった。どこかのタイミングで一発逆転を狙ってやる。
僕には「あれ」がある。
仕事で自暴自棄になりそうな心を支えてくれるには十分な効果があった。
年末が近づき京都でその年初めて雪が舞った日のことだった。
営業車の中で携帯が鳴った。ディスプレイには登録されていない、電話番号が表示されている。誰だろうと思いながら僕は急いで車を道路脇に停車させ、ラジオのボリュームを下げ通話ボタンを押した。
「もしもし、(隆久さん)、の携帯でよろしかったでしょうか」
「はい、そうですが」
聞き覚えのない女性の声。
「こちらは京都市立病院です」
嫌な予感がした。
女性は続けて話し始めた。
「実は数時間前、若い女性がトラックに巻き込まれこちらの病院に緊急搬送されてきました」
僕は生唾をゴクリと飲み込んだ。
「所持品の中にあった携帯が幸いロックかかっておらず、発信履歴に(隆久君)が頻繁にあったので、親しい方という判断で取り急ぎご連絡を差し上げた次第です」
携帯を持つ手が小刻みに震える。
「で、樹里の容態はどうなんですか!」
僕は問い詰めるように大きな声で女性に言った。
「かなりの事故だったようで、今緊急手術をしていますが、意識はない状態です」
言葉が出なかった。
「そんな、、どうして樹里が、、」
「落ち着いてください。病院に来ていただくことは可能ですか?」
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