タケノコの里とキノコの山

たけ

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ニ章 

第五十八話 命の重みを何一つ理解していない

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 倒れたヨツンヴァイン、気絶しているハルとレイ
 沈黙を貫くここ一帯


 ――戦いは今、幕を下ろしたはずなのだ

 だが、なにか不穏な空気を持っていることも否定はできなかった


「グ………う…」



 イアンは撃たれた箇所を押さえながらどこかへ這いずる

 それを見たパアワは絞り出すように叫ぶ

「イアン!何をしてるんだ…!今は動かず助けを待て…」

 その事をイアンは一蹴する。目線の先を強く睨みつけながら


「馬鹿…ッ!!アデルは死んでない…見てなかったのか?ヨツンヴァインが転倒する時、アデルはワイヤーをヨツンヴァインから外して飛び立っていた…!受け身を取ったんだ!!」



「………はぁ!!?」


 聞いていたキクも参戦する。ギリギリ会話が成り立つのは現在この3人とこの近くにはいない二グと、再生能力が強いアガレズだろう

「…いや、腹も刺されていた訳だし生きてたとしてももう普通の人間なら死ぬ…でも、あいつは逃げ切る…それでまたいつか、キノコ村を支配しに来る…!!わかるんだ、私には」

「……」


「何が起こるか分からない内にトドメ刺す…!それが最後の仕事だ!」


「……いる」


「は?」


 格好つけて話す前に、キクが声を発する、その声の先は数十m先、アデルが居た


「…………………………お」


 その酷さにパアワはそう言う

 …アデルは膝をついて崩れていた。ガクンとうなだれる体勢で座っている、その地面には、あるはずの右腕がぽつんと血だらけで倒れていた


 その上、アデルの正面にはすでに回復したアガレズが立ち尽くしている

 アガレズも、アデルが生きていたことに気付いたようだ


「アガレズ!!!トドメを刺してくれ!!」


 イアンは叫ぶ…力一杯。それでもアガレズに声は届かない


「アガレズ!!!アーガーレーズッ!!!!」


 傷口が開く、血が滴る、涙が出る激痛、それでも
 イアンは叫んだ






 イアンにとってアデルは、家族の仇なのだから


「アガレズ!!!!」


「聞こえているさ」


 ーーそう呟くアガレズ
 どこか、イアンに対して呆れたような声色をしていた


「ー!なら…」


 その言葉を塞ぎ、アガレズはゆっくりと口を開く、なにか、重々しい一言を



「俺は…この男を殺せない」



「………は?」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……なんでだよ」


 しばしの沈黙のあと、パアワが喋る

 アガレズはため息を付き言った


「正義だよ…人の命を奪うのならば、そこには膨大な正義…強い自我 意思 エゴが無いといけない」


「…何を言って…」


「俺には無いのさ、アデルという男を殺す正義が、そんなものに命を奪われるなど、あってはならない。俺は君達と初めて会った時、君達全体を貶すような発言をした事を覚えているかい?」


 アガレズはゆらゆら ゆらゆらと言葉を並べていく

 早急にアデルをこの世から消したいイアンにとって、否 キノコ族にとって、その意味のわからない言葉の羅列は不愉快そのものであった


「覚えてる!!覚えてる!!だからなんだよぉぉっ!!!はやく!!!そいつを殺せ!!!そいつはお前が思っている何倍も」


 イアンのその発言にstopとジェスチャーをし
 イアン、否 この世界を睨む


「そこだよ…………この世界は
 “命の重みを何一つ理解していない“」




「!!!!!!」

 混乱 する


 その言葉は…新鮮 というのは意味が弱い、この世界にとってその言葉は、“異形“と言っても良いものだった


「人を繋ぎ 世界を創り そして託し そして残す たったこれだけを命は一つで出来る
 命は世界そのもの…

 …だが、殺しても良いときがある。それはそこに正義が存在するとき、その生命を奪い 世界を創り上げていく事が出来る時のみ」


「そういうことなら正義はあるよ!!!そいつを殺せば世界は平和になる!!」


「ああそうだろう。見ているだけでもアデルくんは世界の害 だ。殺さなければならない…が、それは俺の役目じゃない」
 
「…」


 アガレズは指を差し 言う


「お前達だ」



「…………くだらねぇポリシー…命を奪うならその分の理由がなきゃ駄目ってか…」



 たしかにその言い分なら、アポロ族はタケノコとキノコを嫌い 離れていた
 だから命を奪って、研究対象として扱っていたのか、それはアガレズのポリシーに筋が通る



 しかし、理解は出来なかった

 生の全てを人殺しに掛けた人間たちにとって、

 命というのは、あまりにも軽い存在だった


 だからアガレズの言うことは…何一つ理解できなかった


「………私が、殺せばいいんだろ」


「…ああ、いいね」

「イアン!!」


 イアンが血を吐きながら立ち上がる、ズリズリとアデルに近付き、殺意を向ける、パアワの叫び声も無視して



「………アデルくん、そういえば一言も喋ってないけど、生きてるよね?」


 イアンを尻目にアガレズはしゃがみ俯いたアデルと目を合わせる

「…!」


 アデルの目はがん開きしていた。まるで、自分らへの恨みを彼に込めるかのように


「ーーそうとうイッちゃってるみたいだね、この世界の住人は」



 そう言われながらイアンは進む、ズリズリと、進んでいるのかもわからないが、進んでいる

 武器は拳がある。全ての恨みをぶつけた拳がある
 そこにそこらの石ころでも持てばいい

 近付く 近付く 少しずつ、本当に少しずつ






 数え切れないほどの時間が経ったころ、イアンの脚が止まる、イアンは 地面にあった石もち握りしめる、ちぎれたアデルの腕の断面に目をやる

「……………………………………………………。…」


 時間が止まったような間隔のあと
 ーーーーただ、呟く


「―――死ね アデル」




















「あ“」


 その瞬間、目があった、イアンとアデルの目が、一直線に合った


「あ“」


 その目が、あまりにも、あまりにも狂気的で、熱狂的で




 恐ろしかったものだから



 イアンは一瞬 動きが止まった





「ーーーイアンッ!!!」


 ドン と音がする






 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 それはアデルを中心に起きた小さい爆発だった。せいぜい、目の前にいたイアンを巻き込む程度の、今までに比べれば果てしなく小さい爆発だった

 だがイアンは死なない、隣にいたアガレズが背中を押し、助けたから



「……………………………」


 爆発の中には 霧 というやつがはらはらと舞っていた


「いない…」


 アデルは消えていた、あの爆発の影で消えた

 この状況から推察できる事は一つ
 タケノコ軍は霧という強大な力を味方につけていること、そして



 ーーアデルには、逃げられたこと






「ーーーーーーーちっくしょおおおおおおあおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーッッッッッッッッ!!!!!」







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