タケノコの里とキノコの山

たけ

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ニ章 

第五十三話 地団駄

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ぼろぼろの地面に痛々しく体を伏せるハル

呼吸を正常にするのも一苦労、ただ一つの絶望感が、その静寂に残っていた

その静寂の中、アデルによって投じられた物は

「私達の仲間になりなさい」

等という、全身の毛が逆立つような狂気だった


「……はぁ?」


声にならない声で、そう漏らす

「多くを語る必要などない…あなたが輝く場所はこんな陳腐な世界ではない、もっと高く、広大な目標をかかげられる世界に来るべきだ、」 


痛みなど忘れていた

「…その世界が、タケノコ族に?」


「ええ…保証しましょう」


    ハルは目を閉じる、深く考える



ーーこの、世界について



「行く…」


静かに、そう呟いた


「!ほう…素晴らしい…あなたは、自分をよくわかっている」


アデルは予想外という顔をしながらニヤリと下衆い顔をし、倒れたハルに手を差し出す

その笑みは仲間を手に入れた喜びなどではない、全く別の…


その手をハルはみつめ、そしてこちらも"右手"を伸ばす

「ーーー訳ないだろ!!!!!」







そう言って、強く、強く、叫んだ






「何ッッッ!!!!!!!!!!」


ーーーハルの"左手"は、剣を握っていて…その剣は、アデルの腹に突き刺さっていた


「こ………おっ………!!」


「………………っ」


あっけなく、ハルの演技は成功した


ハルにとって、こんなにもぐさりと剣を刺すのは初めてのことだ

だが、いつものような人を傷つけることの躊躇は、アデルに対する嫌悪感が、敵意が、それを許さなかった

初任務のあの時のように、体中からミミズの這うような、あの感覚は……今日はしない


「が……はっ………騙し……たな!!!!!!!」


「……………俺は、自分が強くなるためにいるわけでもない、輝きたいわけでもない…俺は…」


「………………何を」


「――俺は、好きな人達が沢山いるから、少しでも守りたいと思う人が、沢山いるから…"そうさせてくれたこの村が"好きだから…
だから、戦うんだ!!!」


「なん………だとっ…………!!!!!」


左手の剣をアデルの腹から抜き、その場からステップで距離を取る

この程度で死ぬとは毛頭思ってない、まだ、戦いは続く、だからこそハルは、2級への恐怖心を押し通してでもこの男に言いたいことがあった


「だから…!そんな弱々しい言葉で…!」


「くっ………!!!」


「軍の人間が、そんな言葉で騙されるかよッッッ!!!!!」



「………っ!!!貴ッ様あああっ!!」


アデルは、腹を押さえながら力強く立ち上がる

まっすぐとハルを見つめ、一直線の敵意をハルビリビリと浴びる


そのとき


「うおおお!!!!!」


煙の背後から覚えのある声と姿が飛び出す

カイムだ、なにか手に変な形のものを持っている
 

「ぬぅっ!!!」


1テンポはやく接近に気付いたアデルが体を回しカイムを剣で捉える


途端にあせったカイムは身をのけぞりアデルから離れる

不意打ちは失敗したものの、十分な隙をつくりだした


そしてハルのよこから突然声がかけられる
「ハル!ぼーっと立つな!!」


「アガレズ!」


「く…」


アデルはアガレズが突撃してくるのを予測しとっさに体制を立て直す


だがそれはダミーだった


「ーーはあああああ!!!」


アガレズの影からキクが飛び出す


「なに!!!」


ここずっと、アデルは圧倒され続けている、3人のチームワークに


唐突なキクの登場にアデルは剣を構えきれない、

そのまま間合いをつめ、不完全な状態でアデルはキクの斬撃を食らう


「がは!!!」


まともに食らったアデルは受け身も取れない、そのままもたもたと地面に倒れ込む


「なっさけねェ…こんな4人にダメージを食らうなんてょぉ…こいつに殺されていったキノコ軍はどれだけ弱かったんだ?」

剣を肩にやり、キクは上から釣り眼で煽る


「なにを……っ!!」


「悪いねハル、ただ突っ込むのは非合理的だとおもって、君が隙をつくり出すまでそれぞれ待機していた」


「いや…それ完全に他人依存じゃん!もし俺が隙を作り出せず死んでたら…」


「ーーーそうもおもったよ、でもきみはどうせ斬られようが死にはしない、そういうやつだろう」


「アガレズらしい…ともかく、助かった」

ーーそして、4人がアデルを囲む… 

4級達とはいえ、負傷に負傷を重ねたアデルは流石にこの囲いを抜け出せない




(カイム……その手に持ってるやつはなんだ?)
右手にブーメランの様な形の物体をもつカイム、ハルはそれが気になるが、後だ


「改めて見ると、情ねぇな」


「黙れ!!!私は…!本気か!!!!この私を倒そうなど」

カイムに対してこれでもかというほどに怒号を浴びせる、だが、それは効かない

「言い訳でもしようってか?効かねぇよそんなの、だって…」


カイムが近づき、そうぼやく


「だって……なんだよ?」


「なんでもねー」


「…?」



「とにかくだ、アデル様さんよ、お前は、ここで」





「………ちくしょおおおおおおああああああああ!!!」


「!?!?」


唐突に、正気を失ったのか、アデルが聞いたこともないような声で叫ぶ

「くそ!!!くそ!!!!こんなはずではない!!!私は…!!!!!私は…ぁぁぁぁぁあ!!!」


「……アデル」


「くそ!くそ!ちくしょおおおっ!!」


悔しさを前面に出すアデル、しかし、周りにはその行動に別の意味があるように見えた


「アデルお前……なんでそんな、余裕そうなんだ?」




次の瞬間




「ぎああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!」


ーー人間の声など凌駕する、あの声が聞こえた



「?!?!」


一同、アデルでさえ、叫ぶのをやめ、声がした方向を全員が振り返る


「ヨツンヴァイン!!!???」


「あれで生きてたのかよ!!!?!」

轟音の主はヨツンヴァインだった。ぼろぼろの足で、くたびれた手で、人間の動きと同じように、立ち上がろうとする、立ち上がる


一つの過疎地区をほぼ土砂にするレベルでの激突を起こした

それでも、巨人にとっては、気を失う程度のダメージだったのだ


「ごおあああああああああああああああ
ああああああああああああああ
あああああああああああ」


アガレズは気付く

ヨツンヴァインが闇雲に地団駄を踏もうとし、腕を振りおろそうとしているのを


「ーーーーー全員!!ここから離れろオオオオ!!!!」



ーーなんで、腕を地面に叩きつける音が爆発音みたいになるんだよ




ハルたちは全力で逃げながらそうぼやいた



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