タケノコの里とキノコの山

たけ

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ニ章 

第五十話 帰ってきた

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ハルたちが本格的にヨツンヴァインと決着をつけようとしていた同時期…


場面は変わり、ここはキノコ村 5地区

人口が少ない順に数字が多くなっていく、レイたちの住んでいるキノコ軍本部のばしょは1地区となる


つまりここは人口が一番少ない、しかし失った命の数は、今までの比では無かった


ぼろぼろの建物、土埃が舞う殺風景。


そして………増援に来た兵士たちの死体、死体、死体



結局…現在生き残っている人間は、レイ パアワ、イアン、そしてアデル


それ以外の仲間は全員死んでしまい、レイはこれ以上増援を出さない命令を出し、今に至る


パアワとイアンは負傷し、影で隠れている、その間…



殺風景の真ん中で、レイvsアデルの形で一騎打ちが行われている


「はっ!!」


「っ…」

アデルが振った剣を躱し、かがんだ態勢からそのまま剣を繰り出す


「ごはっ!!」


剣は完全には当たらなかったが、アデルの手首にぶち当たり、鈍い激痛がアデルに走る

「はやり……これでも一級というわけだ」


「程よく殺すだとか言ってたくせに……ッ!!!全員殺しやがって!!!」


「あなたたちが増援を詠んだのがいけないのですよ!!!悲しいさ!!こんなにも価値のない命を沢山奪うばうなど!!」


「………クズが!!!」

ーーー状況は劣勢ではあっても、レイはやはり強かった



レイは何か特別なセンスを持って戦うのではなく、直感のままに従い戦う天才肌タイプである


だからこそ思考が追いつかず混戦が苦手で、普段混戦が多いタケノコ軍との戦いではやられがちではあった


ーーしかし、ここはただの平らな土地、そして目の前には"たった一人の敵"

レイにとって、ここまで本気を出せる戦いは人生で初めてであろう



「…っなかなか…良いものですね」


アデルは肩を押さえ流れる血を止血する
その顔からは焦りの表情がにじみ出ていた


「舐めやがって…っ!!お前は!」


怒りに任せそこを追撃する。火花が華々しく舞い、戦闘の激しさを表現する


「……こんな真剣に1対1をしたのは、初めてですね…」




「…」



しかし、レイも焦りはしていた


(こいつ……hp無限かよ?)


――どこまで戦っても、アデルは死んでくれない


彼の意地は、生命力は、


……尋常ではない物だ。まるで生物から逸脱したようなほどに、美しく狂気的な目を振るわせ生きようとしている

それは美しくも見えるが、醜く憎たらしくも見える


イアンもパアワも負傷していたり周りの死体が傷付かないようにしたり、この状況、レイ一人だけで乗り切らなければいけない

「はあああっ!!!」


アデルは負傷した脇腹をぐねらせ、滑り込むようにレイへ剣を通そうとする


「っ!!」


隙だらけの一撃だったが当たりかける、ほっぺたから薄く血がたれる



(……アガレズ、何がしたいのかはわからないが、ハルたちもいるし、きっと何か…)


ハルたちが現在ヨツンヴァインと戦っているなど、ましてやヨツンヴァインをこちらへぶつけようとしていることなどつゆ知らず、レイは憶測でアガレズ達を信じる


キン キンと鍔迫り合いを起こしアデルと視線が絡み合う、痛い、腕が、体中が痛い、うめき声が漏れそうになる




(あれから長い時間が経った…そろそろ決定打が欲しい…もうすこしで…戻ってくるはず…っ!)


そう思考を巡らせた瞬間、喉元から気持ちの悪い感触が押し上げてくる


「……ぐぇっ」


―――何か、吐いた


血だ


「ちくしょ…ぅ」

自分でも気付いていない、疲労が、ダメージが、ここに来て爆発した



「……っ」


それをアデルは見逃さない、
レイの腹部に向かって俊足のタックルを入れる


「ぐ、あ」


ただそれだけの攻撃でレイは激痛を走らせる

いままで怒り、焦りで気付かなかった感情が、あふれる、どんどんあふれてくる


ーーー途端に力が入らなくなり、そのばに倒れる


このままでは、死ぬ、何か、何かしないと

「…………アデル」


「?命乞いは…」



「違う…っ…お前はそんな力持って、何がしたいんだ?本当に、不死鳥に協力するためなのか?」


「……それ以外に、何があると言うのでしょうか?」



「なんで、そこまで強くなれる?お前はどれだけ切っても死なない…誰かの為にそこまで意志を強くする人間なんて…」


「私の頭にあるのは、ただひたすらに、不死鳥様の事だけですよ。あの方は、私を絶望から救って下さった。救うだけでない、新たな力を与えてくれた。不死鳥様は、私を、世界を変えてくれる。信じるのだ…私は…」


「…世界を変える?」



「ええ、それがなにか?」


「………ふざけんなよ!!」


「……?」

アガレズ達が来るまでの時間稼ぎのつもりが、つい感情を爆発させてしまう

怒りで見えなくなった視界からでも見える、ボロボロの街、横たわる肉、血の匂い

「世界を変えるってのはさぁ……"悪い方向"へじゃないのかよ!これをみればわかるだろ!?お前に何があったかなんて知らねぇ!でも!!何が世界だ!?むしろお前たちのせいで何も変わってない!!!お前は!!!お前達は!!!」


「五月蝿い…なんという雑音だ…そもそもの話、キノコ族は、なぜ幸せを望む?先程言った通り、お前達は食料だ。米が幸せを望むか?魂を喰われるために作られたお前達が、なぜ?」



「食料じゃない…っ、食料だったら、こんなに平和のために戦ってない!!私達は食料じゃないんだよ!その証拠がそこら中に散らばってる!!」



「平行線だ…もう」


そう言って、アデルは剣を上げる、レイの心臓をめがけて、


その瞬間、ざわざわと音が聞こえた、地震とも違う、地の揺れる感覚を味わう


その音の方向は、アポロ村からの方向だ


「…っ、こちらに向かっている?」


その通りだ、レイは確信した


アガレズ達が帰ってきた、と














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