タケノコの里とキノコの山

たけ

文字の大きさ
上 下
49 / 67
ニ章 

第四十八話 三矢の訓え

しおりを挟む
 不透明な男は正気を失うように剣を振り上げ
 まるで未来を見えているかのようにヨツンヴァインの抵抗を避ける。


「があああああああああアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 鼓膜をつんざく叫び声も、アガレズには雑音と化し、届くことはない


 どこまで抵抗しても、どこまで暴れても、アガレズはよだれを垂らし、噛みつくように食らいつく。そして、ぶちぶちと抜いた触手剣をさしまくる


「す…すげぇ…っ」


「アガレズ族は元々戦闘能力が高いんだろ…としても、あの少量でここまで…」


 態勢がめちゃくちゃになった今、バギーを走らせる必要はない、燃料の無駄だ。

 現在キノコ族3人は攻撃範囲外で狂気的で一方的な戦いをただただ傍観している


「…カイム、あの注射器…なんなんだ?」

「ーーあいつがいってただろ、ヨツンヴァインを元にした力を得られる薬だ。本当は一定時間ヨツンヴァイン化するはずなんだが…ならないのは、打ち込んだ量が少量だからか…」


「よくわかんねぇな…それよりも、このあと!
 どうすんだよ!」


「あー…」

 そう。ヨツンヴァインを殺すことは目的ではない。"ヨツンヴァインを瀕死にさせなんらかの方法でキノコ村へ連れてゆきアデルにぶつける"
 が目的だ


 この"なんらかの方法"は何一つ計画していない。
 ここでアガレズがヨツンヴァインに勝っても、
 なんの解決にもならない


「………そのときに、考えるしかないか…」

「……ああ…今は…」


 今は巨人と狂人の戦いにただただ熱中していた。
 もはやアデルの事など忘れるかの様に


 いままで見たことのない巨体が体を振り回し、いままで見たことのない速度でそれを避ける


 異次元で、新鮮で、恐ろしかった。


「ウゴあああああああああああああああああああああああ」

 怒りが頂点に達したのか、ヨツンヴァインは地面に体を擦り付けアガレズを振り切ろうとする

 だがしかし、アガレズはどれだけ地面にこすられようとも、体が大岩に激突しても、巨人からは離れない。そのまま剣を突き刺し続け、ダメージを少しづつ与えていく


「おいあいつ死ぬぞ!…………あいつ、自分の村の平和が何だとかって言ってたよな…」



「だからヨツンヴァインにあんなに執着してるってこと?」


「多分、芯が強いんだ、命を使ってでも…


 !!」





 そのとき、ハル達に視線が送られてきた

 まるで、何かを信じるような

 視線の送り主はアガレズだ。体から血を流し、それでも懸命に食らいついている

「…………わかった」


「なにが?」


「アガレズはいまヨツンヴァインの抵抗に耐えて殆ど動けない、だから、その間に俺達がヨツンヴァインを瀕死にさせるんだ!!」


「ーーなるほどな…………いや、そんな事分かるか?」




「わかる…わかるんだよ、なんとなく!!」


 そう言いながらカイムは暴れる巨人に向かって走る、それに続きハルたちも

「アガレズ!!!その汚い剣をくれぇ!!!」


「ギャオアス???ギィ、イアイアグググ…!!」


 何もわからないが聞こえてはいるみたいだ
 3本の触手を引き抜き剣と変貌させる

 それを思い切り、ハル達の目の前にむかって投げた。

 地面に突き刺さる剣はまるで、「託したぞ」とでも言っているように見えた


「……っし!!あと数分だぞ!!」


「キク!カイム!脚だ!足を狙おう!この状態のまま立ち上がれなくするんだ!」


「っしゃぁ!!急げ!!」


 3人はヨツンヴァインの体へ登り右脚に向かって走る
 そのとき、急に巨人が揺れだし、ハルたちは体制を保てなくなる

「おおおおお!?」

 グラグラと足が震え、世界が回る

 何をしようとしているのか察したヨツンヴァインは地団駄を踏み3人を振り落とそうとしたのだ

 だがしかし、まだだ。このチャンスをまだ…終わらせてはならない


「進めぇえぇーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」

 この勝負で、アポロ族の平和が決まる。
 この勝負で、アデルと決着をつける材料を作れる


 この勝負は…運命の戦いだ。

「おおおおおああああああ!!!!!!しねぇええええええ!」


 揺れる巨体にしがみつきながらも、右足のアキレス腱にあたる部分へざくりと剣を突き刺し、引き抜き、また突き刺す。

「ぎぃぃぃぃ!!!!」

 硬い装甲とも言える皮膚に亀裂が入る。だがそれだけでは変わらない

「みんな!!手伝ってくれ!!」


「ああ!」

「早くしろ!」

 緊迫した状況、ハルの叫びに一瞬で反応する。互いの考えが手に取るように分かる。阿吽の呼吸で3本の剣を先ほど入れた亀裂部分に思い切り突き刺した


「ぎぅぅぁぁっ!!」


「ぎゃははは!!!もっと悲鳴あげやがれゃァァ!!」

「おい!どっちが敵かわかんねーぞ!!せーーの!!」

 …そう、カイム達は沢山の傷を付けるのではなく、一つの傷を集中狙いするやり方に変更したのだ。

 ーー小さな傷はだめでも、一つの深い傷なら


「いっけぇええええええええええ!!!!」



「ギィあああああああああああああああああああアアあアあアあアあアあアあアあアあアあアあアあアあアあ有ああああああああああいああいああいああああ

 どれだけ暴れても、後ろのアガレズが力任せに制御している。できるだけ3人が動きやすいように


 3人が同時に剣を押し込む。ヨツンヴァインの神経に届くように、ヨツンヴァインの足が使えなくなるように

 3本の剣が、ヨツンヴァインの体内へ届いてゆく、ゆっくり、ゆっくりと、ここまでの努力が、思いがーーー届いてゆく


「うおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 その瞬間。深く突き刺した剣の先からプチリと気色悪い音がする

 ヨツンヴァインの脚から血が吹き出し、暴れる。
 しかし右足には力が入らないのか殆ど暴れない

 彼らの戦いは…3本の剣となり届いたのだ


「っしゃあああああああ!!!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...