タケノコの里とキノコの山

たけ

文字の大きさ
上 下
43 / 67
ニ章 

第四十三話 未熟な巨人

しおりを挟む
 廃墟を通り抜け、不快感のある森に足を踏み入れる。アポロ村へ行くときに使った道だ。


 アポロ村へ続く道を大きく右に曲がりすすむ


 負傷した部位を抑え、てくてくと歩く四人。
 その先頭にはアガレズがいた。
 彼はまるで行き先を知ってるかの如くてくてくとあるきつづける。痛みに悶える様子など見せない 



「俺達で何をするつもりだよ…なぁ」

 カイムの質問にアガレズは答えた



「ああ…ここでふざける時間はないな…単刀直入に言う…



 ーーーヨツンヴァインを制御して、アデルにぶつける。」


 その答えは、想像にするにはあまりにも難易度の高い言葉であった。


「……はぁ?意味わかんねぇよ、俺達は遊びに来たんじゃ…」


「俺も俺なりに焦っているのさ、こんなことになるとは思っていなかった。とにかくヨツンヴァインと対面し、なんとかしてヨツンヴァインを制御する。そのままうま~くキノコ村に持っていって、アデルに投げ飛ばしてアデルもキノコ村の家も大破壊さ、修理費用は、知らない」


「そんなうまくいくかな…俺達ほぼ戦えないよ…そもそも、制御って何するの?」


「ーーそれは後で説明するよ、ヨツンヴァインのいる場所はあてがある。もう少しでご対面だ。」



「ま、…まじかよ…」


「まじだよ。」


 全員の空気が張り付いたその時、生臭い空気が彼らを包容する


「うっ……なにが」


「ヨツンヴァインの生息地域は決まっている。特に廃墟から東方向なんかはその名所だ。やはりここにいたね」


「ーーっ、まじ…か」


 ドスン、と音がした。


 ゆっくり、ゆっくりと、
 自分たちを、焦らせているかのように

 ドスン、ドスン、


 全員が音のする背後を振り返る


「………!!!」

 影が自分等を包み込む、振り返ったのは背後というより、真上だ


 そこには、全長は17メートルといったところだろうか。


 ヨツンヴァインといわれる生物、黒い塊。


「でかっ…!」



 アポロ族がそのまま巨大化したような様子で、四つん這いになって自分達の上を歩行していた。


 ドスン ドスンと音が響く。音を立てるたびにヨツンヴァインの真下にいる自分たちは体を振動で震わせる。

「これがヨツンヴァイン……イメージどおりだったかい?」


「以外とイメージどおりだぜ……でけぇ…」

「俺、もっと小さいかと思ってたよ…」

「おお…」


 3人がそれぞれのリアクションを取るが、それを無視してアガレズが言う。

「じゃあ、剣を抜こうか、戦いの……始まりだ」


 グジィ と音を響かせ脚の触手をちぎり剣をつくる
 ねちっこい音を立てたあとソレは固まり、剣へと進化した。戦闘態勢だ


「……音を立てないように…っ」


 ハルがそう言いかけたとき、真上からの音がピタリと止み、空気が静まり返る


「ん?」


 声を漏らしたのは他でもないカイム
 カイムの目線は不自然に上を向いていた。

「あ…」

 キクも声を漏らす。冷や汗を垂らしながら

 カイムの視線を追いかけ、たどり着いた先は
 巨人のぎょろりとした目


 ーーーカイムとヨツンヴァインの目があった


「ーーみつかっちまった!!!!」


 その声と合わせ巨人が雄叫びをあげる


「ギィイイイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 力一杯叫ぶようで、よく聞くと感情がこもってない声にも聞こえる。どこか無機質なアポロ族と重なる物があった。


「あああ…!耳がちりちりするなぁ…!
 おいアガレズ!終わったら聞かせてくれよ?この巨人についてぇ!」


「わかってるさ…それより今は…!」


「ああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあ」


「うわっ!!!」

 雄叫びを上げヨツンヴァインが右足を大きく振り上げた、風を切る低い音が鳴り響く

 巨人はカイムを狙い右足に当たる部分で蹴飛ばそうとする。





「ーーカイム!!!!!」


「うおおおおお!!!!!はしれ!!!」



 そして、とてつもない轟音が鼓膜へ走り抜ける


「うわっ」



 轟音と共に発生した暴風はカイムを逃さない
 木が倒れ、土煙をあげて森の一部が壊れる


 攻撃は何とか避けたものの、なだれてきた大岩にぶつかり
 カイムが呻く。

「カイム!!!捕まれ!!」


 そこへハルが駆けつけ手を伸ばした。ハッとしたカイムは目一杯腕を伸ばし、ハルへ近づく

「ゔ、おおおおおおおっ!!!!」

 お互いの手はしっかりとつかまり、何とか被害を免れた


 間一髪で逃げ切ったカイムだったが、その攻撃範囲の大きさに思わず声を上げる

「ま……まじか……」


「大丈夫かい?カイム」

「なわけねぇよ、瓦礫に体ぶつけちまった…ってぇ…どこか折れてねぇよな…」


「折れてても関係ねぇよカイム!次来るぞ!!」



「えっ…な!」


 今度は巨人が右手を振りあげ、地面に叩きつけようとする。ハルたちの背後から来た攻撃で移動で避けることは不可能だ


「まて!死ぬ死ぬ死ぬ!!ほんと死ぬ!!!おいこれ!!ヨツンヴァインの攻撃避けてるだけで俺達死んじまう!勝てねえよこれ!!ふざけんな!!」


「焦るなキク…まあ正直俺も焦ってる、実はヨツンヴァインとまともに戦闘を起こしたのは…今日が初めてなんだ、」

「はああああああああ!?」


 そう言い合ううちにも巨人の右手は振り下ろされる
 それに合わアガレズが触手剣を振るう
 

「……ふんっ!!!!」


 ガン、と音がした。アガレズの構えた剣とヨツンヴァインの右手で鍔迫り合いが生じる






「ぐっ……ぐぅ…っ!!!」


「アガレズ!!無理すんな!勝てるわけねぇだろそんな事しても!!」

「たし……かにッ」


 そう言って笑ったアガレズ、

「うおっ」

もちろん鍔迫り合いにはまけ、ヨツンヴァインの腕に吹き飛ばされた


「おあああああああ」


「っ!アガレズ!!」


 キクが転がるアガレズへダッシュし、彼のクッションとなる


 ヨツンヴァインの腕は見た所人間の腕4つ分、吹き飛ばされどこかに衝突するのを心配したのだ


「ぐおおぁ!」


 二人はゴロゴロと岩肌へ転がり

 そして息を切らしながら起き上がった


「大丈夫!?!!」


 ハルが叫びカイムと共に二人の元へ駆け寄る





「アガレズてめぇ……勝算があるのかと思ったから来たのによぉ…」


「はぁ…?何を行ってるんだい、そんな事は言ってない」


「てめぇくっそぉ!!これどうやって勝つんだ!!!」


「おちつけーーー勝算は無いが、攻略法は、ある…一応ね」


「おお?なんだ!」


「教えるからとりあえず…!ヨツンヴァインから隠れるぞ!!!!」



「隠れるってどこへ!!!!」


「さて、喋らずに走る!!!ついて来い!!」

そうアガレズが指示を出し、全員がそれに続いてゆく

 
「うおおおおおおおおお!!!!!!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 数十秒、あるいは数時間だろうか、4人は命がけの鬼ごっこを繰り返し、なんとかヨツンヴァインから逃げ切った。


 現在は大樹の木陰で作戦を立てている途中


「さて…3人共よく聞いてくれ、ヨツンヴァイン の弱点は、"身体能力の低さ"だ」

 カイムがぼやく

「あれが低いい?エアプが、木一本折り曲げて吹っ飛ばしてたぜ」

「いやちがう。あれはただ単に体を振り回してるだけだ。そもそも俺達の何倍も大きな存在何だから、叩くとかせずに歩き回って踏み潰せば、何もしなくても俺達なんてすぐ殺せるだろ?なぜそれをしない?」

「…お~」

「ーーヨツンヴァインは知性が低い、巨人としての体の使い方を分かってないのさ…」 


「………なるほど」


 アガレズの説明に納得する3人。言われてみれば、あの状況で生き残れる確率は0だ。何故、今生きているのか、その理由は巨人の身体的能力不足にあった。


「そして、身体的能力ならこちらの方が断然上ということは…それを駆使して行く必要がある。

 つまり、切り傷でいい、走り回って、小ダメージを与え続けろ、そして瀕死にさせてからきのこ村へ運びアデルにぶつける、運び方には俺に考えがあるから大丈夫」


「……なるほど、理にかなってる、だがそれはどうやって?走り回ってとか…さっきの見れば無理ってわかるだろ」

「そう、そこで……車を使う」



「……く?」


「るま…?」



「なんだそれ……」


「……………君たちの村は……かなりの発展途上国だね……」


「そ、そうだよ…クルマってなに…?」


「…………あとで見せる、その時話そう。」


「ああ…わかった……」


 

「………………」


 沈黙が走る。今更会話に困ったとかではない。ただただ、全員に疲労がやってきたのだ。皆へたり込み、ため息を付く


「今…きのこ村、どうなってんだ…」

「生きてるさ…今のアデルは俺達を舐めている、増援を呼んだらしいがあれ以上死人はでない…と思いたい。ただ、今頃上級の皆は再起不能になるほど痛めつけられてるだろうけどね」


「アガレズ!おまえ不吉なこと言うんじゃねぇよ、チッ」

「実際そうだろう。キノコ村は俺からみても相当弱い。一級だの英雄だの言われてるレイも、たしかに強いが、他と比べてとてつもない秀でた才能があるわけでもない。完全に戦力不足だ。」


「…アガレズ」

 ハルが寝た態勢から起き上がりアガレズをにらむ


「まあそうおこらないで欲しい。俺はこうやって語るのが好きなんだ。ただ君等を馬鹿にしてる訳じゃない。批判してるんだ」

「批判だと?」


「そう、批判、なぜ君たちはここまで弱いのか…それはね?」


「…」



「……君たちが、抗う事を諦めなかったから」



「………何言って…」



「ーーさぁ、そろそろ行こうみんな、クルマを見せてやる、秘密の倉庫があるんだ、そこへ行く」


「ーーーさっきの話はあとでするか、アガレズ、その倉庫へいくのに何分かかる?」


「ふっ…見渡したところにある」


「え……あ」


 よく周りを見てみると、この場所は他の場所と比べ妙に整っていた。木が生い茂っていても、汚い葉っぱのようなものは見受けられず、森特有のデコボコとした道もない

「アガレズ…もしかしてここ、お前の私有地?」

「俺と言うか、俺含めた偉い人達の研究所、かな」

「ふぅん…?」


 そして右の方に、言われてみれば倉庫だな、と思うような場所があった。

 アガレズは歩いてそこへ行き、ガレージを開ける

 ガラガラガラガラ…と音が立つ

「これが……くるま…」


 見せられたのは今で言うバギーだった。鉄臭く錆びているが、クルマをしらないキノコ族からはとても新鮮に映る


「さあ乗れ、機能は後で教える

 ーーーここからが本当の勝負だ」


 そう言って、彼らは目を見合わせた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

10のベッドシーン【R18】

日下奈緒
恋愛
男女の数だけベッドシーンがある。 この短編集は、ベッドシーンだけ切り取ったラブストーリーです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...