タケノコの里とキノコの山

たけ

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ニ章 

第二十六話 幽霊はいる

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話はこうだった

きのこ村の少し西側にある廃墟、そこは昔入ったら生きては戻れない場所として都市伝説となる。

キノコ軍により廃墟の入口が施錠され、定期的にキノコ軍上級を率いて廃墟の入口付近の探索をしている。

今回の事は、その中で起こった出来事だった。

3級パアワを先頭に数人の舞台で探索へ進むが
パアワ以外は、全滅だ。

「ああ………………」

ハルは絶望していた。クビが折れるほど椅子に持たれかけ、目を伏せる

ここはレイの私室

「そこに…シズさんが…いたんですね」

「そうらしい シズも、キノも、ナギサも、それに…」

シズは隊員の名前をほぼ全て覚えているようだ。
仲間への思いやりと記憶力に感嘆している暇はない

シズとの思い出を脳に浮かばせていた

大げさにも見える笑顔で笑っていた。こんな自分に隣人として尽くしてくれた。心に傷なんて無いように見えた。頭がぐるぐるする。恩返しのようなものは出来なかった。

せめてもの救いは、たけのこ軍に殺されなかったことだろうか

「……こういうことって、日常茶飯事なんですか」

「え…ああ、そうだよ。みんな、毎日たくさん死ぬ。昨日私と道のでぶつかって土下座してきた人も、今日死んだよ。あとは」

「いや、あ、いいです…」

妙に落ち着いてるように見えたのは周りの死を日常的に見てきたからか

ーーキクもカイムも、自分も、こんなふうに死ぬのか

そういう世界なのか、受け入れるしか無いのだろうか。

「レイさん」

「うん」

「廃墟にいたアポロ族…後日、調査に行く予定とかは、ありますか?」

「ーあるよ。よくわかったね。そりゃそうか
明後日、深夜帯、私とイアンで潜入して、施錠された先を調査する。」

予想的中だ。やはりキノコ軍は調査にいこうとしていた
都市伝説のようなものではなく、実際に死体や怪我人を世間に目の当たりにした今、たけのこ軍よりもアポロ族のほうが
住民にとって不安材料だ。最速で問題を解決するなら、こちら側から乗り込んでしまうのが速い。

「それに、俺もいっていいですか」

「ーーーえ

ーーーえ?」

「俺はあなたの後継者という立場でやらせてもらってる。なのに、シズさんみたいにあっさりと死にたくない。ここにいるならいつか戦いにまけて死ぬ確率のほうが高い。死因はきっと、不意打ちとか、なにもやくに立たずに死ぬ感じだ。

だったら、こういう局面で囮にでもなって死にたいんです。シズさんみたいには、なりたくない。勿論死にたくないから死なないように動きますけど、しぬなら…」

「本気か」

「俺!4級になったけど…!ヤミとの戦いで何もしてないです!端で!うろうろしてたら!二人が倒してくれた。あんな戦いで生きていくなら、こういうところでだれかのやくにたってしぬ!
後継者として、これくらいはやりたいです」

悔しかった。ヤミとの戦いでは肉壁にでもなればよかったかもしれない。その勇気もなかった。剣を振り回してただけだ。

ここにいる中で少しずつ死に対する考え方が変わってきた

ここでは役に立たない自分なんて、食料を無駄にするだけだ。なら死んだほうがいい

役に立たないなら 役に立てないなら

死んでやる
もしここでしんだら、自分は後継者としてそれだけの人間だったということだろう。生還したら、もう少し誇りを持って生きてみよう。

調査についていくのはそのチャレンジ、自分への試練だ。こんな形で、4級にはならない。経験と実力を積んで、誇りをもって4級という立場をもらう

「ハル…君の考えることは君の性格から何となく分かる。ネガティブ過ぎるよ。その考え方なら、行かせてあげない」

「……っ」

「ただし、考えを改めたら考えてやらないこともない。そもそも、ネガティブ過ぎる以前に考えがあやふやだ。囮にでもなって役に立って承認欲求でも得たいのか、誇りをもって生きていくための試練として行くのか、どっちだ」

「………」

答えられない。どちらも、とは言えない

「後者の考え方なら、考える 死ぬなんて 囮なんて 絶対に言うな

…君をそんなことにはさせない」


「……………っ」

鳥肌がたった。自分とは全く違う。芯の通った考え。愚か、愚かだ。

命を、何だと思ってるんだ自分は、自分の、それも自分の。これは試練、強くなるための試練だ

「ーーはい」

一級のレイをみていたら一瞬で考えが変わった。
気持ちの整理をつけたら、あらためて頼みに行く

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「………ってさ、どうする?イアン」

「ハル…やっかいもんが軍に入ったもんだねぇ…仲間想いというよりはお人好し、自己肯定感が低くて、芯がなく考え方がゆるゆるだ。ああいうやつが最初に死んでいく。いいさ、連れて行こう
現実を見せてやって、舐めた考えを傷にして残す。最高だ」

「連れていくのには、賛成してくれるんだな?よかった。
…けど、ちょっとだけ異議ありだ。ハルは今は不安定な状態かもしれない。でも、でもだ。追い詰められたときは血眼で物事を動かす熱い人間性があいつにはあるはずなんだ。どこかで変わる。」

「うるさいなぁ…喋りすぎだ。わかってる。2級になって結構時間が経つ。素質のあるやつとない奴の見分けはつく。ハルは、強くなるよ
ただ、今のままだと誰よりも弱いってだけ。」

「う…今弱いってのは、否めないな…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その日の夜 仮面をつけた男が中を舞う

仮面の先は漆黒に染まり、何一つ寄せ付けない暗い表情。まるで、何かに諦めているような

仮面の男が目指す先は たけのこ軍 本部

森を跳ねながら抜け、家の屋根から屋根に飛び移り、誰にも見つからないように、誰にも見つからないように、最短で、とある部屋に向かう

そして

仮面の男がドアをノックする。

「ーはい。」

「…俺だ」

心地よく軋むドアの音がして仮面の男が部屋の中に入る

仮面の男を迎えたたけのこ族の男が喋る。歓迎しているというよりは、事務的な作業をおわらせるような喋り方で、喋る。

「お久しぶりです 3ヶ月ぶりでしょうか
肝を冷やしましたよ おとといは…」

「前置きはいい。黙れ
嬉しいニュースだ 上級とハルとかいうやつの会話を盗み聞きしてやった。キノコ軍はアポロ族の調査に行くらしい。お前も知ってるよな」

「ああ…私達の祖先…でしたっけ。都市伝説を信じるとは、これだからきのこ族は…」

「いいや、馬鹿はお前。アポロ族は、いる」

「……ほう。それで、嬉しいニュースということは、都市伝説の調査に行くことですか?しょうもない…」

「へっ。都市伝説とおもうなら行かなくていいぜ。ここに来る前空を飛んで観察してきた。アポロ族……"いる"ぜ」

「信用なりませんが…まあ、行ってみる価値はありますね。…本当に祖先ならば、聞きたいことが沢山ある。不死鳥様はなぜあそこまで偉大なのか…と」

「………あまり長くはいられない。俺はもう出てくぞ。伝えたいことは対してない」

「ふっ…わかりました。情報提供感謝します。
キノコ軍と同時にそちらに行ってみましょう。素敵な血が見れるはずだ。」


「そうだぜ…………アデル」

二人の男が、不敵な笑みを浮かべた。
そこにあるのは 悪意だけだった
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