俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第六章

ヴィッツ

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何とかヴィッツを教会まで連れてくる。シュティレは待っていてくれた。
彼女は彼を見ると、ベンチへ促した。
「…飲んじゃったの…?」
「うん…ごめんね、せっかく忠告してくれたのに。」
ヴィッツは倒れるようにしてベンチに横になった。腕を火照った顔の上に乗せ、ゆっくりとした呼吸を繰り返している。
「ごめんねぇ…ごめん…。」
彼はぶつぶつとうわ言を呟く。シュティレは俺にそっと耳打ちした。
「お兄様が、近くに来ている…。」
「え、オルクスが?」
「オル君!?」
突然ヴィッツが跳ね起きた。
「どこ、どこにいるの、オル君は?あぁシュティレ嬢、お久しぶり。」
「お久しぶりです、ヴィッツさん。」
シュティレは慣れたように返事をする。
「会いたい、教えてくれない、ね?オル君どこ?」
「それは…。」
ヴィッツの問いに答えるように、教会のドアが開いた。
「ここだ。」
オルクスがそこに立っていた。先程の会話を聞いていた―つまり、教会の側にずっといたのだろうか…妹の為に。入る時には全く気がつかなかった。
「オル君!!」
ヴィッツはふらふらと立ち上がると、オルクスの元へ歩く。
「ヴィッツさん、今は動かない方が…。」
シュティレが止めるも、彼は歩き続けている。オルクスはいつもの冷たい目で彼を見ていた。
ヴィッツがオルクスの目の前まで来ると、オルクスは口を開いた。
「…外に出るぞ。」
シュティレは何も言わない。ヴィッツに向けて言ったのだろうか。
ヴィッツはただオルクスを見つめていた。その目には何の感情が浮かんでいるのか、俺には分からない。
オルクスが外へ出ると、ヴィッツもそれに続いた。
「…シュティレ、彼らって…。」
話しかけるも、彼女はドアの方を向いたまま黙っている。
(…気になる)
行かない方がいいのだろうが、一応俺にも関係あることかもしれないから…と心の中で言い訳しながら外に出た。
少し離れた場所で、オルクスとヴィッツが向かいあっていた。
ふと、hpが表示されていることに気がつく。
(エアモルデンじゃないのに…獣人達が使っていた能力…?)
すると、ヴィッツが銃のような巨大な機械を取り出した。両手で抱えてギリギリ持てるくらいのそれの引き金を、躊躇なく引く。
その瞬間轟音と共に土煙があがって周りが見えなくなった。
(な、何だ!?)
しばらくして見えるようになると、ヴィッツだけがそこにいた。
「…あー…また、駄目だったかぁ…。」
彼はそう言って頭を掻いた。
「気は済んだか。」
後ろから声がする。振り向くと、オルクスは教会のドアに寄りかかって立っていた。
「これは…一体…。」
ただでさえ危険なヨシュカを全員集めて、果たして俺は無事でいられるのだろうか。
当初は想像もつかなかった不安が、俺にため息をつかせた。
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