俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第五章

気づき

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「…プファラーの仕事はほとんどしていなかったよ。」
教会に着くと、俺は椅子に座り自嘲気味に笑った。
(そういえば…確か)
ふと思いだし、アイテム欄を開いた。
「どうかしたの…?」
不思議そうにアイテム欄を眺めるシュティレに、シュピッツから貰った瓶を見せた。
「これを貰ったんだ。教会に飾ってくれって。」
「綺麗…。」
取り出して彼女に渡す。
瓶は窓から射し込んだ光に照らされて輝いている。爽やかな空色で、気泡が入っているためまるで海の一部を切り取ったかのように鮮やかだった。
静かな教会で、ふいにノックの音が響いた。
「すいません、どなたかいらっしゃいますか?」
「ああ、はい!今行きます!」
もう少しシュティレと二人きりの時間を過ごしたかった。そんなことを考えている自分に気づいて顔が火照りそうになる。
気持ちを切り替えようと深呼吸をしてドアを開けた。
「シャルさん!突然すみません、どうしても貴方の教会が見てみたくて…。」
「…教会があるって、何故知っているんですか?」
素朴な疑問だった。中央教会で話した時は、俺が教会を持っていることを知らないように見えたからだ。
「嗚呼、つい先程…トゥテラリィの一人から聞いたんですよ。フライハイトに最近教会ができたことは知っていましたが、まさかシャルさんの教会だったとは…。」
(トゥテラリィの人が、どうして俺の教会を…?)
余程嬉しいのか、ミスィオーンはずっとそわそわしている。
小瓶を持ったままシュティレが歩いてきた。
「初めまして…。」
「あ、シュティレは初対面だったね…こちらはミスィオーンさん、守護者トゥテラリィの隊長だよ。ミスィオーンさん、彼女はシュティレです。」
穢れた者と呼ばれるオルクスの妹を紹介して良かったのだろうか。
後からそんなことを考えるが、どうしようもない。この状況で紹介しないのも不自然だ。勘の良いシュティレなら、トゥテラリィの人にエアモルデンから来たなんて言わないだろうし。
「よろしくお願い致します、シュティレさん。」
「よろしく、お願いします…。」
晴れやかな笑顔で挨拶するミスィオーンに対して、シュティレはぎこちなく答えた。
「あら、その瓶は…。」
シュティレの持っていた小瓶にミスィオーンが反応した。
「シュピッツから貰ったんです。」
「そうですか、彼が…その瓶は私が彼に渡したものです。」
ミスィオーンは、大して気にしていないようなよく分からない顔だった。
「先週、メーアに行ったんです。観光ではなく、トゥテラリィの活動としてですが。そこで拾った物ですよ。」
「メーア?トゥテラリィの活動…何をしに行ったんですか?」
シュティレは話を聞いているのかいないのか、瓶を光にかざして楽しんでいた。気を使ってくれているのだろうか。
「メーアの陸…海岸ですが、そこに謎の洞窟があるとの報告を受けました。そこに宝物があるのかもしれないと。…お恥ずかしい話ですが、私達がそれを手に入れて活動資金にしようと…。」
本当に恥ずかしいらしく、ミスィオーンは目をそらした。
「この瓶、文字が書いてある。」
今まで黙っていたシュティレがぽつりと言った。光に照らした瓶を見つめている。
「文字?」
「『キテクレ』って…。」
俺も見てみると、確かに瓶の底に彫られたように書いてある。光にかざした時だけその文字が浮き出るようだった。
「全く気がつきませんでした…。」
ミスィオーンは目を丸くした。俺もずっと持っていたが、そんな文字には気がつかなかった。
「キテクレ…メーアに、だよね。行ってみようか。」
「すいません、私は中央教会に戻らなくてはいけないのです。」
「私は、暇。」
シュティレが小さく手を上げた。
「じゃあ、一緒に…」
そう言いかけると、シュティレがくるりと後ろを向いた。
しばらくした後、申し訳なさそうに俺を見た。
「…行けなくなった。お兄様が、行くなと…。」
「オルクスが?どうして…。」
「それと、伝言。『あいつに会うなら、絶対に飲み物を飲ませるな。』だって…。」
状況が飲み込めない。少なくとも、俺は行っていいのだろう。
「…じゃあ、僕一人で行くよ。」
「お兄様の言う『あいつ』の見当はつく、私もお兄様と同意見…もしこの小瓶が彼の物なら…気をつけて、シャル。」
「そんなに危険…会って大丈夫?」
瓶の為に危険な目に会いたくはない。
「いずれ会うことになるだろうから…。」
シュティレの意味深長な言葉は、今の俺には分からなかった。
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