俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

文字の大きさ
上 下
48 / 95
第五章

アーベント

しおりを挟む
「捕まえるって、どういうこと…?」
俺の代わりにシュティレが質問してくれた。
「だからぁ~ないとが死んじゃったからぁ、他の熊さん捕ってきてよぉ!」
答になっていない返事が来る。フェイはただをこねる子供のように地団駄を踏んだ。
「熊を捕まえればいいってことなら…了解した。」
「よろしくぅ!」
シュティレはその指示で満足したらしい。
「シュ、シュティレ?」
「シャルも…行く?」
彼女は振り返った。この状況でフェイと二人きりは遠慮したい。
「うん、行くよ…その前に、傷大丈夫?」
「…すっかり忘れていた。」
薬を取り出すと、傷口が光り修復されていった。
「ちょっとぉ…早くしてよぉ?」
フェイに急かされるようにして俺達は駆け出していった。
「…と言っても、そこら辺にいるのかな?熊って。」
「エアモルデンには、沢山いる…。」
走り疲れて歩き始めると、シュティレもそれに合わせてくれた。
時折草が揺れるのではっとする。しかしそれは風か、兎のような小動物だった。シュティレは何故か兎になつかれてしまい、兎を連れたまま進むことにした。
「可愛いね、うさぎ。」
話すことがないので兎の話をしてみる。シュティレは頷いただけで、特に何の反応も無かった。
兎は白い毛で、赤い目をしていた。シュティレにちょっと似ているな、と思った。
観察していると、兎が突然走り出した。追いかけようとすると止められる。
「シャル…近くに、いる。」
「いるって…。」
シュティレはかがんで兎の足跡にそっと触れた。
「熊が、いる。兎はきっと…熊と反対方向に逃げたんだと思う。」
地面が揺れた気がした。地響きのような、これは…ついさっき経験したばかりだ。
「…足音がするね。」
彼女は銃に薬を入れた。
「睡眠薬だから…死なない。」
それを見ていた俺の顔が不安そうに見えたらしい。
「一発で、仕留める。」
そう言うと俺の後ろに向かって発砲した。
あまりの速さに、俺に銃が向けられた時は驚く暇もなかった。
振り向くと熊はうつ伏せに倒れていた。
(呆気ないなぁ…)
熊の運びかたは分からないので、俺がフェイを呼びに行くことになった。
シュティレなら熊が復活しても大丈夫な筈だ。熊と二人きりにしておくより、フェイと二人にする方が心配だった。
(口軽そうだから、ヨシュカのこととかすぐ言いそう…俺もフェイと二人きりは嫌だけど)
何となく、フェイは苦手だ。
「フェイ!熊捕まえたよ!」
フェイはその場で座って待っていた。
「お疲れ様ぁ!」
フェイは俺を見ると立ち上がって俺が来た方向へ駆け出した。
「あっ、ちょっと…!」
慌てて後を追う。途中何度も長い蔦などで転びそうになりながら、やっとシュティレの所へ着いた。
フェイは既にいて、熊を眺めていた。
「決めたぁ!この子はぁ…アーベントぉ!」
どうやら名前を考えていたらしい。一人でうんうんと頷くと、頭を撫でた。
「メッサー。」
彼女はごく自然に、その言葉を呟いた。

【メッサー発動】

【狩人・メッサー   『ファミーリエ』】

とっさに身構える。しかし、彼女が攻撃する素振りはない。
不思議に思うと熊に変化があった。
熊の体が光り、どんどん小さくなっていく。最後には毛皮が布に変わり、ぬいぐるみとなってしまった。それは、写真で見たあのぬいぐるみと瓜二つだった。
「これが狩人の能力だよぉ。」
フェイはぬいぐるみを抱き上げて、挑発的に笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

『完結済』ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

女神の代わりに異世界漫遊  ~ほのぼの・まったり。時々、ざまぁ?~

大福にゃここ
ファンタジー
目の前に、女神を名乗る女性が立っていた。 麗しい彼女の願いは「自分の代わりに世界を見て欲しい」それだけ。 使命も何もなく、ただ、その世界で楽しく生きていくだけでいいらしい。 厳しい異世界で生き抜く為のスキルも色々と貰い、食いしん坊だけど優しくて可愛い従魔も一緒! 忙しくて自由のない女神の代わりに、異世界を楽しんでこよう♪ 13話目くらいから話が動きますので、気長にお付き合いください! 最初はとっつきにくいかもしれませんが、どうか続きを読んでみてくださいね^^ ※お気に入り登録や感想がとても励みになっています。 ありがとうございます!  (なかなかお返事書けなくてごめんなさい) ※小説家になろう様にも投稿しています

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

処理中です...