俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第五章

フェイ

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「シャルッ!!」
シュティレに突き飛ばされたかと思うと次の瞬間、シュティレの背中を弾丸が滑る。
「シュティレ…!!」
倒れそうになった彼女を支えると、軽く押し退けられた。
「回復薬あるから、平気。」
「でも…早く治さないと…!」
慌てる俺を、シュティレは意外そうな目で見ていた。
「大丈夫だから。それより、彼女…。」
「お話は終わったぁ?」
フェイという彼女を見ると、二発目を撃とうと構えていた。
「グロース発動!」

【グロース発動】

【プファラー・グロース『十字架クロイツ』】

シュティレを傷つけた。手加減する必要はない。
十字架から放たれた光が彼女に伸びる。
それを見ても彼女は特に驚いた様子はない。
「最初からグロース使うとかぁ、メッサーに自信がないのぉ?」
フェイの銃口から出た弾丸は光の帯を撃ち落としていく。
光がゆっくりと消えると、木々には帯が通った跡がくっきりと残っていた。
(撃ち落とせるなんて…フェイ…戦い慣れてるのか?)
フェイはにやりと笑うと、傍らで傍観していたシュティレに狙いを定めた。
(シュティレは駄目だ!!フェイの動きを止めないと…)
ふと、あることを思い付く。
「それなら、こうだ!!メッサー!」

【メッサー発動】

【プファラー・メッサー『ゲナウ』】

本を相手に向ける。再び辺りが光で満ちると、フェイは狙いをシュティレから俺の手元の本に変えた。
「グロース発動!!」
「まさかぁ…グロースとメッサーを同時になんて体力がもたないはずぅ!…でもぉ、フェイならだいじょぉぶぅ!!」
フェイは自分に襲いかかる光を撃ち落としながら、後ろに跳躍しようとした。
「動くな。」
その背後には、シュティレが首元にナイフをあてていた。
「…うぅ。」
フェイは両手を挙げ銃を落とした。
(状況の把握が早い…)
余裕があるようにゆっくり歩いてみせる。近づく俺を彼女はじっと見ていた。
「あなたを探していた。」
「フェイをぉ?…あぁ分かったぁ!ナイト様の会に入りたいのねぇ!」
彼女は冗談ではなく本気でそう思っているようだった。
「違う。…シュティレ、その…ちょっと席を外してもらっていいかな。」
シュティレは小さく首を振った。
「…この状況では、無理。」
(…確かに)
「私のことは気にしないで。会話の内容は他言しない。」
「…分かった。じゃあフェイ。」
既に待つのに飽きたのか、自分の銃を足で弄ぶ彼女に声をかけた。
その時、あることに気がつく。

彼女の目は…紫ではなかった。

濃いピンクのような色をした目が俺を見ていた。
『君は…。』
問いを飲み込んでしまう。
しばらくの沈黙の後、フェイはにっこりと笑った。
『ヨシュカだよ。』
『…その目の色は、どうして。』
どうして紫ではないのか。
目に手を当てて彼女は答えた。
『カラコンだよぉ…カラコンは禁止されてるけどぉ、こっそりやってる子がいるから分けてもらってるのぉ!』
(その手があったか…)
確かに、見た目でヨシュカかどうか判断する基準は目しかない。
その目さえ誤魔化してしまえば見分けはつかないということだ。
『あなたはエアモルデンのヨシュカなのぉ?』
(オルクスのことを…知らない?)
『違う、俺は…フライハイトのヨシュカだ。』
『フライハイトぉ…あぁあの田舎ぁ!』
そう言って、ぽん、と手を打つ。
(い、田舎…)
『君に聞きたいことがあるんだ。その…ナイトに、ついて。』
ナイトと聞いた瞬間顔を輝かせた。
『ナイト様ぁ!!そうだなぁ…ないとの代わりを捕まえてくれたらぁ、教えてあげるぅ!』
捕まえるの意味がよく分からなかったけど、せっかく交渉を持ちかけてくれたのだから、断る理由はない。
シュティレをずっと放っておくのも悪いので、一人言モードを解除する。
「分かった。先にナイトの情報を言ってくれ。」
「…ナイト。」
シュティレが素早く反応する。
フェイは頷いた。
「私はナイト様が有栖ありすりょうだと思っているの。」
「…アリス?」
オルクスにしては随分可愛らしい名字だ。
「有栖涼、2月4日生まれ。アリス財閥の社長の息子。23歳。」
「彼は小学生の時に自殺しました。」
シュティレが遮った。フェイは動じずに答える。
「知ってるよぉ。死んでたと思ったら生きてる!ってよくあることだよぉ…特に、ああいう有名人はぁ。」
シュティレは怯えたようにフェイから離れた。すぐに『ないと』にフェイが駆け寄る。
既に熊は死んでいた。苦しそうに見開かれた目、口から溢れだした泡。こんなに短時間で死ぬなんて、シュティレの毒は相当強いものらしい。
フェイが俺を見上げた。その顔には、熊が死んだ悲しみなどは一切表れていなかった。
「さぁ、ないとの代わりを捕まえてねぇ!」
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