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第四章
言い訳
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「ここだよ。」
イデーを中央教会へ連れて行くと、興味津々といった様子で見渡した。
「ほう…偵察にはよく行かせていたが、我が来るのは初めてだ。」
「シャルさん!」
俺を見つけると、中からミスィオーンが出てきた。
「そちらは、獣人の長の…。」
「イデーだ。大丈夫、もう話し合ったから何もしないよ。」
慌ててフォローすると、イデーはそっぽを向いた。
「…どうぞ。」
ミスィオーンも少し怒っているように見える。
(…やっぱりこの二人を会わせちゃ駄目だったかな…でも、これでオルクスのことがうやむやになってくれたら…)
俺とミスィオーンは教会の中へ入ったが、イデーは立ち止まったままだった、
「シャル。」
「どうしたの?」
「…使いたくはなかったが…仕方ない。」
そう言って下手な舌打ちをする。
『我は中に入らない。』
『え、どうして?』
『我は汝に指示を出す。フロイント登録をしろ。』
言われるがままに登録する。
『これで良い。行ってこい。』
「シャルさん?どうかされましたか?」
ミスィオーンが戻ってきて、俺は笑顔で誤魔化す。
「大丈夫ですよ、今行きます!」
彼女の所へ駆け寄る。彼女は俺の後ろをちらりと確認すると、俺を見上げた。
「彼女は来ないのですか?」
笑顔を張り付けたまま、返事する。
「ええ、他のトゥテラリィの方々を不安にさせたくありませんから。」
「そうですね…その方が助かります。」
イデーに嫌味たっぷりに言うと、スタスタと中へ入っていった。
置いていかれそうになり、早歩きでついていく。
『シャル、しっかりやるんだぞ。』
ミスィオーンに気付かれないようイデーを見ると、厳しい視線をミスィオーンに向けていた。
(怖っ…)
「シャルさん…。」
中では、俺に心配そうな眼差しを向けるトゥテラリィ達が待っていた。
(…もう『救世主様』じゃないんだな)
ミスィオーンが振り返る。
「…早速本題に入らさせて頂きますが…オルクスとは、どういったご関係で?」
(…来た)
想定内の質問。しかし答えは用意していなかった。
[シャル、聞こえるか?]
[…うん。イデーはここの様子が分かるの?]
[ああ…そこに我の信者が紛れ混んでいるからな。]
[スパイ!?]
思わず周りを見渡す。
[…全然分からないんだけど。]
『その話はいい。我が言ったことをそのまま言え、いいな?』
[う、うん。]
ミスィオーンを改めてしっかりと見る。ミスィオーンも俺のことを真っ直ぐに見つめていた。
[オルクスは自分が仕組んだことだ。]
「オルクスは僕が仕組んだことです。」
皆がざわつき始める。
[フォルストに来る前我と会うことをオルクスに伝えていた。オルクスとはそれだけの関係だ。]
「フォルストに来る前彼女と会うことをオルクスに伝えていました。彼とはそれだけの関係です。」
「…何故、彼と会うことができたのですか?彼は滅多に人前に姿を現さないはずです。」
[それは…。]
「それは…。」
イデーからのメッセージが途絶えた。
(…まさか、思い付かないのか!?あの自信は何なんだよ…!!)
「彼とは前から交流があったのでは?」
ミスィオーンの言葉一つ一つが的確に正体を暴こうとしていた。
「違います。」
はっきりと否定する。
「では、何故…」
「俺は!!」
しんと静まり返る。
「…オルクスと約束をしました。」
「…約束?」
[シャル、一体何を…。]
イデーのメッセージは無視する。
「オルクスはイデーを殺そうとしていました。俺はそれを知り、オルクスにイデーと会うから和解した後イデーを捕らえる協力をすると約束しました。オルクスと会えたのは偶然です。エアホーレンで会いました。」
偶然エアホーレンで会ったのは嘘ではない。
「…オルクスは穢れたエアモルデンの、支配者です。そんな者とプファラーが関わるなど…。」
「勿論知っています。しかし!」
前と同じように、大きく腕を広げた。
「僕は救世主、絶対的な存在です!エアモルデンごときで穢れはしません…例えこの身体を犠牲にしても、穢れた場所へ踏み入れなくては人々を救うことなどできません!!」
トゥテラリィの中で一人の声が響いた。
「嗚呼、流石救世主様!!我々のためにその身を捧げたのだ!あのような場所で救世主様は穢れはしない!犠牲にすることで更に、その神聖さを高めなさったのだ!!」
それを聞き、同意を表す拍手が一斉に始まった。広い教会ではその音が何倍にもなった。ミスィオーンはしばらく驚いていたが、やがて照れくさそうに俺を見た。
「…やはりシャルさんは真の救世主です。」
そして彼女も拍手をした。
[よくやった、シャル。]
イデーに返信する。
[…なんとか成功したよ。]
イデーを中央教会へ連れて行くと、興味津々といった様子で見渡した。
「ほう…偵察にはよく行かせていたが、我が来るのは初めてだ。」
「シャルさん!」
俺を見つけると、中からミスィオーンが出てきた。
「そちらは、獣人の長の…。」
「イデーだ。大丈夫、もう話し合ったから何もしないよ。」
慌ててフォローすると、イデーはそっぽを向いた。
「…どうぞ。」
ミスィオーンも少し怒っているように見える。
(…やっぱりこの二人を会わせちゃ駄目だったかな…でも、これでオルクスのことがうやむやになってくれたら…)
俺とミスィオーンは教会の中へ入ったが、イデーは立ち止まったままだった、
「シャル。」
「どうしたの?」
「…使いたくはなかったが…仕方ない。」
そう言って下手な舌打ちをする。
『我は中に入らない。』
『え、どうして?』
『我は汝に指示を出す。フロイント登録をしろ。』
言われるがままに登録する。
『これで良い。行ってこい。』
「シャルさん?どうかされましたか?」
ミスィオーンが戻ってきて、俺は笑顔で誤魔化す。
「大丈夫ですよ、今行きます!」
彼女の所へ駆け寄る。彼女は俺の後ろをちらりと確認すると、俺を見上げた。
「彼女は来ないのですか?」
笑顔を張り付けたまま、返事する。
「ええ、他のトゥテラリィの方々を不安にさせたくありませんから。」
「そうですね…その方が助かります。」
イデーに嫌味たっぷりに言うと、スタスタと中へ入っていった。
置いていかれそうになり、早歩きでついていく。
『シャル、しっかりやるんだぞ。』
ミスィオーンに気付かれないようイデーを見ると、厳しい視線をミスィオーンに向けていた。
(怖っ…)
「シャルさん…。」
中では、俺に心配そうな眼差しを向けるトゥテラリィ達が待っていた。
(…もう『救世主様』じゃないんだな)
ミスィオーンが振り返る。
「…早速本題に入らさせて頂きますが…オルクスとは、どういったご関係で?」
(…来た)
想定内の質問。しかし答えは用意していなかった。
[シャル、聞こえるか?]
[…うん。イデーはここの様子が分かるの?]
[ああ…そこに我の信者が紛れ混んでいるからな。]
[スパイ!?]
思わず周りを見渡す。
[…全然分からないんだけど。]
『その話はいい。我が言ったことをそのまま言え、いいな?』
[う、うん。]
ミスィオーンを改めてしっかりと見る。ミスィオーンも俺のことを真っ直ぐに見つめていた。
[オルクスは自分が仕組んだことだ。]
「オルクスは僕が仕組んだことです。」
皆がざわつき始める。
[フォルストに来る前我と会うことをオルクスに伝えていた。オルクスとはそれだけの関係だ。]
「フォルストに来る前彼女と会うことをオルクスに伝えていました。彼とはそれだけの関係です。」
「…何故、彼と会うことができたのですか?彼は滅多に人前に姿を現さないはずです。」
[それは…。]
「それは…。」
イデーからのメッセージが途絶えた。
(…まさか、思い付かないのか!?あの自信は何なんだよ…!!)
「彼とは前から交流があったのでは?」
ミスィオーンの言葉一つ一つが的確に正体を暴こうとしていた。
「違います。」
はっきりと否定する。
「では、何故…」
「俺は!!」
しんと静まり返る。
「…オルクスと約束をしました。」
「…約束?」
[シャル、一体何を…。]
イデーのメッセージは無視する。
「オルクスはイデーを殺そうとしていました。俺はそれを知り、オルクスにイデーと会うから和解した後イデーを捕らえる協力をすると約束しました。オルクスと会えたのは偶然です。エアホーレンで会いました。」
偶然エアホーレンで会ったのは嘘ではない。
「…オルクスは穢れたエアモルデンの、支配者です。そんな者とプファラーが関わるなど…。」
「勿論知っています。しかし!」
前と同じように、大きく腕を広げた。
「僕は救世主、絶対的な存在です!エアモルデンごときで穢れはしません…例えこの身体を犠牲にしても、穢れた場所へ踏み入れなくては人々を救うことなどできません!!」
トゥテラリィの中で一人の声が響いた。
「嗚呼、流石救世主様!!我々のためにその身を捧げたのだ!あのような場所で救世主様は穢れはしない!犠牲にすることで更に、その神聖さを高めなさったのだ!!」
それを聞き、同意を表す拍手が一斉に始まった。広い教会ではその音が何倍にもなった。ミスィオーンはしばらく驚いていたが、やがて照れくさそうに俺を見た。
「…やはりシャルさんは真の救世主です。」
そして彼女も拍手をした。
[よくやった、シャル。]
イデーに返信する。
[…なんとか成功したよ。]
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