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第二章
早過ぎた帰宅
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[ユスティーツ、手伝ってくれ。まだあいつはエアホーレンに…]
[居ないよ、もう。]
走っていた足が止まる。
[…え?]
[もうテレポートしてるよ、きっと!オルクスは逃げ足が早いんだ!]
[そんな…じゃあ、直接エアモルデンに行くしかないってのか?]
[それはやめておきなよ!エアモルデンはオルクスの領域。庭みたいなものさ!絶対に見つかりはしないよ、それこそ…オルクスが自分から現れない限りはね!]
(仕方ない、今回は諦めるか…)
最近レーツェルに教会の留守番を頼みっぱなしなので、今日は早めに戻ることにした。
【テレポート・フライハイト 実行します】
教会のドアを開けただいまと言いかけた俺の目の前に、一人言モードの吹き出しが飛び込んできた。
『創造主よ。今日も私の悩みは晴れないのです。』
「…え?」
きっとこれはレーツェルの吹き出しだ。しかし、どういう意味なのかはわからない。
俺の吹き出しに気がついたレーツェルが、動揺した様子で懺悔室の方向から現れた。
「シャル…!?帰ってたの?」
「…あ、あぁ。ちょうど今、帰ってきたところだよ。」
「そう…。」
気まずい雰囲気になる。何回目だ、これ。
「…あ、のさ…そのマント、脱がないの?」
レーツェルは出会ってから一度もマントを、フードすら取ろうとしなかった。それどころか、日に日にフードを深く被るようになっていく気がした。
「脱がない。」
指摘されて更に深く被る。
「どうして?その…理由を教えてもらえるかな?」
「…顔を見られたら…駄目だから。」
(誰かに探されてるのか?)
エアモルデンから来たと言っていたから、もしかしてエアモルデンの人が追っているのかもしれない。
…エアモルデンの人…まさか
(何か規則を破ってヨシュカの制裁対象なんじゃ…もしそうだとしたら、追っているのは…オルクス?)
俺がヴェルトに来る前に何か罪を犯し、エアモルデンからフライハイトに逃亡。途中で見つけた教会で懺悔をしている…とても自然な考え方だ。
(…何考えてるんだ俺。レーツェルを疑うなんて…)
でも、オルクスのことくらいなら、聞いてみても損はないだろう。
「…オルクスって、知ってるかい?」
「え…!?」
レーツェルの動きが固まる。しばらくして、小さい声で答える。
「彼を…知ってるの?」
「その様子だと、レーツェルは知ってるの?」
レーツェルは視線をそらした。
「知ってる…エアモルデンで、恐れられている。最強だとも、言われている。」
一瞬迷ったが、ここは素直に話すことにした。
「彼に会いたいんだ。…協力してくれるかな?」
「…私が、止めたら?」
俺は微笑んでみせる。
「他の協力者を探すよ。」
「…そう。」
レーツェルは再び沈黙した。俺は彼女の言葉を待つ。
「私は…彼に会えない。会ってはいけないの。…もし、彼と何か話すつもりなら、彼に『ナイト』と言って。ただ近づいても、逃げられると思うから。」
「『ナイト』…分かった、ありがとう。この言葉の意味って?」
「私からは言えない。…ごめん、今日はもう落ちる。」
レーツェルは初めて、朝の内に帰ってしまった。
(よくわかんないけど怒らせたかな…でも、予想以上の収穫だった。この言葉があれば…逃げられずに済むかもしれない)
[居ないよ、もう。]
走っていた足が止まる。
[…え?]
[もうテレポートしてるよ、きっと!オルクスは逃げ足が早いんだ!]
[そんな…じゃあ、直接エアモルデンに行くしかないってのか?]
[それはやめておきなよ!エアモルデンはオルクスの領域。庭みたいなものさ!絶対に見つかりはしないよ、それこそ…オルクスが自分から現れない限りはね!]
(仕方ない、今回は諦めるか…)
最近レーツェルに教会の留守番を頼みっぱなしなので、今日は早めに戻ることにした。
【テレポート・フライハイト 実行します】
教会のドアを開けただいまと言いかけた俺の目の前に、一人言モードの吹き出しが飛び込んできた。
『創造主よ。今日も私の悩みは晴れないのです。』
「…え?」
きっとこれはレーツェルの吹き出しだ。しかし、どういう意味なのかはわからない。
俺の吹き出しに気がついたレーツェルが、動揺した様子で懺悔室の方向から現れた。
「シャル…!?帰ってたの?」
「…あ、あぁ。ちょうど今、帰ってきたところだよ。」
「そう…。」
気まずい雰囲気になる。何回目だ、これ。
「…あ、のさ…そのマント、脱がないの?」
レーツェルは出会ってから一度もマントを、フードすら取ろうとしなかった。それどころか、日に日にフードを深く被るようになっていく気がした。
「脱がない。」
指摘されて更に深く被る。
「どうして?その…理由を教えてもらえるかな?」
「…顔を見られたら…駄目だから。」
(誰かに探されてるのか?)
エアモルデンから来たと言っていたから、もしかしてエアモルデンの人が追っているのかもしれない。
…エアモルデンの人…まさか
(何か規則を破ってヨシュカの制裁対象なんじゃ…もしそうだとしたら、追っているのは…オルクス?)
俺がヴェルトに来る前に何か罪を犯し、エアモルデンからフライハイトに逃亡。途中で見つけた教会で懺悔をしている…とても自然な考え方だ。
(…何考えてるんだ俺。レーツェルを疑うなんて…)
でも、オルクスのことくらいなら、聞いてみても損はないだろう。
「…オルクスって、知ってるかい?」
「え…!?」
レーツェルの動きが固まる。しばらくして、小さい声で答える。
「彼を…知ってるの?」
「その様子だと、レーツェルは知ってるの?」
レーツェルは視線をそらした。
「知ってる…エアモルデンで、恐れられている。最強だとも、言われている。」
一瞬迷ったが、ここは素直に話すことにした。
「彼に会いたいんだ。…協力してくれるかな?」
「…私が、止めたら?」
俺は微笑んでみせる。
「他の協力者を探すよ。」
「…そう。」
レーツェルは再び沈黙した。俺は彼女の言葉を待つ。
「私は…彼に会えない。会ってはいけないの。…もし、彼と何か話すつもりなら、彼に『ナイト』と言って。ただ近づいても、逃げられると思うから。」
「『ナイト』…分かった、ありがとう。この言葉の意味って?」
「私からは言えない。…ごめん、今日はもう落ちる。」
レーツェルは初めて、朝の内に帰ってしまった。
(よくわかんないけど怒らせたかな…でも、予想以上の収穫だった。この言葉があれば…逃げられずに済むかもしれない)
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