俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第二章

ミスィオーン

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「本当にここまででいいの?」
「うん、ありがとう。また連絡取りたいんだけど…」
「あぁ、それなら!『フロイント機能』があるよ!」
また新しい言葉だ。ヴェルトの専門用語は多すぎる。
「まー簡単に言えばフレンドだよ!それで分かるよね?登録すれば、離れてても会話ができるから!」
ユスティーツが画面を開くと、通知音が鳴った。
【フロイント申請   一件】
「登録。」
【登録しました】
ユスティーツは満足げに表示を確認した。
「じゃ、またねー!」
手を振って別れる。
(…行くか…シュピッツの所へ。)

シュピッツは店番をしていた。赤みがかった茶髪が風に揺れている。俺の姿を見ると、立ち上がって話しかけてきた。
「お!シャルか!調子はどうだ?」
会話に参加、と小さく呟く。ファルベの言った通り、もうこの動作も慣れてきた。
「プファラーになったよ。フライハイトのね。」
シュピッツは目を丸くした。
「そうか!そりゃあ凄いな、普段どういうことをするんだ?」
「えっと…教会で」
「すいません。椅子を修理してもらえますか?」
話を遮ったのは、見知らぬ女性だった。彼女の服は、半袖で薄い紫のワンピースで、手袋をし、それも同じような紫だ。金髪の少しくせのある髪が、肩のあたりでふわりと揺れた。緑の瞳がシュピッツを映している。
「はいよ!すまねぇなシャル、客が来ちまった。店の奥で待ってるか?」
「じゃあ…お言葉に甘えて、そうさせてもらうよ。」
シュピッツは俺を奥の部屋に案内した。ジュースを出してもらう。
「長引くかもしれないが…遅くなりそうだったら帰っててくれ。」
「わかった。」
シュピッツが店へ戻ると、俺は制裁書を開いてみた。とにかく分厚い。数分で読む気が失せた。
柑橘系の味がするジュースを飲み始めた時、白い吹き出しが現れた。どうやらここはぎりぎり3メートル以内らしい。参加はせず、タップだけしてみる。
「久しぶりだな。相変わらずで何より。」
シュピッツの吹き出ししか現れない。女性は3メートル以上の所にいるのか。
「…そうか、で、これがその椅子か?なんだ、ぼろぼろじゃねぇか!一体どうしたらこんなに…。」
「なるほどな…大丈夫か?仲間がいても、こんなに危険だなんて聞いてないぞ。…わかったわかった、反対はしない。ただ…自分を大切にしろよ?」
「あぁ、あの人はシャルだ。一昨日椅子を買ってもらってな…おい、誰だお前!?やめろ、こいつに手を出すな!!やめろ!!!」
「シュピッツ!!」
俺は思わず立ち上がった。椅子が勢いよく倒れる。会話に参加していないので、俺の声はシュピッツに聞こえていない。
きっと何かが起きた。店へ向かうと、シュピッツが呆然と立ち尽くしていた。
「シャル!あいつが連れてかれたんだ!!すぐにテレポートされて…きっと奴ら初心者狩りだ!!」
目の前に紫の画面が表れる。
【制裁通告・直ちに制裁を下せ】
【現在地付近のヨシュカ・シャル、ユスティーツ、オルクス】
(オルクス?)
「シャル…俺は今から追う!!」
「待ってくれ!僕が行く。シュピッツはここに居てくれ。」
シュピッツは納得がいかないといったように首を振った。
「シャルは初心者だろ!!あいつらきっとエアモルデンだ!初心者が行くところじゃない、プファラーならなおさらだ!!」
「シュピッツ、落ち着いて。エアモルデンなら行ったことがある。あの場所に詳しい知り合いがいるんだ、一緒に行くよう頼んでみる。」
クリーム色の吹き出しが現れる。フロイント機能を使っているのだろう。
[シャルさんーさっきの通告見たよね?どうする、連れていこうか?]
[頼む。知り合いが被害にあったんだ。]
[じゃあそこで待ってて!合流しよう。]
[わかった。]
俺はシュピッツの肩に手を置いた。シュピッツは苛立ったように歯ぎしりをした。
「俺がもう少し強かったら…あいつを守れた…!」
「あいつって、さっきの女性のこと?」
シュピッツは頷く。
「ミスィオーンだ。」
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