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第一章
出発
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「そろそろ…だな、ヴェルトやるか!」
もう睡眠時間は気にしていない。
【ログインします】
ヴェルト三日目。
「レーツェルはまだ来てないのか…。」
部屋を確認して、自分の部屋に戻る。この宿は安くて古びていたが、なかなか快適だった。
窓を開ける。まだ日が昇っていないから、暗い空がエアホーレンを覆っていた。冷たい風が吹き抜ける。
「シャル。」
振り向くと、レーツェルがいた。
「おはよう、レーツェル。」
「おはよう。…行こう。」
俺はしっかりと頷いて、レーツェルと共にチェックアウトした。
「まだ暗いけど、大丈夫?」
「すぐに明るくなる。」
今日のレーツェルはいつにも増して言葉が少ない。
(本当はエアモルデンに戻るつもりはないって言ってたもんな…悪いことしたな)
何だか今更申し訳なくなってきて、気まずい雰囲気の中ソファーでエアモルデンへとテレポートした。
エアモルデン。
レーツェルの言った通り、空は明るくなりかけていた。
「ここは、フライハイト周辺のエアモルデン。」
エアモルデンは広いからそう呼び分けているらしい。
フライハイトと似ていて、辺りは草原だ。木も点々と生えている。
「このエアモルデンは見晴らしが良いから、比較的安全。」
今になって、シュピッツのことを思い出した。ここに来る前に挨拶しておけば良かったかな…。安全とはいえ、『比較的』だから充分危険な訳だ。
時間が表示されている隣に、Hpを知らせるバーが表れた。
「できるだけ人に会わないようにする。操縦代わって。」
「あ、あぁ…どうぞ。」
レーツェルの動きに無駄はない。かなり長い間エアモルデンで過ごしていたのだろう。静かに、かつ素早くソファーが進んでいく。
【警告します】
「!?」
突然警告音が響き、目の前に黄色の画面が現れた。レーツェルは動じない。
【この先の閲覧は不快になる可能性があります。15歳未満の方は、戻るか、モザイク設定をオンにして下さい】
「シャルは、十五歳以上?」
レーツェルが前を向いたまま問う。『中身』の話だろう。
「あぁ。この警告は一体…。」
レーツェルは再び沈黙する。
しばらく進むと、異様な臭いが広がり始めた。草原は所々黒くなっていた。ソファーがごつり、と『何か』に当たる。
(見るな。絶対見るな。これは見ちゃいけないやつだ。)
本能的に分かる。きっとこれは犠牲者だ。『それ』の数は次第に増えていく。
「『騒ぎ』って…これのこと?」
「大分前のものみたい。」
レーツェルが答えになっていない回答をする。
(あの人が言ってた騒ぎって多分これのことだ…この様子じゃ百人は巻き込まれてそうだな。)
「これで満足?エアモルデンはこういう所。気が済んだなら早く戻ろう。まだ誰か居るかも。」
(レーツェルはこれを俺にわざと見せたのか…?俺がエアモルデンに近寄らないように…。)
「いや、まだだ。時間が許す限り、彼の言っていた少年を探したい。」
レーツェルはため息をつく。
「…わかった。どこに向かうつもり?」
「それは…。」
(そこまで考えてなかったな…言われてみれば、エアモルデンは広いんだ、闇雲に探しても時間の無駄…)
「待って。誰か居る、静かに。」
余計な部分を省いたレーツェルの指示に、体が強張る。数えきれない程の死体の先には…少年。
「ねーえ!君たち誰ー?」
明るい声。この状況ではその声がとても不気味に思えた。
もう睡眠時間は気にしていない。
【ログインします】
ヴェルト三日目。
「レーツェルはまだ来てないのか…。」
部屋を確認して、自分の部屋に戻る。この宿は安くて古びていたが、なかなか快適だった。
窓を開ける。まだ日が昇っていないから、暗い空がエアホーレンを覆っていた。冷たい風が吹き抜ける。
「シャル。」
振り向くと、レーツェルがいた。
「おはよう、レーツェル。」
「おはよう。…行こう。」
俺はしっかりと頷いて、レーツェルと共にチェックアウトした。
「まだ暗いけど、大丈夫?」
「すぐに明るくなる。」
今日のレーツェルはいつにも増して言葉が少ない。
(本当はエアモルデンに戻るつもりはないって言ってたもんな…悪いことしたな)
何だか今更申し訳なくなってきて、気まずい雰囲気の中ソファーでエアモルデンへとテレポートした。
エアモルデン。
レーツェルの言った通り、空は明るくなりかけていた。
「ここは、フライハイト周辺のエアモルデン。」
エアモルデンは広いからそう呼び分けているらしい。
フライハイトと似ていて、辺りは草原だ。木も点々と生えている。
「このエアモルデンは見晴らしが良いから、比較的安全。」
今になって、シュピッツのことを思い出した。ここに来る前に挨拶しておけば良かったかな…。安全とはいえ、『比較的』だから充分危険な訳だ。
時間が表示されている隣に、Hpを知らせるバーが表れた。
「できるだけ人に会わないようにする。操縦代わって。」
「あ、あぁ…どうぞ。」
レーツェルの動きに無駄はない。かなり長い間エアモルデンで過ごしていたのだろう。静かに、かつ素早くソファーが進んでいく。
【警告します】
「!?」
突然警告音が響き、目の前に黄色の画面が現れた。レーツェルは動じない。
【この先の閲覧は不快になる可能性があります。15歳未満の方は、戻るか、モザイク設定をオンにして下さい】
「シャルは、十五歳以上?」
レーツェルが前を向いたまま問う。『中身』の話だろう。
「あぁ。この警告は一体…。」
レーツェルは再び沈黙する。
しばらく進むと、異様な臭いが広がり始めた。草原は所々黒くなっていた。ソファーがごつり、と『何か』に当たる。
(見るな。絶対見るな。これは見ちゃいけないやつだ。)
本能的に分かる。きっとこれは犠牲者だ。『それ』の数は次第に増えていく。
「『騒ぎ』って…これのこと?」
「大分前のものみたい。」
レーツェルが答えになっていない回答をする。
(あの人が言ってた騒ぎって多分これのことだ…この様子じゃ百人は巻き込まれてそうだな。)
「これで満足?エアモルデンはこういう所。気が済んだなら早く戻ろう。まだ誰か居るかも。」
(レーツェルはこれを俺にわざと見せたのか…?俺がエアモルデンに近寄らないように…。)
「いや、まだだ。時間が許す限り、彼の言っていた少年を探したい。」
レーツェルはため息をつく。
「…わかった。どこに向かうつもり?」
「それは…。」
(そこまで考えてなかったな…言われてみれば、エアモルデンは広いんだ、闇雲に探しても時間の無駄…)
「待って。誰か居る、静かに。」
余計な部分を省いたレーツェルの指示に、体が強張る。数えきれない程の死体の先には…少年。
「ねーえ!君たち誰ー?」
明るい声。この状況ではその声がとても不気味に思えた。
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