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第一章
準備
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「…それにしても、反対した割には付いて行くって言うの早かったね。」
帰っていく男の後ろ姿を眺めながら問う。
「…うん。一回行ったら、満足するでしょ。」
どうやらレーツェルなりに気を使ったらしい。エアモルデンに行く二回目は無さそうだ。
「エアモルデンの前にエアホーレンに行く。」
レーツェルが椅子を取り出した。深い赤の、高級そうな椅子だ。
「僕の椅子、ソファーだから二人で乗れるよ。」
そう言ってさりげなく自慢してみせる。レーツェルは素直に隣に座った。
「で、どうしてエアホーレンに行くんだい?」
「準備が必要。」
レーツェルはそれだけ言った。俺はとりあえず椅子をエアホーレンにテレポートさせた。
【テレポート・エアホーレン 実行します】
中央都市、エアホーレン。昨日と変わらず活気が溢れている。
「ここ。」
そう言ってレーツェルが案内したのは、練習場と書かれた大きな広場だった。
「ここでは、死なないけれど攻撃の練習ができる。シャルは、まだ攻撃をしたことがないでしょ。」
「うん。…そうか、エアモルデンでは俺も攻撃しなくちゃいけないんだな…。」
レーツェルは俯く。
「…できれば、しないで欲しい。今から教える技術は、本当に危険な時に、身を守るために、使って。」
「約束するよ。」
俺がそう言うと、レーツェルは安心したように顔を上げた。
「じゃあ、まず基本から。アングリフの欄が表示されてるはず。それを開いてみて。」
青い画面が前に広がった。自分以外に画面は見えない。
「開いたよ。」
「プファラーの攻撃は私詳しくないけど…基本的には、普通の攻撃と特殊な攻撃があるの。まず、メッサーを発動させて。」
「メッサー、発動!」
我ながらかっこよく発動させる。
【メッサー発動】
【プファラー・メッサー『ゲナウ』】
ブーフが手元に出現する。勢いよくパラパラとめくれて、光輝く文字が溢れ出る。地面には魔方陣のようなものまで出てきた。
「あれに向かって攻撃して。」
レーツェルが、5メートルほど離れたかかしのようなものを指差して言う。
「いけッ!!!」
叫んだ途端、文字が引き伸ばされて光の筋となり、かかしへ向かっていった。かかしが強い光に包まれたかと思うと、次の瞬間、かかしは跡形もなく消えていた。元あった場所には、焦げた跡が残されていた。
「…凄い。こんなに強いメッサー初めて見た…。」
レーツェルが呆然とする。
(ヤバい。ヨシュカだったこと完全に忘れてた…!)
「あ、あはは…僕、結構上手いのかもね…。」
「本当に初心者?」
いきなり核心を疲れる。
「…そうだよ?」
できる限り、平然とした声を押し出す。
「そう。次はグロース。やってみて。」
(…良かった。信用してもらえたみたいだ。)
俺は気を引き締める。
「わかった。」
大きく息を吸う。
「グロース、発動!」
【グロース発動】
【プファラー・グロース『十字架』】
俺の背後から巨大な十字架が現れる。しかしそれは現実のものではなく細かな装飾があり、交差するところには宝石が埋め込まれていた。ヴェルトの宗教に区別するためだろう。
十字架の宝石から光の帯が流れ出る。周囲を囲み、俺とレーツェルとかかしはすっぽり中に収まってしまった。正確には、かかしは更に帯に包まれて見えなくなっていた。
大きな地響き。帯が対照的に柔らかくたゆたう。
気がつくとやはりかかしは消えている。その下の土もごっそりと抉り取られていた。
はぅ…、とレーツェルが小さく呼吸を再開した。俺も気がつかない内に呼吸を止めていた。
「…やっぱり…。」
レーツェルの言葉の意味はわからない。俺は聞かなかったふりをした。
「レーツェルのアングリフも見てみたい。」
レーツェルはそっぽを向いた。
「それはできないの。」
「どうして?」
レーツェルは答えない。聞いてはいけない気がして、俺は黙った。
「こんなに強いなら、もう出よう。買い物もしないと。」
曖昧に頷いて後を追う。
レーツェルは市場の人混みをするすると通り抜けていく。俺は必死になって、その背中を見失わないようにした。
「これ、10個下さい。あと、これも。」
ようやく追い付くと、レーツェルは慣れた様子で買い込む。はいこれ、はいこれと荷物が渡された。どうやら食料や薬を買ったらしい。
「食料って…昨日の食事は、味を楽しむ娯楽じゃないの?」
「フライハイトやエアホーレンでは、そう。エアモルデンは、体力が無くなったら死ぬ。食事は必須なの。」
なるほど、と言ってみるとレーツェルは一通り荷物を見る。
「こんなものかな…。じゃあ、明日の早朝に出発。」
「今からじゃ駄目なのかい?」
「うん。多分途中で夜になる。エアモルデンは広い…夜が一番危険だから、今日はどこか泊まれる所を探す。」
一度教会に戻る気はないらしい。まぁ俺もその方がいいな、なんか楽しそうだし。
「あそこに宿がある。エーユ持ってる?大丈夫ならあの宿にしよう。」
レーツェルが小さな宿を指差す。金の心配はない。
「大丈夫。行こう。」
帰っていく男の後ろ姿を眺めながら問う。
「…うん。一回行ったら、満足するでしょ。」
どうやらレーツェルなりに気を使ったらしい。エアモルデンに行く二回目は無さそうだ。
「エアモルデンの前にエアホーレンに行く。」
レーツェルが椅子を取り出した。深い赤の、高級そうな椅子だ。
「僕の椅子、ソファーだから二人で乗れるよ。」
そう言ってさりげなく自慢してみせる。レーツェルは素直に隣に座った。
「で、どうしてエアホーレンに行くんだい?」
「準備が必要。」
レーツェルはそれだけ言った。俺はとりあえず椅子をエアホーレンにテレポートさせた。
【テレポート・エアホーレン 実行します】
中央都市、エアホーレン。昨日と変わらず活気が溢れている。
「ここ。」
そう言ってレーツェルが案内したのは、練習場と書かれた大きな広場だった。
「ここでは、死なないけれど攻撃の練習ができる。シャルは、まだ攻撃をしたことがないでしょ。」
「うん。…そうか、エアモルデンでは俺も攻撃しなくちゃいけないんだな…。」
レーツェルは俯く。
「…できれば、しないで欲しい。今から教える技術は、本当に危険な時に、身を守るために、使って。」
「約束するよ。」
俺がそう言うと、レーツェルは安心したように顔を上げた。
「じゃあ、まず基本から。アングリフの欄が表示されてるはず。それを開いてみて。」
青い画面が前に広がった。自分以外に画面は見えない。
「開いたよ。」
「プファラーの攻撃は私詳しくないけど…基本的には、普通の攻撃と特殊な攻撃があるの。まず、メッサーを発動させて。」
「メッサー、発動!」
我ながらかっこよく発動させる。
【メッサー発動】
【プファラー・メッサー『ゲナウ』】
ブーフが手元に出現する。勢いよくパラパラとめくれて、光輝く文字が溢れ出る。地面には魔方陣のようなものまで出てきた。
「あれに向かって攻撃して。」
レーツェルが、5メートルほど離れたかかしのようなものを指差して言う。
「いけッ!!!」
叫んだ途端、文字が引き伸ばされて光の筋となり、かかしへ向かっていった。かかしが強い光に包まれたかと思うと、次の瞬間、かかしは跡形もなく消えていた。元あった場所には、焦げた跡が残されていた。
「…凄い。こんなに強いメッサー初めて見た…。」
レーツェルが呆然とする。
(ヤバい。ヨシュカだったこと完全に忘れてた…!)
「あ、あはは…僕、結構上手いのかもね…。」
「本当に初心者?」
いきなり核心を疲れる。
「…そうだよ?」
できる限り、平然とした声を押し出す。
「そう。次はグロース。やってみて。」
(…良かった。信用してもらえたみたいだ。)
俺は気を引き締める。
「わかった。」
大きく息を吸う。
「グロース、発動!」
【グロース発動】
【プファラー・グロース『十字架』】
俺の背後から巨大な十字架が現れる。しかしそれは現実のものではなく細かな装飾があり、交差するところには宝石が埋め込まれていた。ヴェルトの宗教に区別するためだろう。
十字架の宝石から光の帯が流れ出る。周囲を囲み、俺とレーツェルとかかしはすっぽり中に収まってしまった。正確には、かかしは更に帯に包まれて見えなくなっていた。
大きな地響き。帯が対照的に柔らかくたゆたう。
気がつくとやはりかかしは消えている。その下の土もごっそりと抉り取られていた。
はぅ…、とレーツェルが小さく呼吸を再開した。俺も気がつかない内に呼吸を止めていた。
「…やっぱり…。」
レーツェルの言葉の意味はわからない。俺は聞かなかったふりをした。
「レーツェルのアングリフも見てみたい。」
レーツェルはそっぽを向いた。
「それはできないの。」
「どうして?」
レーツェルは答えない。聞いてはいけない気がして、俺は黙った。
「こんなに強いなら、もう出よう。買い物もしないと。」
曖昧に頷いて後を追う。
レーツェルは市場の人混みをするすると通り抜けていく。俺は必死になって、その背中を見失わないようにした。
「これ、10個下さい。あと、これも。」
ようやく追い付くと、レーツェルは慣れた様子で買い込む。はいこれ、はいこれと荷物が渡された。どうやら食料や薬を買ったらしい。
「食料って…昨日の食事は、味を楽しむ娯楽じゃないの?」
「フライハイトやエアホーレンでは、そう。エアモルデンは、体力が無くなったら死ぬ。食事は必須なの。」
なるほど、と言ってみるとレーツェルは一通り荷物を見る。
「こんなものかな…。じゃあ、明日の早朝に出発。」
「今からじゃ駄目なのかい?」
「うん。多分途中で夜になる。エアモルデンは広い…夜が一番危険だから、今日はどこか泊まれる所を探す。」
一度教会に戻る気はないらしい。まぁ俺もその方がいいな、なんか楽しそうだし。
「あそこに宿がある。エーユ持ってる?大丈夫ならあの宿にしよう。」
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「大丈夫。行こう。」
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