俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第一章

ブーフ

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『旧次元』に『新次元』。俺が思うに、きっとこれは旧次元現実新次元ヴェルトのことだ。アーダムとエーファは分からない。創造主の親なのだろうか?
「…そりゃ、こんなの読まされたら気にならない訳ないよな…この世界ヴェルトの真実。」
しかし、仲間が必要だ。アーダムとエーファのように、俺とレーツェルだけでは足りない気がする。やはり最初に決めたように、他のヨシュカを探す。そして…仲間となってもらう。
「問題は、どうやってヨシュカを探すかだよな…。」
ブーフをパラパラとめくっていると、教会のドアが控えめにノックされた。
「シャル。お客さん。あなたに悩みを聞いて欲しいって。」
(…これだ。)
「ああ。入ってくれ。」
レーツェルと共に来たのは、30代くらいの男性だった。体は少し弱々しい。おどおどと話す。
「あなたが、プファラーですね?」
完璧な笑顔で答える。男はすがるような目になった。
「良かった…。フライハイトにはプファラーがいなくて、とても悩んでいたんです。」
「そうでしたか。悩みとはなんでしょう。伺いますよ。」
レーツェルが男を座るように促す。男と俺は横に並んで座った。
「実は…最近、このフライハイトで旅の者を見かけまして。エアモルデンに行く途中の様でした。しかし、それがまだ初心者の少年なのです。止めても聞きませんでした。その後、エアモルデンで騒ぎがあったと聞いて…もしや巻き込まれてはいないかと…心配で。ですがフライハイトでは、エアモルデンに行く者とは関わらないという暗黙の了解がありましてね。確認する術もないのです。」
男は一気に話した。俺は、自分も心が痛むというような顔をして頷いてみせる。
「なるほど…。大丈夫、あなたに罪はありません。あなたは一度、彼を止めたのですから。」
当たり前のことを最もらしく言う。これで十分だと思う。この男は、自分の行為を他人に肯定されたかっただけだ。
「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。」
…何か引っかかる。チャンスを捨てているような予感がする。
(…ファルベが言っていた、『制裁』。それがもし、罪を犯した者を消すことだとしたら…それはエアモルデンでしかできない!つまり、エアモルデンに行けば制裁を下すヨシュカに会えるかもしれない!!)
「…待って下さい。僕がエアモルデンに行きましょう!」
レーツェルと男は信じられないといった顔をした。
「え!?…でも、プファラーさん、そこまでする必要は…。」
「気になさらないで下さい。僕はまだエアホーレンとフライハイトしか行ったことがないんです。観光ついで、ですよ。」
「止めて。」
男が口を開いたが、レーツェルの方が先に声を出した。
「危険って、言った。」
「レーツェル…。すぐ戻るつもりだよ、教会をずっと空けておく訳にはいかないからね。」
できるだけ穏やかに言った。しかし、レーツェルは納得がいかないと小さく首を振る。
「大丈夫だよ。危険だったらすぐ戻る。」
「…どうしても行くのなら、私も行く。」
「え!?」
レーツェルはエアモルデンから逃げて来た筈だ。ということは、俺の身を案じて付いてきてくれるということ…な訳ないか。
「レーツェルは無理しなくていいよ。」
「あなたは無理してもいいの?」
即答された。空気と化していた男がようやく発言する。
「…ま、まあまあ。いいじゃありませんか、プファラーさん。お嬢さんの意見も当たり前ではありますよ。まだ初心者なんでしょう、付いてきてもらえばいいじゃないですか、ね?」
俺はため息をつく。レーツェルはあれだけ言っておきながら、俺の返答に怯えているように見えた。
「…いいよ、行こうか…レーツェル。」
レーツェルの無表情がほんの少し動いた気がした。
「うん。」
俺は先程覚えたプファラーっぽい言葉を男にかけた。
「創造主のお導きがあらんことを。」
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