俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第一章

プファラー

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早朝。
「ふぁあ…よし、ログインするか。」
【ログインします】

ヴェルト二日目。

目が覚めると、俺は自室のベッドの上にいた。勿論、ここはヴェルトだ。身を起こし、伸びをする。
既にレーツェルはログインしていた。
「おはよう、レーツェル。」
「…おはよう。」
レーツェルはまだ眠そうだ。
「あのさ…僕。」
俺はレーツェルの前に立った。
「神父になるよ。」
「うん。」
レーツェルは頷く。
「…じゃあ…どうすればいいのかな?」
「ファルベ呼んで。職業選択って言えばいい。」
「わかった。…ちょっと、外出てくる。」
レーツェルの前でファルベに頼るのは、恥ずかしい気がした。
外に出る。清々しい空気。鮮やかな緑の草原。
「ファルベ。職業選択する。神父だ。」
ファルベは現れなかった。ただ、公式であることを知らせる、黄色の吹き出しが出てくるだけだ。
「了解しました!では、神父…プファラーについてご説明致します!」
「頼む。」
「プファラーの一番の特徴は、創造主の声が聞けることです!」
俺は腕を組む。
「それは昨日聞いた。身体能力は普通だってことも。」
「なら、そこは省略しましょう。」
「いや、一応教えてくれ。」
「そうですか?では少し補足を。声が聞けるのは、教会の中だけです。ここでなくとも構いません。」
「ほう。」
「あと、プファラーにはブーフを読んでいただきます。現実で言う聖書のようなものです。」
面倒くさそうだな…。
「プファラーを選ぶ方の多くは、ヴェルトの秘密を暴こうとしている人です。あなたはヨシュカですから、それに関してはより有利かもしれませんね。では。」
「秘密…。」
黄色の吹き出しはもう現れない。
【職業 プファラーを選択しました】
【新たな持ち物が追加されました】
持ち物にはブーフが入っていた。それを手にして教会の中に戻る。レーツェルは先程と同じ場所で待っていてくれた。
「ブーフを手に入れたよ。」
「そう。」
レーツェルは質問以外に対して素っ気ない。怒っている訳ではなく、元からこのような話し方なのだ。
「一緒に読まない?」
「…無理だと思う。プファラー…だっけ。プファラーじゃないと読めない。プファラーも他の職業の人にブーフの内容を教えたら駄目。そういう決まり。」
「そうなんだ…詳しいね。」
レーツェルは目線を逸らした。
「…調べた、から。昨日。」
「わざわざ、僕のために?」
意地悪く質問すると、レーツェルは俺を見上げた。怒りは全く感じられない。相変わらずの無表情だ。
「ありがとう。」
「…うん…あの。」
レーツェルから話題を振るなんて珍しい。
「どうしたの?」
「…もう少しここにいても、いい?」
俺は思わず彼女の顔を凝視した。
「えっ…あ…も、もちろん!!」
「ありがとう。」
彼女は同じ言葉を繰り返した。
「…よし、僕はブーフ読むよ。」
「わかった。私はエアホーレンに行ってくる。」
彼女が教会を出ると、俺は自分の部屋に戻り、机の上にブーフを広げた。
【ブーフを表示します】
[昔々のお話。アーダムとエーファという、最初のヒトがいました。二人は『旧次元』には幸福はない…そう考えました。『新次元』が必要だと。二人では力不足、ならばもう一人を作り出せばよい。そうして創造主は生まれました。創造主は二人が望んだ『新次元』を作り出し…そこをヒトの楽園としたのです。ヒトは次々と『旧次元』から『新次元』へと幸せを求めて来ました。二人は死にました。それは不慮の事故でした。創造主は二人の代わりに『新次元』の神となり、皆を見守ることとしました。]
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