俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

文字の大きさ
上 下
8 / 95
第一章

二人きりの晩

しおりを挟む
日はすっかり暮れ、元々薄暗かった教会は真っ暗になってしまった。持ち物の中に蝋燭があったので、それを灯す。
ゆらゆらと、俺達の影が波のように揺れる。
「これしかないんだ、すまないね。」
レーツェルは蝋燭を物珍しそうに見ている。
「ラムペも持ってないの…?本当に初心者なんだ。」
「ラムペって?」
俺の問いには答えず、アイテム欄を開いた。青く光る操作画面が、蝋燭の明かりと混ざる。
「これ。」
レーツェルは、眩しいくらいに明るい白い玉を取り出した。大きさは手のひらに収まるくらいだ。
「ラムペって言うの。ここみたいに、田舎は暗いから必需品。」
田舎と言われて馬鹿にされた気がしたが、俺は差し出されたラムペを受け取った。
要するにライトだ。ヴェルトは基本的にドイツ語を使うから、伝わりにくい。キャラクターの名前も俺のようにドイツ語にしている人が多いらしい。
「…それ、あげる。」
「え?…いいのかい?」
レーツェルは再び頷く。
「いっぱい持ってる。」
「ありがとう…お礼とか」
レーツェルは首を振った。白くて長い髪がさらさらと動く。
「いいの。あげる。」
「…じゃあ、お言葉に甘えて。」
蝋燭の代わりにラムペを置く。先程とは比べ物にならないほど周りが明るくなる。現代で言う懐中電灯並みだ。
「初心者って言ってたけど。職業は?」
「…まだ、決まってないんだ。」
レーツェルは目を見開いた。
「まだって…教会建てたのに?」
誤魔化すように頬をかく。
「あー…うん。そうだな、教会建てちゃったから、神父しかないよね。」
「神父…。会ったことないけど、一応知識はある。唯一、創造主の『声』が聞ける職業だって。」
「『声』?創造主の?」
「そう。」
レーツェルは足の位置を変えつつ答えた。
「私は聞いたことないからわからない。けど、聞こえるらしい。『お告げ』が。」
「へぇ…。面白そうだね。他には何があるの?」
「後は…特に。体力も運動能力も平均的。だからあまり神父を選ぶ人はいない。」
マジかよ。今更だけど後悔してきた。でも、エアモルデンとか行くつもりないからいいか。
「レーツェルは…その、今までどんなところにいたの?」
「…私は…ずっと、エアモルデンに。」
誤魔化すかと思っていたが、案外素直に答えてくれた。俺は白々しく驚いてみせる。
「エアモルデン?危険な場所って聞いたけど…。」
「危険。あなたは行かない方が良い。」
きっぱりと言い切る。
「そうか…他の地域にも、行ってみたいんだけど…エアモルデンは避けた方が良さそうだね。」
レーツェルは何も言わない。
「エアモルデンには…どういう人がいるの?」
俺は先程決めた目標を思い出す。
俺の目標は…俺以外のヨシュカ達を見つけることだ。
どのくらい居るのかはわからないが、全員見つけたい。
「エアモルデンは…。」
レーツェルは口ごもった。言葉を必死に選んでいるようだ。
「…殺意に満ちている。弱肉強食の世界ヴェルト。」
「弱肉強食…。」
いくら何でも、ここはゲームだ。大袈裟な気がする。
「一度行った者にしか分からない…あの恐ろしさは。」
レーツェルは恐れなど知らないように、淡々と語る。
「…今日はもう疲れた。また明日。」
「あ、あぁ。おやすみ。」
レーツェルに教えてもらったが、ヴェルトではきちんとした寝床…野宿もアリだそうだ…がないとログアウトできないのだとか。できるだけ現実に近づけようということだろう。
俺はラムペをほんの少し押した。ゴムのような弾力があって、ピッと電子音が鳴る。それと同時に明かりが消えた。
「…やっぱりこれ、懐中電灯だ。」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~4巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  第8巻は12月16日に発売予定です! 今回は天狼祭編です!  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

昨日、あなたに恋をした

菱沼あゆ
恋愛
 高すぎる周囲の評価に頑張って合わせようとしているが、仕事以外のことはポンコツなOL、楓日子(かえで にちこ)。 久しぶりに、憂さ晴らしにみんなで呑みに行くが、目を覚ましてみると、付けっぱなしのゲーム画面に見知らぬ男の名前が……。  私、今日も明日も、あさっても、  きっとお仕事がんばります~っ。

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

無能と呼ばれてパーティーを追放!最強に成り上がり人生最高!

本条蒼依
ファンタジー
 主人公クロスは、マスターで聞いた事のない職業だが、Eランクという最低ランクの職業を得た。 そして、差別を受けた田舎を飛び出し、冒険者ギルドに所属しポーターとして生活をしていたが、 同じパーティーメンバーからも疎まれている状況で話は始まる。

処理中です...