俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第一章

二人きりの晩

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日はすっかり暮れ、元々薄暗かった教会は真っ暗になってしまった。持ち物の中に蝋燭があったので、それを灯す。
ゆらゆらと、俺達の影が波のように揺れる。
「これしかないんだ、すまないね。」
レーツェルは蝋燭を物珍しそうに見ている。
「ラムペも持ってないの…?本当に初心者なんだ。」
「ラムペって?」
俺の問いには答えず、アイテム欄を開いた。青く光る操作画面が、蝋燭の明かりと混ざる。
「これ。」
レーツェルは、眩しいくらいに明るい白い玉を取り出した。大きさは手のひらに収まるくらいだ。
「ラムペって言うの。ここみたいに、田舎は暗いから必需品。」
田舎と言われて馬鹿にされた気がしたが、俺は差し出されたラムペを受け取った。
要するにライトだ。ヴェルトは基本的にドイツ語を使うから、伝わりにくい。キャラクターの名前も俺のようにドイツ語にしている人が多いらしい。
「…それ、あげる。」
「え?…いいのかい?」
レーツェルは再び頷く。
「いっぱい持ってる。」
「ありがとう…お礼とか」
レーツェルは首を振った。白くて長い髪がさらさらと動く。
「いいの。あげる。」
「…じゃあ、お言葉に甘えて。」
蝋燭の代わりにラムペを置く。先程とは比べ物にならないほど周りが明るくなる。現代で言う懐中電灯並みだ。
「初心者って言ってたけど。職業は?」
「…まだ、決まってないんだ。」
レーツェルは目を見開いた。
「まだって…教会建てたのに?」
誤魔化すように頬をかく。
「あー…うん。そうだな、教会建てちゃったから、神父しかないよね。」
「神父…。会ったことないけど、一応知識はある。唯一、創造主の『声』が聞ける職業だって。」
「『声』?創造主の?」
「そう。」
レーツェルは足の位置を変えつつ答えた。
「私は聞いたことないからわからない。けど、聞こえるらしい。『お告げ』が。」
「へぇ…。面白そうだね。他には何があるの?」
「後は…特に。体力も運動能力も平均的。だからあまり神父を選ぶ人はいない。」
マジかよ。今更だけど後悔してきた。でも、エアモルデンとか行くつもりないからいいか。
「レーツェルは…その、今までどんなところにいたの?」
「…私は…ずっと、エアモルデンに。」
誤魔化すかと思っていたが、案外素直に答えてくれた。俺は白々しく驚いてみせる。
「エアモルデン?危険な場所って聞いたけど…。」
「危険。あなたは行かない方が良い。」
きっぱりと言い切る。
「そうか…他の地域にも、行ってみたいんだけど…エアモルデンは避けた方が良さそうだね。」
レーツェルは何も言わない。
「エアモルデンには…どういう人がいるの?」
俺は先程決めた目標を思い出す。
俺の目標は…俺以外のヨシュカ達を見つけることだ。
どのくらい居るのかはわからないが、全員見つけたい。
「エアモルデンは…。」
レーツェルは口ごもった。言葉を必死に選んでいるようだ。
「…殺意に満ちている。弱肉強食の世界ヴェルト。」
「弱肉強食…。」
いくら何でも、ここはゲームだ。大袈裟な気がする。
「一度行った者にしか分からない…あの恐ろしさは。」
レーツェルは恐れなど知らないように、淡々と語る。
「…今日はもう疲れた。また明日。」
「あ、あぁ。おやすみ。」
レーツェルに教えてもらったが、ヴェルトではきちんとした寝床…野宿もアリだそうだ…がないとログアウトできないのだとか。できるだけ現実に近づけようということだろう。
俺はラムペをほんの少し押した。ゴムのような弾力があって、ピッと電子音が鳴る。それと同時に明かりが消えた。
「…やっぱりこれ、懐中電灯だ。」
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