俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第一章

レーツェル

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(エアモルデン…だって!?あの、危険な場所から…一体何しに来たんだ?)
『…私はエアモルデンから出るつもりはありませんでした…。エアホーレンとエアモルデン、この二つを行き来する生活を送っていました。でも…もうエアモルデンには戻れません。』
彼女の懺悔は、そこで終わった。
部屋から出てくる。さっきと同じ無表情だが、その後ろには暗い影が見えた気がした。
「…ありがとうございます。もう、大丈夫です。」
そう言って出口へ向かう彼女の手を、俺は無意識に握っていた。
「…何ですか。」
無表情が、ほんの少し動揺する。彼女の手は冷たくて、生気が感じ取れない。
「…や、あの…君の、名前を聞いてもいいかな?」
適当に口実を作っただけだったが、彼女はそれを聞いて目を見開いた。
「…私のこと、知ってるんですか?」
「えっと…どこかで見かけた気がしてね。」
とっさに口から嘘が出た。自分でもよく分からないが、この少女と仲良くなりたかったからかもしれない。だが、それは逆効果だったようだ。彼女は掴んだ俺の手をじっと見つめた。
「…どこで見たんですか。」
「え…エアホーレンで!」
エアホーレン中央都市には、様々な人間が集まっている。そこなら誰が誰を見かけてもおかしくない。
「…そう、ですか。」
彼女は顔を上げた。
「私は…レーツェル。」
「いい名前だね、レーツェル。よろしく。」
俺が名前を褒めても、レーツェルはあまり嬉しくなさそうだった。
「…私…もうここには来ません。エアホーレンに行きます。」
懺悔の内容から察するに、何かから遠ざかろうとしているようだ。
「何か目的があるのかい?…その、旅とか?」
まさか懺悔を聞いていたなんて言えない。放っておくべきなんだろうが、俺にはできない。
「そんな所です…では、さようなら。」
関わらないで欲しいとばかりに、レーツェルは再び出口に向かう。
「待ってくれ!!…その、まだフライハイトにいたらどうかな?そんなに急いでる訳じゃないだろう?」
どう見ても急いでいるが、とりあえず適当に言う。
レーツェルは訝しげに俺を見た。
「…どうして、引き留めるんですか?」
「あー…実は僕、初心者でね…色々教えてくれないかな?」
シュピッツには初心者であることを隠せと言われたが、ここは初心者の特権を使わせてもらう。レーツェルは彼の言う『変な奴初心者狩り』には見えない。
レーツェルはしばらく考えていたが、やがて口を開いた。
「わかりました…その代わり、寝泊まりできる場所と食事を提供して下さい。」
「ここで良ければ泊まっていきなよ。あと、タメ口でいいよ。」
レーツェルは頷く。
「…わかった。名前は?」
「シャルだ、よろしく。」
俺はできるだけさりげなく握手を求めた。レーツェルは渋々といった感じで応じる。
「よろしく…シャル。」
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