俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第一章

エアホーレン

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「よう、旦那。何かお困りかい?」
白い吹き出し…声のする方を振り返ると、中学生くらいの少年が立っていた。
「旦那、初心者だろ?服見りゃ分かるぜ。俺が色々教えてやろうか?」
生意気な話し方をするやつだ。自慢気に胸を張っている。…でも、俺は本当に初心者だから情報がない。ファルベをもう一度呼んでもいいけど…ここは素直にこいつに頼ろう。それに、今の俺の姿は大人なんだ。大人の対応をしないと怪しまれる。
俺は優しい笑みを浮かべて少年に答えた。「会話に参加。」と呟く。
「あぁ、ありがとう…助かるよ。」
少年は少し驚き、ばつが悪そうに頬を指でかいた。
「ま、まぁ…最初はまず自動椅子を買うことをおすすめする。」
「自動椅子?」
「そうだ。ヴェルトは広いからな、これがないと移動がかなり不便だ。空中に浮かぶ椅子って言えば分かるだろ?」
少年が手を横にスライドさせると、木製の椅子が出てきた。確かに宙に浮いている。少年はそれに腰かけた。
「かなり高速で移動できるぞ。ただ、気をつけないといけないのは、自動椅子禁止区域があることだ。そこで使うと、規則違反となる。」
そいつらを俺が捕まえないといけないのか。
「ちなみに…この場所はなんていう場所?」
「中央都市、エアホーレンだよ。色々な種族がいて色々な店がある。最初は皆ここへ来るんだ。都市の周りには草原があって、色々なエリアが広がってる。草原の中にはエアモルデンもある。椅子を使えばエリアにテレポートできるから、エアモルデンを通らずに済むぞ。」
「その椅子はどこに売っているんだい?」
いるんだい、とか初めて使ったよ…大人のフリって難しいな。
「…実は俺、椅子屋なんだ。」
「あー…なるほどね。いいよ、買おうか。」
「まいどあり!!店はこっちだ!」
いきなり商売人の顔になる。本当に生意気なガキだ。
…ま、買うんだけど。
少年に案内された店には、たくさんの種類の椅子が置かれていた。学校の椅子とか、事務椅子なんてものまである。
「座り心地がいい椅子がいいなぁ。じゃあこれ、この青いソファーにするよ。」
「いいけど…これ、結構高いぜ?最初からそんなに金使っていいのかよ、旦那。」
生意気だと思ってたけどいいやつだな、この少年。黙って売ればいいのに、忠告してくれるなんて。
「お金かい?…そうだな、これで足りるかい?」
金貨とか銀貨を何枚か見せてみると、少年はぎょっとしたように身を引いた。
「だ、旦那何者だ…?初心者でその金額はおかしいだろ…。」
ファルベが大量にお渡しするって言ってたけど、いくらくれるかは聞いてなかったな。少年は少し冷静さを取り戻して続ける。
「足りるさ…十分過ぎるくらいだ、まいど。これは忠告だから聞き流してくれていいが…その金、見せびらかしてると変な奴らに目を付けられるぞ。最近、初心者狩りが始まってやがるからな…。初心者に近づいて、無理矢理エアモルデンに連れてって、金品を奪う奴らだ。適当に服でも買って、初心者だってことを隠した方がいい。」
訂正しよう。この少年は相当いいやつだ。
「色々教えてくれてありがとう。…君の名前を聞いてもいいかな?」
少しでも知り合いはいた方がいい。
「俺か?シュピッツだ。椅子売りだが、これでレベルは90越えてるんだぜ、凄いだろ。」
レベルの上限値がわからないから、何とも言えないな。
…とりあえず褒めておくか。
「凄いよ…レベルはどんな職業でも上がるんだね。」
「ああそうさ!ヴェルトは自由な世界だからな、自分の好きなことを好きなだけできる!戦いたくなければ、商売人になればいい。他にも色々な選択肢はあるけどな…旦那は、もう職業決めたのか?」
「シャルでいいよ。旦那って呼ばれるのはどうも慣れないからね…。職業はまだ考え中さ。でも、自分に合ったものを見つけたいかな。」
シュピッツは歯を見せて笑った。
「当たり前だろ、皆そうやって決めてるさ!そうだな、シャルだったら…神父なんてどうだ?」
真面目そうな顔をして俺を見上げる。シュピッツは少し背が低い。
「神父?この世界に宗教なんてあるのかい?」
「宗教かどうかは分からねぇが、神はいる。創造主だ!」
『創造主』…ファルベも言っていたな。
「それって…ヴェルトの開発者のこと?」
「おう!俺達にとっちゃ、神だろ?皆感謝してるよ。」
神父か…宗教とか全く興味ないが、ヴェルトの創造主には興味あるな。
「検討してみるよ。じゃあ、また。」
「またな!絶対また来いよ!!」
シュピッツはぶんぶんと手を大きく振った。機会があったらまた来よう。
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