俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

文字の大きさ
上 下
4 / 95
第一章

エアホーレン

しおりを挟む
「よう、旦那。何かお困りかい?」
白い吹き出し…声のする方を振り返ると、中学生くらいの少年が立っていた。
「旦那、初心者だろ?服見りゃ分かるぜ。俺が色々教えてやろうか?」
生意気な話し方をするやつだ。自慢気に胸を張っている。…でも、俺は本当に初心者だから情報がない。ファルベをもう一度呼んでもいいけど…ここは素直にこいつに頼ろう。それに、今の俺の姿は大人なんだ。大人の対応をしないと怪しまれる。
俺は優しい笑みを浮かべて少年に答えた。「会話に参加。」と呟く。
「あぁ、ありがとう…助かるよ。」
少年は少し驚き、ばつが悪そうに頬を指でかいた。
「ま、まぁ…最初はまず自動椅子を買うことをおすすめする。」
「自動椅子?」
「そうだ。ヴェルトは広いからな、これがないと移動がかなり不便だ。空中に浮かぶ椅子って言えば分かるだろ?」
少年が手を横にスライドさせると、木製の椅子が出てきた。確かに宙に浮いている。少年はそれに腰かけた。
「かなり高速で移動できるぞ。ただ、気をつけないといけないのは、自動椅子禁止区域があることだ。そこで使うと、規則違反となる。」
そいつらを俺が捕まえないといけないのか。
「ちなみに…この場所はなんていう場所?」
「中央都市、エアホーレンだよ。色々な種族がいて色々な店がある。最初は皆ここへ来るんだ。都市の周りには草原があって、色々なエリアが広がってる。草原の中にはエアモルデンもある。椅子を使えばエリアにテレポートできるから、エアモルデンを通らずに済むぞ。」
「その椅子はどこに売っているんだい?」
いるんだい、とか初めて使ったよ…大人のフリって難しいな。
「…実は俺、椅子屋なんだ。」
「あー…なるほどね。いいよ、買おうか。」
「まいどあり!!店はこっちだ!」
いきなり商売人の顔になる。本当に生意気なガキだ。
…ま、買うんだけど。
少年に案内された店には、たくさんの種類の椅子が置かれていた。学校の椅子とか、事務椅子なんてものまである。
「座り心地がいい椅子がいいなぁ。じゃあこれ、この青いソファーにするよ。」
「いいけど…これ、結構高いぜ?最初からそんなに金使っていいのかよ、旦那。」
生意気だと思ってたけどいいやつだな、この少年。黙って売ればいいのに、忠告してくれるなんて。
「お金かい?…そうだな、これで足りるかい?」
金貨とか銀貨を何枚か見せてみると、少年はぎょっとしたように身を引いた。
「だ、旦那何者だ…?初心者でその金額はおかしいだろ…。」
ファルベが大量にお渡しするって言ってたけど、いくらくれるかは聞いてなかったな。少年は少し冷静さを取り戻して続ける。
「足りるさ…十分過ぎるくらいだ、まいど。これは忠告だから聞き流してくれていいが…その金、見せびらかしてると変な奴らに目を付けられるぞ。最近、初心者狩りが始まってやがるからな…。初心者に近づいて、無理矢理エアモルデンに連れてって、金品を奪う奴らだ。適当に服でも買って、初心者だってことを隠した方がいい。」
訂正しよう。この少年は相当いいやつだ。
「色々教えてくれてありがとう。…君の名前を聞いてもいいかな?」
少しでも知り合いはいた方がいい。
「俺か?シュピッツだ。椅子売りだが、これでレベルは90越えてるんだぜ、凄いだろ。」
レベルの上限値がわからないから、何とも言えないな。
…とりあえず褒めておくか。
「凄いよ…レベルはどんな職業でも上がるんだね。」
「ああそうさ!ヴェルトは自由な世界だからな、自分の好きなことを好きなだけできる!戦いたくなければ、商売人になればいい。他にも色々な選択肢はあるけどな…旦那は、もう職業決めたのか?」
「シャルでいいよ。旦那って呼ばれるのはどうも慣れないからね…。職業はまだ考え中さ。でも、自分に合ったものを見つけたいかな。」
シュピッツは歯を見せて笑った。
「当たり前だろ、皆そうやって決めてるさ!そうだな、シャルだったら…神父なんてどうだ?」
真面目そうな顔をして俺を見上げる。シュピッツは少し背が低い。
「神父?この世界に宗教なんてあるのかい?」
「宗教かどうかは分からねぇが、神はいる。創造主だ!」
『創造主』…ファルベも言っていたな。
「それって…ヴェルトの開発者のこと?」
「おう!俺達にとっちゃ、神だろ?皆感謝してるよ。」
神父か…宗教とか全く興味ないが、ヴェルトの創造主には興味あるな。
「検討してみるよ。じゃあ、また。」
「またな!絶対また来いよ!!」
シュピッツはぶんぶんと手を大きく振った。機会があったらまた来よう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売です!】 早ければ、電子書籍版は2/18から販売開始、紙書籍は2/19に店頭に並ぶことと思います。 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

【完結】「婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが」

まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10 私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。 エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。 エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら? それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。 エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。 そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。 なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

嫌われ賢者の一番弟子 ~師匠から教わった武術と魔術、世間では非常識らしいですよ!?~

草乃葉オウル
ファンタジー
かつて武術と魔術の双方において最強と呼ばれた賢者がいた。 しかし、賢者はその圧倒的な才能と野心家な性格をうとまれ歴史の表舞台から姿を消す。 それから時は流れ、賢者の名が忘れ去られた時代。 辺境の地から一人の少女が自由騎士学園に入学するために旅立った。 彼女の名はデシル。最強賢者が『私にできたことは全てできて当然よ』と言い聞かせ、そのほとんどの技術を習得した自慢の一番弟子だ。 だが、他人とあまり触れあうことなく育てられたデシルは『自分にできることなんてみんなできて当然』だと勘違いをしていた! 解き放たれた最強一番弟子の常識外れな学園生活が始まる!

[完結]婚約破棄したいので愛など今更、結構です

シマ
恋愛
私はリリーナ・アインシュタインは、皇太子の婚約者ですが、皇太子アイザック様は他にもお好きな方がいるようです。 人前でキスするくらいお好きな様ですし、婚約破棄して頂けますか? え?勘違い?私の事を愛してる?そんなの今更、結構です。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

処理中です...