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第十章
着陸
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「ヴェルトを破か…ふごっ」
大声を出しそうになる俺の口をユスティーツが抑えた。
「彼には秘密にしておこうよ。」
ユスティーツはそう囁いてシュピッツを見た。
「今は一刻も早く地上に下りないとね!そこの君、もう落としていいよ!」
「ユスティーツ!?待て、まだソファーの準備が…」
シュピッツは従って良いのか分からないらしく戸惑っていた。ユスティーツはすぐに自分の取り出した椅子に座ってにやにやしている。
「早く早く~!ヒーローは遅れたら駄目なんだ!」
何とかソファーを出し、意識を失ったままのシュティレを乗せる。下のヨシュカの心配をする時間は与えてもらえそうになかった。ユスティーツには人を誘導する力があると思う。俺もソファーに飛び乗り、シュピッツに向かって叫んだ。
「頼む、シュピッツ!教会を落としてくれ!」
シュピッツはとっくに座っていた。シンプルな木のスツールだった。
「任せろ!」
シュピッツが何やら呟いた。ぶつからないよう念のためお互いに距離をとって浮いているから、聞き取る事はできなかった。恐らく、メッサーかグロースを発動したのだろう。
大きく床が揺れ始めた。俺達の椅子はすぐに宙へと浮く。空中から揺れる地面を眺めているのは、何だか不思議な気持ちだった。
「…これ、天井に叩きつけられる事はないのか?」
ユスティーツに言ったつもりだったが、シュピッツが答えた。
「安心してくれ、それくらいの調整はしっかりやってくれるぜ。創造主の加護さ!」
(創造主…)
その創造主と、俺達は戦うのだ。
…地上に舞い降りる、破壊者。
やや揺れが収まった気がする。落下が始まったらしい。シュピッツと、笑っていたユスティーツも真剣な表情で辺りを見回していた。
俺は、ソファーで隣に寝ているシュティレに視線を向けた。
白く艶やかな髪が、窓からの光をキラキラと反射している。初めて出会った時から、シュティレのこの髪が好きだった。髪だけじゃない、シュティレの事が…
「着地するぞ!」
俺の回想は、シュピッツの言葉で遮られた。
ドーンという感じをイメージしていたが、大きな音、というより衝撃がヴェルトの地面を伝わっていく。ドーンじゃなくて、ッッオオオオオン…オノマトペの限界を感じた。幸いにも、教会はヒビが入った程度で崩壊はしなかった。普通なら有り得ないが、ゲームだからだ。
「皆無事か!?」
俺は真っ先に外からソファーごと飛び出すと、辺りを見回した。
「そこじゃないのよぉ!こっちこっちいぃ!」
上から、見慣れた吹き出しが現れた。
「フェイ!!イデーにヴィッツ、オルクスも!…それは?」
上を見ると、ヨシュカの皆が馬に乗って空を飛んでいた。この一文だけだと理解できない。説明されても理解できる気がしない。
「いやぁ、フェイ嬢がユニコーンに乗りたいって言うから…頑張ってみたんだ。凄いと思わない?シャル君乗る?」
ヴィッツが首を傾げて訊ねてきた。
「乗馬してる場合じゃないですよ。ユスティーツが…」
「ユスティーツ。」
ユスティーツという単語に反応したのは、オルクスだった。オルクスは真っ白なペガサスを操り、地上に下りた。
「オルクス。オレ、裏切ってないよ。ね、シャルさん?」
いつの間にか俺の後ろにいたユスティーツが、俺に振ってきた。
「そ、そうそう。ユスティーツはエーファ達に味方したフリをして、倒そうと…」
「言い訳は不要だ。状況を報告しろ。」
オルクスはいつにも増してピリピリしている気がする。
「あ、あぁ。エーファとアーダムは死んだ。エーファの媒体にアーダムが入っていたんだ。生け捕りは…あの状況では、無理だった。」
「そうか。」
オルクスがソファーに横たわるシュティレの頬に触れた。微かに目を細めたような気がした。
「ユスティーツ。貴様、企んでいるだろう。」
「別に?ここから先はオレとシャルさんでやるから。」
ユスティーツが俺の背後に隠れるように移動した。そこから顔だけだしてオルクスを見ている。オルクスとユスティーツに挟まれる形になってしまった俺は、どうしたら良いのか分からず視線をあちこちに向けてみる。
「どうなんだ、シャル。ヨシュカの力はもう不要か。」
「えっ!?あ、いやぁ、ははは…。」
「オレ達だけで大丈夫だよね?」
二人の圧力に押し潰されそうになりながら、何とか声を出す。
「オルクスも察しているみたいだから、協力してもらった方が成功する確率が高いんじゃないかな…。」
ほら見ろ、といった顔をしたオルクスに吹き出しそうになった。
大声を出しそうになる俺の口をユスティーツが抑えた。
「彼には秘密にしておこうよ。」
ユスティーツはそう囁いてシュピッツを見た。
「今は一刻も早く地上に下りないとね!そこの君、もう落としていいよ!」
「ユスティーツ!?待て、まだソファーの準備が…」
シュピッツは従って良いのか分からないらしく戸惑っていた。ユスティーツはすぐに自分の取り出した椅子に座ってにやにやしている。
「早く早く~!ヒーローは遅れたら駄目なんだ!」
何とかソファーを出し、意識を失ったままのシュティレを乗せる。下のヨシュカの心配をする時間は与えてもらえそうになかった。ユスティーツには人を誘導する力があると思う。俺もソファーに飛び乗り、シュピッツに向かって叫んだ。
「頼む、シュピッツ!教会を落としてくれ!」
シュピッツはとっくに座っていた。シンプルな木のスツールだった。
「任せろ!」
シュピッツが何やら呟いた。ぶつからないよう念のためお互いに距離をとって浮いているから、聞き取る事はできなかった。恐らく、メッサーかグロースを発動したのだろう。
大きく床が揺れ始めた。俺達の椅子はすぐに宙へと浮く。空中から揺れる地面を眺めているのは、何だか不思議な気持ちだった。
「…これ、天井に叩きつけられる事はないのか?」
ユスティーツに言ったつもりだったが、シュピッツが答えた。
「安心してくれ、それくらいの調整はしっかりやってくれるぜ。創造主の加護さ!」
(創造主…)
その創造主と、俺達は戦うのだ。
…地上に舞い降りる、破壊者。
やや揺れが収まった気がする。落下が始まったらしい。シュピッツと、笑っていたユスティーツも真剣な表情で辺りを見回していた。
俺は、ソファーで隣に寝ているシュティレに視線を向けた。
白く艶やかな髪が、窓からの光をキラキラと反射している。初めて出会った時から、シュティレのこの髪が好きだった。髪だけじゃない、シュティレの事が…
「着地するぞ!」
俺の回想は、シュピッツの言葉で遮られた。
ドーンという感じをイメージしていたが、大きな音、というより衝撃がヴェルトの地面を伝わっていく。ドーンじゃなくて、ッッオオオオオン…オノマトペの限界を感じた。幸いにも、教会はヒビが入った程度で崩壊はしなかった。普通なら有り得ないが、ゲームだからだ。
「皆無事か!?」
俺は真っ先に外からソファーごと飛び出すと、辺りを見回した。
「そこじゃないのよぉ!こっちこっちいぃ!」
上から、見慣れた吹き出しが現れた。
「フェイ!!イデーにヴィッツ、オルクスも!…それは?」
上を見ると、ヨシュカの皆が馬に乗って空を飛んでいた。この一文だけだと理解できない。説明されても理解できる気がしない。
「いやぁ、フェイ嬢がユニコーンに乗りたいって言うから…頑張ってみたんだ。凄いと思わない?シャル君乗る?」
ヴィッツが首を傾げて訊ねてきた。
「乗馬してる場合じゃないですよ。ユスティーツが…」
「ユスティーツ。」
ユスティーツという単語に反応したのは、オルクスだった。オルクスは真っ白なペガサスを操り、地上に下りた。
「オルクス。オレ、裏切ってないよ。ね、シャルさん?」
いつの間にか俺の後ろにいたユスティーツが、俺に振ってきた。
「そ、そうそう。ユスティーツはエーファ達に味方したフリをして、倒そうと…」
「言い訳は不要だ。状況を報告しろ。」
オルクスはいつにも増してピリピリしている気がする。
「あ、あぁ。エーファとアーダムは死んだ。エーファの媒体にアーダムが入っていたんだ。生け捕りは…あの状況では、無理だった。」
「そうか。」
オルクスがソファーに横たわるシュティレの頬に触れた。微かに目を細めたような気がした。
「ユスティーツ。貴様、企んでいるだろう。」
「別に?ここから先はオレとシャルさんでやるから。」
ユスティーツが俺の背後に隠れるように移動した。そこから顔だけだしてオルクスを見ている。オルクスとユスティーツに挟まれる形になってしまった俺は、どうしたら良いのか分からず視線をあちこちに向けてみる。
「どうなんだ、シャル。ヨシュカの力はもう不要か。」
「えっ!?あ、いやぁ、ははは…。」
「オレ達だけで大丈夫だよね?」
二人の圧力に押し潰されそうになりながら、何とか声を出す。
「オルクスも察しているみたいだから、協力してもらった方が成功する確率が高いんじゃないかな…。」
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