俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第十章

メッサー

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「…何故、」
アーダムは言葉の先を紡げず、膝をついた。ユスティーツの剣は媒体の心臓を貫いていた。
「知りたい?」
ユスティーツの笑みは崩れない。
「正義のヒーローが女の子を助けるのは当然だよ!そして、正義を語って世界征服しようとしている方が悪。…正義を冒涜しているのはお前達だ。」
最後の一言を告げる時、笑顔がふっと消えた。そして同時に剣を引き抜き、頭へと突き刺した。飛び散る血を見ていられず、俺は目を背ける。
「ユスティー、ツ…君は…。」
「シャルさん!びっくりした?こうした方が殺せるチャンスがあると思ったんだ!そうそう、エーファも殺そうよ?」
床に倒れていたエーファが微かに動いた。
「…そうだな。そうしたら、もう…全て終わる。」
ユスティーツが鼻歌を歌いながら剣をエーファに向けた。楽しそうな表情に反して、歌は悲しげな曲調だった。
「さぁ!さよならだ。良い夢、少しくらい見たよね?」
エーファは少し目をユスティーツに向けただけで、何も言わなかった。
グロテスクな音が響く中、俺はシュピッツに話しかけた。
「取り敢えずは、地上に帰ろう。このままだとエーファが作った領域に入ってしまう。シュピッツ、この教会を下ろす事はできるか?」
「おう、任せとけ。ただ…この規模だと力を上手く制御できない。下ろすより落とす事になる。シャル達は椅子か何かで浮いていないとぺしゃんこになるぞ。」
シュピッツは目の前の悲惨な光景でやや暗い顔付きだったが、冗談とともに悪戯っぽい表情を見せた。
「分かった、シュティレは僕のソファーに乗せよう。…そう言えば地上には人がいるけど、大丈夫かな?」
素朴な疑問を訊ねると、シュピッツは目を丸くした。
「嘘だろ…そいつらは、助からないかもしれない。相当な衝撃波が来るだろうからな。運良く空中に浮いていれば助かるが…。」
「そんな…」
運良く浮いてくれているとは到底思えない。となると、ヨシュカの皆を死なせなくてはいけないのか?
絶望する俺に血塗れのシュピッツが歩み寄る。
「大丈夫だよ、シャルさん!ヴェルトで死んでも中身が死ぬ訳じゃない。今一番大切なのはオレの存在だよね?想像主と交渉、するんだよね?」
「シャ、シャル?話が理解できないんだが…」
「シュピッツはちょっと待っていてくれないか。ユスティーツと話がしたい。」
心配そうなシュピッツを置いて、ユスティーツの腕を掴み部屋の隅へ行く。
『ユスティーツのグロースって…。』
『やっぱり気がついてたんだね。そう、ヴェルトだって壊せる力。想像主から皆には秘密にしてくれって頼まれてたんだ。』
『シュティレを助けてくれないか。』
ユスティーツは俺の顔をじっと見た。俺も真剣な表情でユスティーツを見つめた。やがて納得したように彼は頷いた。
『良いよ、協力する。それじゃあオレからもお願い。その子が助かったら…ヴェルトを破壊したい。』
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