俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第十章

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その時、俺の身体が突き飛ばされた。起き上がったエーファが最後の力で俺を押したのだ。ブーフから放たれた光線は大きく軌道がずれ、シュティレの方へと向かった。
「シュティレ!!」
いくらシュティレでも、ヨシュカの攻撃を受けて無事ではいられないだろう。寝ている無防備な状態なら尚更だ。思わず目をつむる。
大きな音が響いた。恐る恐る目を開けると…
「…浮いてる?」
シュティレの寝ていた台ごと、空中に浮いていた。
「ふぅ…間に合ったな。」
新たな声に振り向くと、そこには息を切らしたシュピッツがいた。
「意識が戻ったのか!?」
「らしいな。創造主の加護としか言いようがない。」
いつもの調子で肩をすくめる彼を見て、安堵する。どうやら本当に創造主の加護があったらしい。シュピッツが手をひと振りすると、台はゆっくり下ろされた。
「ヴ、ガアッ…」
エーファは力尽きたのか、突然倒れた。苦しそうに呼吸する度に、口から血がこぼれる。
「殺せよ、シャル。こいつが何なのか知らないが、もう死なせてやれ。」
「待ってくれ、聞きたい事がある。」
俺は媒体の方を向いた。彼は倒れたエーファを黙って見つめていた。
「お前は何者なんだ?どうして、エーファはここまで必死にお前を守った?」
媒体は沈黙したままエーファに歩み寄り、しゃがんだ。俺とシュピッツは手を向け、いつでも攻撃できるように警戒する。今思うと、獣の声はエーファ本体から出ていた。あれはエーファ自身の声なのか?
「…二人、いるのです。」
媒体がぽつりと呟いた。これは誰の声なのだろう?媒体がこちらを見上げる。
「アーダムは既に、ここにいます。」
二人いる?アーダムが、ここに?
「まさか、媒体の中身は…アーダム!?」
「その通りです。」
媒体…否、アーダムが笑った。楽しくて仕方無い、そんな顔だ。俺の後ろに視線を向けている事に気がつき、再び振り向いた。
「ユスティーツ…。」
「やぁ、 シャルさん。」
ユスティーツは笑いながら手を振った。俺は硬い表情のまま口を開いた。
「裏切ったのか。」
「エーファから聞いたよ、全部。どうしてシャルさんは、そんなに必死なのか。オレ知っちゃったんだ。」
ユスティーツは剣を取り出した。
「オレは正義のヒーローになりたい。シャルさんに付いていったのも、シャルさんがオレと同じように正義を目指していたと思ったからなんだ。…でも、違った。シャルさんはその女の子の為に頑張ってたんだよね?そして、その為に正義を冒涜した。エーファは正しい世界を創ると言ったんだ。だから協力する。オレは…シャルさんに制裁を加える。」
アーダムは頷いた。
「シャルを殺しなさい。我々の新しい世界の為に。正義の為に。」
ユスティーツは心から幸福そうに笑った。
「メッサー発動!」

【剣士・メッサー『正義の剣』】
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