俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第十章

椅子売り

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「…予想より早かったですね。」
エーファの媒体がそこにいた。ここが何の部屋なのかは分からない。どれも似た部屋に見えたが、会議室のようだった。俺とエーファの媒体以外、他には誰もいない。ハズレか。急いで出ていこうとすると、扉が勝手に閉じられた。
「そう簡単に逃がしませんよ。貴方は死ななくてはならないのですから、あれで殺せないならここで殺すまでです。」
あれ、というのはシュティレの形をしたバグの事だろう。これは挑発だ。冷静になろうと呼吸を落ち着ける。大丈夫。こいつを殺して脱出する、それだけだ。
「貴方を殺すのは彼に頼みましょう。」
(…彼?)
媒体が片手を少し上げる。すると、物陰から現れたのは…シュピッツだった。
「シュピッツ!?どうしてここに、一般人はログインできないんじゃないのか!?」
「僕が無理矢理アバターだけ連れてきました。中身はいません、操っているだけです。」
平然と告げる媒体に、迷わずナイフを向けた。
「これを壊した所で無駄ですよ。」
媒体は無表情で俺を見つめた。
「だろうな。教えろ、何故シュピッツなんだ?」
「それは…」
背中に風を感じ、とっさに媒体を突き飛ばして振り向く。すると、部屋の椅子やテーブルが宙に浮いていた。1つや2つではない。全部だ。
シュピッツがぽんやりとした瞳で何やらぶつぶつと呟いていた。恐らくは、アングリフ。
「椅子売りの能力は、物を浮かせる事です。つまりはこの教会が浮いているのも、彼の力ですよ。」
エーファは浮き上がっている家具をちらりと見ると、先程まで閉ざされていた扉に指を触れさせた。魔法のようにすんなりと開く。そして、そのまま部屋から出ていった。俺が止めなかったのは、…尾行する為だ。
「悪いがシュピッツ、君と戦う余裕は無いんだ。…グロース、発動。」

【グロース発動】

ヨシュカは、暴走を止める為に存在する。今こそその能力が目的通りに使われている訳だ。倒れたシュピッツを眺めながらそんな事を考える。死んではいないと思う。
正々堂々とは戦えない、人から貰った力で捩じ伏せる。自分でコツコツとレベルを貯めてきたシュピッツを見ると、心のどこかで、自分が恥ずかしかった。
「シュピッツは凄いよ。こんな大きい教会を持ち上げる力があるなんて。…すまないな、でも、俺はこの力、ちゃんと使おうって思うんだ。」
後でまた操られないように持ち物からロープを取り出す。とりあえずぐるぐる巻きに縛っておいた。エーファさえ倒せば、シュピッツも元に戻るはずだ。
そして俺は、媒体が逃げた後を追った。
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