俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第十章

ナイフ

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「逃げないんですね。と言っても、ログアウトしようとしたら殺すつもりでしたから、良いでしょう。多少抵抗する権利くらい、あげる慈悲は持ち合わせていますから。」
エーファがそう言った瞬間、周りの空間が歪んだ。画像がぶれて…そう、バグが起きたように。
地面がぐにゃりと曲がって、そこからゾンビの様にあの『バグ』が這い出てきた。一人だけではない、何人…何十人もだ。
「このアバターは僕が作った物です。本来なら、完全な身体アバターができるはずだった。これは失敗作なんですよ。」
「…だから、シュティレを欲しがった?自分達では作る事のできないアバターを、手に入れるために?」
媒体の表情は変わらない。しかしどうして、エーファは二人いるのだろうか。媒体の役割とは何だ?ただ会話をする為の道具とは思えない。
「彼女はヨシュカではないのに、非常にレベルが高い。ヨシュカは彼女との結び付きが強くて使いにくいのです。そして、シュティレは有栖家の人間です。」
オルクスの言っていた理由と一致する。素直に話してくれるのは人工知能の本能みたいなものなんだろう。媒体がゆっくりと腕を持ち上げて、パチンと指を鳴らした。バグの姿が一斉に変化する。
その姿は、シュティレだった。
「ここからはこれらに任せましょう。さようなら。」
媒体は奥の階段の方へと歩き出した。
「待て…っ!!」
追おうとするが、バグ達に邪魔をされる。攻撃はしてこない。ただ、俺の前に立ちふさがる。俺がシュティレに手を出せないと分かっているのだろう。俺の行動も、思考も、全て読まれている。何十人もの無表情なシュティレの顔が、こちらへと向いていた。どの顔も、シュティレそのものだった。
(このバグ達を殺せば、先へ進める)
頭では分かっている。媒体の言っていた俺を殺すという話は、彼らがこの場所をエアモルデンと同じ状態にしてあるという事だ。
アングリフを唱えようと何度口を開いても、唇が震えて声が出ない。
シュティレをこの手で殺したという事実が、忘れようとしていた真実が、目の前に突きつけられる。
あの時はオルクスが命令した。俺はずっと責任をオルクスに押し付ける事ができていた。今、俺の周りにはバグしかいない。
(エーファを殺す。この決断をしたのは、俺だ。その手段を選ぶのも俺だ)
「グロース、発動。」

【グロース発動】

【プファラー・グロース『十字架クロイツ』】

決断さえしてしまえば、呆気なかった。
光が収まった後、俺の足元にはシュティレの死体がごろごろ転がっていた。死んでも元の姿には戻らないらしい。まるで悪夢だ。
(…シュティレを殺した時から、もうずっと悪夢か)
二階には何か罠があるかもしれない。俺はかつてシュティレと一緒に買い物をした時に買った、ナイフを取り出した。あの時のシュティレの姿と、オルクスの指示で殺した時のシュティレと、転がっている死体の姿が重なる。
「シュティレ、今助けるからな。」
そう言って階段へと走り出そうとした瞬間。突然、死体のはずだった一つが立ち上がり、俺に襲い掛かった。
「シャ…ル…」
シュティレが俺にナイフを向けた。オルクスと出会った日を思い出す。俺は手に持っていたナイフで、シュティレの首を刺した。
ぐぇ、と奇妙な悲鳴をあげて、シュティレの姿をしたバグは倒れた。真っ赤な血が靴を濡らしていく。
首に刺さったのを引き抜く勇気はなく、俺はそれが持っていたナイフを奪うと階段へ走った。
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