俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第九章

偵察犬

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滑るようにキーボードの上を流れる指を、唖然として眺める事しか出来ない。いつものヴィッツとは雰囲気が全く違う。彼の目には浮かんだウィンドウに映し出されている数列しか見えていないのだろう。話し掛けてはいけなさそうな空気も気にせずに、オルクスが口を開いた。
「数分で終わるな。」
疑問系ではない所がオルクスらしい。
「うん。先に探してて。」
ヴィッツは視線を動かさずに答える。
「行くぞ。」
オルクスの言葉に頷いて、俺とイデー、フェイはついて行こうとした。すると、画面から顔を上げたヴィッツが声をかける。
「待って、フェイ嬢は一応ここにいてくれないかな。」
フェイは一瞬オルクスに目をやるも、大人しく従ってヴィッツに歩み寄った。本当はオルクスと一緒にいたかったのだろう。心なしか残念そうな表情だ。仕方の無い事なので、フェイを置いて三人で先へ行く事にした。
「ユスティーツと合流する必要がある、あいつをいつまでも単独行動させておく訳にはいかない。」
イデーが腕を組みながら首を傾げる。
「…うむ。それならばユスティーツを探す者とエーファを探す者の二手に分かれたら良い。」
「俺はユスティーツとフロイント登録してあるから、彼を探すよ。」
オルクスは俺の言葉を首肯した。
「俺はエーファを探す。貴様らは二人でユスティーツを探せ。」
イデーの意思は無視されたが、彼女からの反論は特に無かった。イデーが先程から大人しい気がするのは、プロフェートをエーファだと気が付く事が出来なかった自分の責任を気にしているのかもしれない。
「シャル。」
イデーに名を呼ばれてはっとする。俺達は中央教会から少し離れた市街地の、裏通りを走っていた。ヴェルトでは走り続けても疲れる事はない。ただ…
「さっきからhpが表示されているのって、イデーのせい?」
「…嗚呼、エーファに出会った事も想定したら、攻撃出来た方が良い。」
それはわざとなのか、何もしなくてもそうなってしまうのか。hpを一々確認する事は無いから、今はたまたま発見した。
「中央教会には普段近付かないが…道なら報告書で把握した。…しかし、その報告書を書いたのはエーファだ。」
「こんな時の為に、報告していない道があるかもしれないのか…。」
「打開策ならある。」
イデーが両手を広げると、紅糸が建物の一部に巻き付いていく。
「センサーがついている、こんな人通りの少ない道を通るのはエーファかユスティーツくらいだ。このまま走るぞ。」
走っていく間に、所々の木や建物へと糸が飛ばされる。大量生産が可能らしい。
「そんな機能があったとは知らなかったよ。」
「ヴィッツが改良した時に付けた機能だ。我の動作が重くなる危険があるが…シャルに我を守る役目が増えただけだ、問題ない。」
「ええっ!?」
いつの間にかイデーの護衛が追加されていた。イデーは俺の非難の声を無視して糸の装置を起動させ、いくつかの画面を出した。突然、イデーの足が止まる。俺も慌てて止まった。
「反応があった、すぐそこだ。」
俺の手を強く掴んだかと思うと、道を引き返し始める。すると、角から男達が出てきた。イデーが悔しそうに呟く。
「…人違いか。」
猛スピードで走ってきた俺達に男らが気が付いた。更に近付いて息を飲む。男達の足元には、死体が転がっていた。どうやらエアモルデン帰りのようだ。死体の装備から見て、恐らく初心者狩りの一味。運の悪い事に、hpが表示されている事も発見してしまったらしい。一人の男が銃をこちらへと向けた。前を走るイデーなら何とか出来るだろう、そう考えてしまっていた。
「!身体が」
イデーの動きが重くなっている。先程説明された糸のせいだ。俺は咄嗟にメッサーを発動させようとしたが、男の指は既に引き金に掛かっている。
駄目だ、間に合わない。思わず目を瞑った。
「正義のヒーロー、参上!」
その声に目を開けると、ユスティーツが立っていた。
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