俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第七章

甘さ

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その血液は、
「…どうして…。」
俺の身体から出ていた。
俺を見つめるシュティレの手には、血に染まったナイフが握られている。
おかしい、ここは教会…フライハイトだ。エアモルデンでない限り、攻撃はできないはずだった。
「よくやりました、シュティレ様。」
そう言って椅子の影から現れたのは、フォルストで出会った護衛の獣人だった。少年の後に少女が続く。
「君は…あの時の…。」
血が止まらない。hpが命の危機を知らせてくる。少女は微かに口角を上げた。少年が無表情で告げる。
「まだ名乗っていませんでしたね、それなら…プロフェートとでも呼んで下さい。何故こんな事をするのか聞きたいのでしょうね、私は、公式の者を排除しに来たんです。」
排除。その言葉に身体が凍り付く。震える唇を無理矢理動かして、答える。
「僕は公式の人間じゃない、誤解だ。」
「それなら答えて下さい、先程の彼女の質問に?…答えられないですよね、公式の人間と認める事になりますから。」
シュティレは俺にナイフを向けたまま、怯えた表情を浮かべていた。
「僕は全てお答えできますよ。シュティレ様に、あなたが公式の人間の疑いがある、とお教えしました。そのせいでオルクス様はヴェルトを追われたかもしれないと。そして私は獣人ですから、攻撃なんていつでもできますよ。」
そう言ってプロフェートは耳を指差した。反論しようにも、声が出ない。リアルでは叫んでいるが、ヴェルトの俺はどんどん声が小さくなる。血は服を赤く濡らしていき、指先は冷たくなってきた。
もう駄目なのか?俺はここでゲームオーバーか?
ヴェルトの謎を、解き明かせないまま死ぬのか?
嫌だ、こんな終わり方は嫌だ…

歌だ。歌が聞こえる。

気が付くと、プロフェートもシュティレも動きが止まっていた。二人とも目を見開いて、信じられないといった表情だ。
「シュティレを、殺せ。」
突如耳元で告げられる。
「無理だ、そんな事できる訳が…」
「早くしろ。このままでは貴様が死ぬ。」
手にナイフが渡される。シュティレと色違いの、ナイフ。
死にたくない。
諦めたくない。
「あ…うあああああああああああああああ!!!」
両手でしっかりとナイフを握り、動けなくなっているシュティレに突っ込む。鈍い音と重い手応えに我に返り、シュティレから離れた。彼女はゆっくりと倒れる。胸には深々とナイフが刺さっていた。
「シュティレ…シュティレ!!あ、ああ、どうして、どうして俺はこんな事を!」
俺は背後に立った人物を睨み付ける。
「何のつもりだ…オルクス。」
オルクスはいつもの冷たい目で、死んでいく妹を眺めていた。
「シュティレはもう、ここにいない方が良い。」
「何だよそれ、どういう意味だ?」
「貴様は理解せずに殺したのか。」
その言葉にふと気が付く。さっきまで俺は、創造主の秘密とシュティレの命を天秤にかけていたという事を。
「…俺は全て教えようと思っていた、殺すなんて…」
「だが、貴様は殺した。」
オルクスは呆然と立つプロフェートを見た。彼女の顔には、歪な笑みが浮かんでいた。
「…貴様を生かした理由は分かるだろう。」
「ええ、分かります。しかしあなた達の正体を伺わないと、話せません。」
俺とオルクスは目で合図した。彼女にはヨシュカの存在を、教えても良いと思った。また後で殺せば良い。そんな事を自然と考えた自分にぎょっとした。
俺がヨシュカの事をなるべく詳細に教えると、プロフェートは納得したように頷いた。
「誤解でしたね、申し訳ありません。」
シュティレの死をあっさりと謝られて、思わず攻撃しようとする俺をオルクスは手で制した。
「貴様の情報を全て提供しろ。痛みが好きなら、いくらでも与えてやる。」
攻撃しようとはしたが、この会話を落ち着いて聞いていられる自分に驚く。シュティレが死んだというのに。
(オルクスに、判断して貰ったからか?シュティレの死を、オルクスの責任にできるからか?)
自己嫌悪を止めたのは、プロフェートの言葉だった。
「僕と協力すれば、創造主に会えます。」
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