俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第七章

露見

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早く会いたい。さっきまで誰とも会いたくなかったのに、今はシュティレに一刻も早く会いたい。教会の中へ入る。そこには、見慣れたあの姿。
「シュティレ!!」
「シャル…!」
シュティレは俺を見ると、乏しい表情をほんの少し輝かせた。最初の頃は分からなかった変化も、今では何となく分かるようになってきて嬉しい。
「バグと一緒に閉じ込められたと、聞いた…その後中央教会に行った、とも。」
駆け寄って俺をじっと見つめる。詳しい説明を求めているような。しかし、全て話す事はできない。ヨシュカ以外にこの話はできないだろう。
「心配かけてすまない。聞きたい事があるんだ。」
「…何。」
シュティレが警戒をしている。俺はまだそんな事まで普段気がつかない。という事は、わざとだろうか。警戒心に気が付いて欲しいと、シュティレが合図を送っているのだろうか。
ここで何でもない、と言う事もできる。何も無かった事にして、約束の夜まで待てばいい。
(オルクスの事は俺には関係無い。向こうは大人だろうし、自分で何とかするんじゃないのか。)
オルクスを知ってどうする?彼に言うべき言葉も分からない。それでも、聞かなくてはいけない気がした。
「オルクスは、有栖涼なの?」
シュティレが息を飲んだ。しばらく沈黙する。時が止まったような錯覚。彼女が口を開いた。何度も躊躇ためらって、空気を何度も吸い込んで、ようやく言葉がこぼれる。
「…そう。」
「彼は、死んだ。そうシュティレは言っていたね。」
小さく頷く。
「有栖涼は死んだ。彼はオルクスでも、ナイトでもない。私の兄。…彼は昔から天才と呼ばれていて、父からも期待されていた。だけど、兄は父の仕事に興味がなかった。音楽が好きだった。それを知った父は兄を叱った。兄は自分の運命を呪い…自殺、に見せかけて逃亡した。自分の人生から。自分の父親から。…私、から。私は兄を探した。そしてようやく見つけ、私は父と離れて兄と共に生活する事にした。でも、私は父から逃げられなかった。私はいずれ会社を継ぐ。お兄様はそれが自分のせいだと、いつも言っていた。」
当時小学生だった彼は、どんな思いで自殺の工作をしたのか。俺には想像もつかない。
『お兄様が何故ナイトの活動を停止したのか、私にも分からない。お兄様は…何も言わずにさっき家を出ていったから。』
「…オルクスが?やっぱり何かあったんだな…。」
俺が答えると、シュティレが目を見開いた。何か変な事を言ったのだろうか?
…ふと、気が付いた。
「シャル、どうして」
シュティレが言う。

「どうして、一人言モードが見えるの?」
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