俺達がチートであることを知られてはいけない。

無味

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第六章

バグ

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そこに現れたのは、さっきフライハイトにいたあのバグだった。続けてオルクスが飛び出る。とりあえず挟み撃ちという状況にはなったけど、これからどうするかは全く考えていない。物理的に拘束ってどうすればいいんだ。
「何呆けている、手伝え。」
そうこうしている内にオルクスがバグを羽交い締めにしてしまった。案外あっさりと捕まるものだな、と思う。
「離しテ…。」
手足はぼやけたままだが、腕はしっかりと動きを封じられている…ように見える。距離が近付くとその不気味さが増して、じっと見つめるとこちらがおかしくなってしまいそうだ。
「おーい、シャル君!」
後ろから声をかけられて振り向くと、ヴィッツとイデーがそこに立っていた。
「紅糸完成したんですか!」
ちょうど良かった、このままオルクスとバグの三人で待ち続けるのは嫌だった。俺がバグから目を離すと、俺の背後を見たイデーが小さく叫んだ。
「シャ…ル…!!」
「え?」
その視線を辿るようにバグを見る。オルクスは違和感を覚えたのか既に距離を取っていた。
バグだったそれは、徐々に形を得て一人の人間の姿になっていく。
「は…?」
おかしい、だってその服、手、足、顔は…
それは俺を見ると首を傾げながら優しく笑った。
「やぁ、僕はシャル。」
バグは『俺』になっていた。簡単に言ってしまえばドッペルゲンガー。
全く同じ姿をした人間が、二人いる。
「今まで姿を見せなかったのは、この技術のせいか…。誰かしらのコピーの身体で、僕達の中に紛れ込んでいた…。」
「ヴィッツさん、早く紅糸を!」
俺がそう叫ぶと、バグの俺は俺の腕を掴んだ。強い力で、恐怖のあまり振り払えない。
「ヴィッツさん違います!僕が本物のシャルですよ、こいつがバグです!」
「お前、何言って…ヴィッツさん、惑わされないで下さい!僕が本物だって分かりますよね?」
ヴィッツは見た事が無い程険しい顔をしていた。しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開く。
「…二人とも拘束する。」
「ヴィッツさん!?」「ヴィッツさん、俺を信用しないんですか!?」
ほとんど同時に俺とバグが叫ぶ。よく見る入れ替わりの話だけど、実際になってみると理性が壊れていくのが分かる。
自分は本当に自分なのか?俺はこんな姿をしていたのか?
自分、という存在を突きつけられて、信じていた『何か』が崩壊する。
俺を見る皆の目は、俺がさっきまでバグを見ていた目だった。
「それが最善策だ。」
この場で一番冷静なオルクスがそう告げた瞬間、俺達をイデーの紅糸が襲った。攻撃能力は無い筈のその糸に、何故か意識が遠ざかっていった。
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