夢の世界とアガーレール! 第三部 ―ベルベット・スカーレット―

Haika(ハイカ)

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第三部 ―ベルベット・スカーレット―

ep.16 負の連鎖。一寸先は闇。

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※ここまでの道筋(~ep.15)




「うぅ~ん」

 夜、海の家。アニリンはなぜか目が覚めた。

 用意されたベッドのすぐ横には、マリアがソファの上でぐっすり眠っている。


 閉まりきったカーテンを、ほんの少し開けて覗く。
 空は快晴、美しい星々で彩られていた。

「きれい」

 アニリンは何故か寝付けないのだろう、今の外の空気を吸いたくて仕方がなかった。
 今の時間なら誰も近くを出歩いていないし、目の前の砂浜まで出歩く分には安全。そう思い、アニリンはこっそり玄関を出たのであった。



 …。



「お母さんの星は、どこかな? お母さん… フクシア…」


 シュワシュワと波打つ音。弧を描きながら移動していく、丸い月。
 砂浜に出たアニリンが、静かに呟きながら、無数の星々を眺めた。

 その中に、星となった母親の輝きを探しているのだろう。
 家族がいた頃が恋しいのか、瞳の奥からは、もの寂しさが込み上げていた。



 沿岸端の草むらに、何者かが潜んでいるとも知らず――。



 ――――――――――



 ――今夜、サリイシュ宅に来てほしいんだ。あまり賑やかだとイシュタが眠れなくなるから、一応先着3名まで。それじゃ!

 なんてノアの連絡があったものだから、ローズ解放後、僕はすぐにサリイシュ宅へ向かった。
 先着3名は少ないが、つまり今夜はイシュタの就寝時を、僕達で観察しようというわけか。自分が寝ている姿を皆に見られるって、嫌じゃないのかな…?

「あれ?」

 今は暗い夜。
 先住の小人達は法政ギルド近辺の建築か、もしくは地下で酒場を開いている時間帯。王宮付近を出歩いている人は、1人もいない。

 …のだが、僕がサリイシュ宅へ向かう途中、王宮へと続くレンガ道で何やら神妙な面持ちで話している、アゲハとマニーとマイキの姿があった。

 ――どうしたんだろう? 3人とも、深刻そうな顔をして。

 でも、今は目的地へ行かないとだ。
 ノアと直接約束したわけじゃないけど、だからこそ優柔不断になっている場合ではない。アゲハ達の今の様子については、後ででも訊けるのだから。



「実は女王からきたオペレーションの続報を期に、ここの2人にも、俺達が使っているこのイヤホンの機能を教えたところなんだ。もちろん、2人にはイヤホンの件を誰にも口外しないよう約束してある。というわけで、今夜から宜しく」

 そういって、パッケージの母機を弄るノアのその一声で、緊張気味に頷くサリバとイシュタ。
 今の2人は寝間着で、本来ならこれから就寝に入る所だが、この通り部屋にはノア、キャミ、テラ、そして僕が訪問している。これだけの人数がいれば当然、

「もし、すぐに眠れなかったらごめんなさい。あと、あちらの世界に行けなかった場合も」

 とイシュタが言うように、簡単には眠れなそうである。キャミが補足を入れた。

「母機には、デバイスをはめている者が脳内で描いた想像や、夢を記録する『録画機能』がついている。ほんの些細な夢でもいい。今日からイシュタの保護も兼ねて、この家で何日間か試験を行うから、今からでもこの環境に慣れてもらうぞ」
「…はい」

 なんて言われると、よけいかしこまってしまうのが被験者のさが
 僕だったら「余所よそ者がこんな騒がしい中で寝て下さいなんて本当ゴメンね」といいそうだけど、ベルスカの件を急ぎたいキャミは一切容赦なし。悪く言えば図々しいというか。
 僕はノアの隣に座っているテラへと声をかけた。

「よく見たら、俺とサリイシュ以外みんな夜型…」
「うん。私は万が一、近くを例の悪魔やファントムが来た時に備え、徹夜するつもりだよ。こういうの・・・・・には慣れているからね」
「そうか」

 テラの腰には、心臓のような形をしたカードリーダー式のベルトがついている。
 彼女の本業は霊媒師だ。彼女の固有天賦である破邪の力を様々な効果に変換でき、それらを発動させるのに必要なカードを用いて戦うので、物理で倒せない敵相手にはかなり有利である。が…


「…」

 テラが、ある方向へと目を向け、数秒間口を閉ざした。
 その方角は、海の家と、それをまたいだ先の海上に浮かぶフェブシティ。

 僕は「どうした?」と声をかけた。すると、テラはゆっくり立ち上がり…


「なんか、妙な胸騒ぎが」
「へ?」
「なんだろう? 嫌な予感がする。私、ちょっと海の家へ寄ってくるよ!」
「え、海の家!? どういう事だよ。えーと… 俺も今から行ってきていいかな?」

 僕がそうキャミ達に聞いている間にも、テラはすぐに外へ飛び出していった。
 サリイシュはこの展開に疑問符を浮かべた。

「俺とキャミはいいけど、2人はどう?」

 と、ノアが早速返事をした序で、訊かれたサリイシュもぎこちなくだが同時に頷く。
 僕は今さっきのテラの行動を見て、なぜだか同じく不安になってきたので、続けてここを後にしたのであった。



 ――――――――――



「ごめんなさい…! ごめんなさい…! お、大人しく帰りますからぁ!」

 アニリンが、泣き腫らした顔で全身を震わせ、その場で蹲っていた。
 顔や手足には、鼻血や、打撲の跡が多く見られる。

 なんと、自分より一回りも大きい子供のオーク3人が彼を囲み、暴力を振ってきたのだ。

「うるせぇなぁチビ! ここにお前の帰る場所があると思ってんの?」
「ひぃっ」
「てゆうかさ。最近、空の上がうるさい原因はお前だろ。お前が来てから、俺達うるさくて眠れないんですけど~?」
「ち、違います…! 僕は、僕は何も…!!」

 その瞬間、残りのオークの子供1人が、アニリンの顔面を思い切り蹴り上げた。
 アニリンは抵抗する間もなく、草むらの一角に倒れ込む。砂浜で星を眺めていた所を突如、この不良の子供達に後ろから髪を掴まれ、草ぼうぼうの平地へと引きずられたのであった。

「あー、口答えウゼェなぁ。フンだ、こっちは酋長しゅうちょうから聞いてんだぞ~? 悪い奴って、あのフェブシティから来るんだって。しかもそこって、ゴブリンの住処すみかだってさ! で、お前なんでフェブシティの方向むいてたの? 絶対そこから来ただろう!?」
「そうだそうだ! 俺達、そんな悪い奴を懲らしめる為に最近、この辺りを毎晩こっそり見張ってたんだぜ? そしたらマジで現れやがったし」

 そういって、倒れているアニリンを、不良の子供の1人がペッと唾を吐いた。
 アニリンがゆっくり上半身を起こすも、先の暴行で胸を痛めたのか、ゼェゼェと息を切らしながら胸を抑えている。不良の子供の1人が、ゆっくり自らの片足を上げた。

「そういう事だから、敵はさっさとここから出ていけ。さもないと…」

 そういって、片足をアニリンの頭上へと向ける。
 アニリンが苦しんでいるのに、頭を踏みつけるとでもいうのか。

 が、その時――!


 プシュン! ドーンバリバリバリー!!
「「うわぁ!」」「なに!?」

 彼らのすぐ横を、オーロラ2色の電磁波をまとった1本の矢が降ってきた。
 矢から雷鳴のような大きな音が鳴り、みな驚きざまに振り向く。アニリンは間一髪、踏み付けられずに済んだのだ。草むらから飛び出してきたのは、

「オイ! そこで何してんだオメーら!!」

 ジョン・カムリだ。虫の知らせを感じたのだろう、彼が矢を放ったのである。
 その瞬間、子供達はすぐにその場から走り出した。

「やっべ猫男だ! 逃げろー!!」「わー!!」
「おいコラ逃げんな!! …くそ、なんてすばしっこい奴らだ」

 暗いせいか、すぐに見失ってしまった。そして同時に、

「アニリン!? アニリン、どこへいったの!!?」

 海の家から、マリアが勢いよく飛び出したのだ。
 ジョンはマリアと合流した。

(つづく)
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