夢の世界とアガーレール! 第三部 ―ベルベット・スカーレット―

Haika(ハイカ)

文字の大きさ
上 下
5 / 37
第三部 ―ベルベット・スカーレット―

ep.5 砂漠のヤンキー、ヤシの木の上でヤシる。

しおりを挟む
「やっほー♪ ミネルヴァもこの世界に来たんだね」

 と、ここでマリアが手を振ってかけつけてきた。
 朝からずっと仕事だったのか、冒頭と同じカゴを持ち歩いている。中身は天秤のみで、どうやら今日の分を無事完売させたようだ。
「けさは何処へ行ってたの?」
 と早速きいてきたので、ここは僕がかくかくしかじか、マリアに砂漠の件を説明した。


「なるほど~。それ、私も同行していいかな?」
「いいけど、商業ギルドの方は仕事大丈夫なのか?」
「うん。寒い時期だから、周りの農作物は殆ど収穫済みで、冬を越すための保存食を蓄えている家庭が多いからね。でなくても、最初は私1人だったけど、今はシアンがいるから」
「そうか。同行してくれる仲間は多ければ多いほど助かるよ。喜んで!」

 そういって、僕はマリアの探索パーティー参加を快く承諾した。

 じぶん冒険者ギルドのマスターさながら、このあと組合で蓄えている経費や必要物資を勘定・清算し、当日の探索に備えればいいだけ。
 かのオペレーションの件を除き、第一部の時みたいに一々王室関係者へ報告しに行かなくていいのは本当に便利である。



 ――――――――――



 そして当日。
 山脈を渡り歩いた時とほぼ同じメンバーに、マリアが加わっての砂漠エリア突入だ。
 ヘルはこの日、診察で忙しいから不在だけど、マリアと入れ替わりなので結果的に前回と人数は同じである。さて気になる大雨後の、山脈から見える景色は――?

「おー! 砂嵐がキレイさっぱりなくなっている! 一面ずーっと砂漠だな!?」
「うんうん。遠くの景色も見える様になったね。見て、あそこにヤシの木が生えてるよ」
「お、あっちには建物らしき黒いのが幾つか見えるね~! 村かな? 人がいたりして。にしても砂漠、広すぎじゃない!?」

 なんて、僕だけでなくヒナもマリアも大はしゃぎだ。
 ミネルヴァが降らせた雨のお陰で、止んだ今は砂漠地帯の全貌が見えるのである。空も雲一つない快晴だから、地形だってくっきり。

 その代わり、早速砂漠地帯に足を踏み入れながらだが、ミネルヴァがこう懸念を示した。

「今こうして見る限り、静かで人が歩いている様子は見当たらないけど… 平面の砂漠続きで、身を隠せそうな岩などが殆どない。敵に目を付けられる可能性は非常に高いわ」
「う~ん。いきなりこっちが攻撃を仕掛けてこない限り、向こうがすぐに襲ってくるとは思えないけどなぁ。チアノーゼ戦の後のことと、ベルスカを握る側の思惑おもわくを考えたら」
「それでも敵にとって、私達に知られては都合が悪そうな場所に、知らずのうちに立ち入ってしまう可能性はゼロではないでしょ? そういう時のための予知能力発動は必須よ」
「…あ、そっか」

 つまり僕が取り戻している能力の1つ「未来予知」で、地雷を避けようという事か。
 そうと分かればすぐ、未来が見えるようにと深呼吸がてら念じた。


「…」

 僕達が向かう先はヤシの木。つまりオアシス近辺。
 理由は、とりあえずこの広大な砂漠を冒険する際の「目印」を覚えておくため。

 ヤシの木以外、身を隠せそうな場所はない。日除けもほぼ皆無。
 今は冬だから、幸いにも強い日差しを浴びても「暖かい」程度で済んでいるけど、これが夏場だったらエグい灼熱地獄なんだろうなぁ。


 さて、そうこう駄弁っている間にオアシスまでの未来予知、完了。

「うん。何も悪いことは起こらない!」

 僕はそういって、同行しているミネルヴァ達を安堵させた。
 念じたことにより、脳内にパッと映し出されたビジョンにて、僕達が人為的なトラブルに巻き込まれる事はないという確認がとれた。みな、歩行ペースを上げていく。


「あら…? あのヤシの木から、“何か”を感じる。電磁波、とは違うような」



 おっと?
 ここへ来て上界の神ミネルヴァさん、もしやこれは例のアレ、発見フラグですかね!?

 なんて、ここは僕達もその反応に期待したものだ。
 意外と距離はあったけど、なんとか辿り着いたオアシスのヤシの木の下、ミネルヴァが眺めているその先を僕もにらんでみる。すると、

「あ! ホントだー! 太陽の光に反射してる!」

 そう。ここへきて早速、ヤシの木の葉っぱに乗っかっているクリスタルチャーム発見だ。
 新しい場所へ行けるようになるにつれ、新しいチャームやお宝がこうして見つかる事もあるのだからホント、冒険って面白い。

「ここは私が拾ってくるよ! さて、よいよいしょっと」
 そういって、ここは今いるメンバーの中で最も低身長かつ身軽なマリアが、ヤシの木をすいすい登っていった。
 さすが普段は海辺で暮らす島の女。途中から木が重みでしなり始めても、そう簡単に折れないと分かっているからか決してものじせず、天辺まで辿り着くのが早い早い。

「とったよ~♪」

 木を登り始めてから、わずか20秒ほど。
 マリアが今にも折れそうな木の天辺から笑顔を向け、チャームを握りしめた腕を振った。

 チャームのロゴは、よく見ると竜巻マーク。
 という事は、クリスタルの主はあのツートンカラーヘアのヤンキー男か!
 マリアはすぐに木を降りた。

「よっと。ねぇ、冒険の途中だけどこれ、持って帰ってアゲハに報告する?」
「ううん、できるなら今すぐ解放しよう。報告は後でもいいよ。もしかしたらこの砂漠を多く見てきて、俺達より詳しいかもしれないし。ね?」

 僕はそういって、ミネルヴァへと目を向けた。
 どうやら彼女も同じ意見らしい。僕の視線の意味を察したのか、すぐコクリと頷いてはマリアの手にあるチャームへと歩み寄った。


 笑顔でチャームを差し出すマリア。
 それをミネルヴァが、ゆっくりと手をかざす。

 チャームは、ミネルヴァが近づき、力を注ぎ入れるにつれ発光が強くなってきた。


 光が、次第に強くなる。つむじ風も吹いてきた。
 白から、やがて虹色の光へ、そして――!

 ドーン!!


 チャームからお馴染み、光のスライムが宙高く発射された。
 弧を描きながら、すぐ近くのオアシス目前にて着地する。そいつの足元には小さな電流がビリビリと放出された。

 やがて電流がすぐに収まると、僅かに湯気を上げながら、身体が実体化していった。

 長身で色黒、磁力を駆使した高速移動技が得意の男。「ヤス」ことヤシル・カリーファの解放である。



「…あ゛ー。『地に足をつける』って、こんな感覚だったか。久々だな」

 なんていいながら、某アクションSF映画の人型アンドロイドがやってそうな着地ポーズから、普通の立った姿勢へと戻すヤス。
 生身の身体の一部または全体に、義骨として医療用の合金を組み込まれた「サイボーグ」の類としては、これでリリーに次ぐ2人目の解放かな?

「久しぶりね、ヤシル。あのお別れ会のあと、急に異世界に飛ばされて困惑したんじゃない?」
「はっ、ったりめーだろ。目が覚めたら砂の上で? 途中からなんか黒ずくめのよく分かんねぇ連中が、でっけぇ扇風機みたいなもん幾つも彼方此方あちこちに置いていく様子が見えて? で、それからはずーっと砂嵐しか見えねぇ状態よ」
「えー」

 と、僕はヤスが今日まで遭遇してきた様子を耳に困惑したが、今なにげに聞き捨てならない単語が幾つか出てきたぞ?
 その意味に、マリアもヒナも察する。ミネルヴァの目が鋭くなった。


「なるほど。地理的に、あんな大規模な砂嵐が発生しているのはおかしいと思ったの。あれは、フェブシティのテクノロジーを駆使した人為的現象だったのね。

 きっとその先の… 誰にも知られたくない、何か実験的なものを、隠すために」

(つづく)



※キャミ ベルスカ衣装 立ち絵
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

俺だけ入れる悪☆魔道具店無双〜お店の通貨は「不幸」です~

葉月
ファンタジー
一学期の終わり、体育館で終業式の最中に突然――全校生徒と共に異世界に飛ばされてしまった俺。 みんなが優秀なステータスの中、俺だけ最弱っ!! こんなステータスでどうやって生き抜けと言うのか……!? 唯一の可能性は固有スキル【他人の不幸は蜜の味】だ。 このスキルで便利道具屋へ行けると喜ぶも、通貨は『不幸』だと!? 「不幸」で買い物しながら異世界サバイバルする最弱の俺の物語が今、始まる。

処理中です...