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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.35 闇を操りし光の神の子、爆誕!

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 「来る…!」

 アゲハがそう言って、低姿勢で構える。
 そして次の瞬間、

 カキーン!

 影となっている林の奥から、幼女の姿をしたものが、吹き矢の如く飛び出してきた。
 その者は、手に特殊な形状をした刃物を握っている。アゲハは瞬時にその攻撃を弾いた。

 「ボスの仇!!」
 突然のつばり合いを仕掛けた相手は、機械人形のN1。
 そういえば、あの富沢商会でボスを倒したはいいが、まだこのアンドロイドが残っていたではないか! ただ、富沢伊右衛郎亡き今、もう誰も反撃してこないはずでは…?
 「うわ! え、ちょ…!」
 僕の周囲では、ソースラビット達が突然の攻防を目の当たりにし、動揺している。
 友好的関係を築く動物達にとって、この光景はパニックに陥っても何らおかしくはない。N1の攻撃を避けつつ、抜き技を繰り出すアゲハが、僕に指示を送った。

 「こいつの狙いは私だ! ここは1人で仕留める。アキラはラビット達を安全な場所へ!」

 この国の女王を守るため、咄嗟に助太刀しようとした僕だが、先のカナルの話を思い返せばここはアゲハの指示に従うべきか。
 ソースラビットはこの世界において、魔法の源を生み出す大切な存在である。
 神聖な生き物、というか。

 「わかった!」
 僕はソースラビット達を連れて、アゲハとN1の攻防戦から距離を空けた。

 この国の君主を置いて、1人で戦わせるなんて、おかしいと思うかもしれない。
 だが、少なくともアゲハはそういう「守られる」類には入らない。護衛もついていない。
 それもそのはす、彼女はただの君主ではない。頑強で、バリバリ戦うヒロインなのだ!


 「せい!」
 N1の払い技をかわしつつ、相手の隙を狙い、攻撃線を逸らすアゲハ。
 素人しろうと目線なので良い加減な憶測が含まれるが、純粋な火力ではアンドロイドの方が上で、その者を相手に力でゴリ押すのはかなりのリスクがある。アゲハはそれを見越した上で、ここは相手の調子を狂わせるための回転技を用いたのであった。

 「蝶よ。風のように舞え!」

 N1がふらついた所を、次にアゲハが自身の能力である虹色蝶を生み出すべく、詠唱。
 無数の蝶をフェードインさせ、その群れでN1を包み込むと、続けてアゲハ自身がそこに入り込んだ。相手が蝶の波に飲まれ、錯乱している間に次の瞬間、

 シュン!! シュバババババババ! シュシュン!!

 目にも止まらぬ高速移動を応用した、無双斬りがお見舞いされた。
 アゲハが振り下ろす刀により、一瞬で、10連超もの重撃が放たれたのだ。

 するとN1の全身、それも回線が張り巡らされているであろう関節部分が大半で、無数に切り付けられた傷が出来た。傷口からは、ビリビリと漏電が発生する。
 ストッ
 そのN1の手前、まるでワープしたかのように着地するアゲハ。
 最後は静かに刀をしまう。

 ドサッ

 N1は震えるように漏電と煙を起こしながら、地上へ落下。
 最後は瞳から光が消え、完全にその機能を停止したのであった。



 「富沢商会の残党が、急に襲いかかってくるなんて…」

 僕はソースラビット達を落ち着かせたあと、アゲハの元へ駆け寄った。
 今のアゲハの目は、どこか切なさを帯びている。

 「N1… この機械人形だけは、他のN型とは明らかに違った。
 みんなが次々とシンギュラリティに目覚め、富沢商会にあらがっていく中、N1だけは最後まで、あの男に忠実だった… なにが、彼女をそこまで動かしたのだろう?」


 その言葉に、僕はどう返してあげればいいのか、わからなかった。



 ――――――――――



 「久々やな。変わらん景色や」

 黒い空の上に、太陽の光。
 際限なく降りしきる隕石の雨。
 赤く焦げた跡が僅かに残る、大きな月。
 そして、生き物のように暴れ出す噴火やマグマ。

 そんな原始地球をモチーフにした地獄にて、僕はカナルを連れてやってきた。
 正確には、王宮で僕以外の誰かがカナルの隣で眠った事により、彼女にも上下界移動の能力が付与された、といったところだが。
 「うわぁ」
 僕が顔を歪めてしまう程の惨状。
 地獄へ来たのだろう人達が、無残にも殺され、地面に転がっていた。
 いや。「死」の概念がないから、殺されたとは言わないのか。全身を容赦なく斬り刻まれ、動作不能になった、といった方が正しいかな。

 「アキラ――。遂に、解放したんだな。1人目の先代を」

 血にまみれた惨状の中央に立つ、現職の礼治。
 今でこそ静かだが、僕達が来るまでの間、ここの人達を“処罰”していたのだろう。

 「フン。神の子の頼みやさかい。不服やけど、ちーと位は代理してやってもええで?」
 なんて、随分と上から目線でつっけんどんに出るカナリアイエロー。
 これから礼治の代理で働くので、寝巻きにしては派手な漆黒のドレスを身に纏ってきたものだ。
 …本当は、礼治と顔合わせできて嬉しいくせに。まったく、素直じゃない女。

 「いくつか伝えるべき共有事項がある。それをカナリアイエローに渡してから、俺もじきにアガーレールへ足を運ぶよ」
 そういって、礼治は僕の前へと歩み寄った。ようやく“その時”が来たか。

 「アキラ。あれから幾つもの力を取り戻し、ある程度の戦いにも慣れてきた頃だろう?」
 「はい」
 「なら、そろそろあの力をお前に分け与えても、問題はなさそうだ」

 あの力、ね。
 礼治がそういうと、自身の手の平から1つ、黒いモヤのかかった火の球を生み出した。
 同時に、僕と礼治を包むように上昇気流が発生する。
 その、熱くもどこか冷たいほむらが、勢いよく僕の胸の中に入り込んだ!

 「うっ…!」

 熱い…! 胸が、少しだけ苦しい…!
 体の内側から焼かれるような感覚を覚え、僕は自身の胸を押さえる。その「苦痛」は、時間感覚にしておよそ10秒ほどで、溶けるように薄れていったのだった――。



 「これで、アキラにも俺の黒焔魔法が使えるようになったはずだ。
 それまでは、半端な身体能力で、力を分け与えるわけにはいかなかった。闇が強大すぎて、アキラ自身がその闇に飲まれ、暴走する危険があったからな」

 と、事情を知らない人にも分かるように説明する礼治。
 僕は、分け与えられたこの魔法が、どれほど危険なものかを熟知している。
 昔、これのせいで心の制御が効かず、危うく暴走しかけた事があるから、分かるんだ。

 そして今、僕の手には、そんな魔王直々の能力が付与されている。
 今日まで解放してきたクリスタルの魂、そして取り戻した能力を合わせ、遂に戦闘クラスが1つの節目であるLv.10に到達したのだ。
 もう、プロローグで最弱だった頃の僕とは違う!

 「火柱フレイム!」

 僕は試し切りの要領で、早速その力を披露した。
 足元から360度、地面に黒焔の葉脈を生成し、フェードインさせた黒い片手剣を振るう。
 その技から、禍々まがまがしくも強力な火災旋風を繰り出し、地面の岩を抉ったのだ。

 ――決まった。

 新・旧2人の魔王も、静かに見つめている。

 旋風が収まった後、剣を元の構えの位置につけ、僕のお披露目は一旦ここで終わり。
 どこまでが発現できる限界かを見定め、それ以上の火力を上げたい場合は、他の魔法とぶつけて化学反応を起こせばいいのだ。一例を挙げるなら、カナルの植物魔法から作り出せる「燃焼効果」が非常に役立つだろう。

 これにより、僕の戦闘スタイルの幅は、一気に広がった。

(つづく)



※第一部までの相関図
(灰色影絵は、まだ登場していないキャラクター)
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