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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.29 犬飼いは金持ちのステータス?

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 「…という事なんだが」

 あの後、キャミは先の手紙をもって王宮へと向かい、アゲハたちに報告した。
 仲間達全員に、サリイシュもいる。リリルカをフェブシティから帰還させるべきか否か、慎重に話し合う必要があった。返答はかなり早かったものだ。

 「せっかくここまで来たんだし、結論としては、フェブシティに犬を連れてヤツと面会する方向でいきたい。現地にいる2人にとっても、これ以上の長居は負担になるだけだ」
 マニーが、向こうでの滞在経験をもとにそう述べた。
 たしかに。人間やサイボーグには不利な環境であれ、彼女たちも本心は富沢伊右衛郎に会いたがっているから、現地に留まっているはずなのだと信じたい。
 「犬って、お金持ちが飼うべき生き物なの?」と、イシュタ。僕は説明した。
 「少なくとも俺たちの元きた世界には、単にその傾向が強いだけで、みんながみんなそうとは限らないよ。中にはごく一般の家庭の人も、犬アレルギーのお金持ちだっているからさ」
 「最近は多様化してきているけどな」
 と、キャミが補足を入れる。今の割り込みは、ちょっとモヤっとくるなぁ…

 「アガーレールとフェブシティに、愛玩動物としての犬はいないのか?」
 逆にキャミのそんな質問に対し、アゲハが答える。
 「フェブシティは分からないけど、アガーレールに飼い犬として最適な品種というのは、見かけないかな。猫も中々に見つからないし、周りはソースラビットだらけ」

 「へぇ。じゃあ、なぜに富沢はそんな滅多に見つからない犬ちゃんを、『金持ちが飼う生き物』だというイメージで見ているのかな? もしかして、昔はたくさんいたとか?」
 次にそう訊いたのはマリア。すると次に、マニーが首を横に振った。
 「俺がスポーンした頃から、愛玩動物としての『犬』は見た事がない。ただ富沢アイツの傾向からして、その犬ってのは『オオカミ』の事を指しているんじゃないかと思う」
 「だね。同じイヌ科の生き物だし。でも野生で暮らしているオオカミを、今からお迎えするのはとても効率が悪いよ。彼らは群れで行動し、1匹でも仲間の身に何かあれば追いかけ、時に集団で襲い掛かってくる。手懐けさせるのは至難のわざだ」

 アゲハが困り顔で肩をすくめた。
 あの熊たちでさえ、一部を除いて警戒する生き物が相手だから、そんな彼らを連れてフェブシティへ行くなんて無謀である。
 「となると…」

 ぽつり、キャミがとある方向へと振り向いた。
 僕たちもつられるように、その方向へと目を向ける―― 注目の的はマイキであった。


 「…私が、なにか?」

 途端に冷や汗をかくマイキの、大きなケモ耳が、ほんの少しだけイカ耳になった。
 なんとなく想像がついたのだろう。僕もそんな気はしている。つまり、近くに拾える犬がいないなら、代わりに仲間が犬に変身し、“ペットになりすます”しか方法はないのだ。



 ――――――――――



 「行ってくる」
 自分がペットに成りすます―― 最初はそんな作戦を本人が嫌がるだろうと思っていたが、案外そうでもなかった。
 正当な理由があって、納得したのだろう。バレるんじゃないかという不安を募らせながらも、ここは仲間達のためにマイキはアグリアへとまたがった。変身は到着してからである。

 「…」

 地平線の向こうへと虹の橋がかかり、走り去っていくマイキとアグリアが徐々に見えなくなってきたころ。マニーが何を思ってか、静かに見つめていたが…

 「あ! やっほーセリナくん」
 ヒナだ。僕とは違い、アゲハとともに王宮で過ごしている母神様が久々の登場である。
 「やぁ。そういえば、礼治さんとはあのあと、何の話をしてたの?」
 もう大分前になるけど、振り向いた僕はあの枕投げの時のことを、ヒナに質問した。
 ヒナはほんの少し照れ臭そうな顔をした。
 「ちょっとした世間話だよ。この世界で200年もの間、ずっと海の様子を見てきた事とか、あれから地獄での仕事はどうなのかな~って」
 「そうか」
 「だけど、そんなに長居できなかったかな。礼治さん忙しそうだったし、せめて『ひまわり組と何か揉めごとでもあったの?』って、質問しておけばよかったわ」

 遠くを見つめる目が、少しばかり切ない。
 正直、僕も同じ事を考えていた。やっぱ分かるもんなんだな。いま、上界では神々と魔王の仲が険悪なのだと。

 今の状況が少し落ち着いたら、ひまわり組に直接訊いてみよう。
 僕がそう心に決め、マニーがいた方向へと振り向くと、彼は既にそこにはいなかった。
 いつのまに王宮に帰ったのかな? と、僕は肩をすくめたのだが――。



 ――――――――――



 空中都市・フェブシティは、大海原の上にある、外壁が濃いモノクロ色の人工浮島。
 島のどこかしこを見ても、浮遊の“素”と思しきプロペラやマグネット等は見当たらない。一体、何を原動力にして浮いているのか不明だが、とにかくそんな東京ドーム10個分くらいはありそうなその土地の一角で、マイキはリリルカと合流した。
 そこからの3人の行動は、割と早かった。
 伊右衛郎との面会権を有するのはルカで、マイキはその飼い犬として、変身能力を用いて扮する。その間、リリーはアグリアとともにシティの駐機場前で待機する事になった。

 ルカはその付近にある、近未来なデザインが特徴的な地下建造物へと案内された。
 浮遊している機械人形の手招きで、犬になっているマイキとともに入ったのは、広々とした応接室の様な間取り。窓の大きさと目に見える光景からして、部屋は崖からせり出した迫力のある造りだ。きっと、それだけの設計技術と耐久性を兼ね備えているのだろう。

 「古住こずみ瑠夏るかはんか。はじめまして、そして優勝おめでとう。さ、そこの席へ座ってや」

 部屋の奥で、ルカ達の訪問を心待ちにしていた、大柄な男が1人。
 そう。こいつこそが富沢商会のボスにして、アガーレールの敵対勢力フェデュートの一味である富沢伊右衛郎だ。フルネームで呼ばれたルカは内心、とても緊張していた。

 伊右衛郎に指定されたソファへと座り、横にマイキも携える。
 ふと、ヤツの左手を見ると… たしかに、袖の中から何かキラキラしたものが目に入った。形状までは良く見えないけど、それはまるで、ルカに助けを求めているような輝き――。

 こうして、伊右衛郎もニヤリとした表情でソファに腰かけ、ルカと向かい合いになった。
 演技なのかもしれないが、訪問にさほど機嫌を損ねていない様子から、それだったら最初から面会権を渡した通りに対応してくれればいいのに、とルカは思う。
 犬を連れてこなければいけなかった、その意味も分からない。そう思うのは自然だろう。

 なぜなら、相手の犬が見当たらないからだ。犬同士の交流のはずなのに、どこへ?

(つづく)



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