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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.24 イケメンと召喚獣の大渋滞

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 祭は、そろそろ終焉を迎える頃か。

 祭は確かに楽しいし、女王様と母神様を称えるには相応ふさわしい行事だといえる。
 だけど、さすがに何日間も騒音続き、というわけにはいかないのだ。

 僕たちが戻った頃には、少しだけ、広場も落ち着きはじめていた。

 「おかえり。熊を無事に追い払ったみたいだね」

 広場に戻って早々、アゲハが安堵の表情で出迎えてくれた。
 この国の君主と神様(?)だから、あまりこの場から離れる事の出来ない彼女たちに代わり、僕とほか2人がチャームを取りにいったという経緯である。

 「おかえりみんな! さっき、ここから熊たちが森へ帰っていく所を見たよ」
 と、ヒナも笑顔で出迎えてくれた。
 彼女の周囲には、この国の先住民であるほかヒト型種族も数人、微笑んでいる。自分達の住居や職場の安全が確保できたから、ホッとしているのだ。

 「わぁー! また新しいチャームを手に入れたんだね!? すごーい!」
 「え…!? なんだ、この今までとは違うオーラは。中に、幾つも詰まっている様な」

 と、サリバとイシュタもかけつけ、リリーの持つチャームをまじまじと見つめた。
 にしても、今回クリスタルに封印されている魂が1つだけじゃないって、よく気づいたな。

 「おー! もしや、魂が解放される瞬間が見られるのかね!?」
 「楽しみだわぁー♪」
 と、ドワーフやハーフリング達も徐々に集まり、サリイシュを前に鑑賞モード。
 まだ「今からおまじないをかける」とは一言も言ってないんだけどなぁ。

 「できそうですか?」

 リリーが両手の平にチャームを抱え、サリイシュにそう尋ねた。
 2人はコクリと頷き、自分達が近づくにつれて光り輝くチャームへと、手をかざした。


 ここからはいつものやつ。
 1点異なるとすれば、今は祭の最中なので、先住民がみんなして見ているということか。
 …クリスタルの中身が陰キャの人にとっては、正に地獄のような状況。

 こうしてフワッと白く発光し、虹色に変化してからの――。


 ドーン! ドドドーン! ドドドドーン!!

 「「えぇぇぇー!?」」
 と、クリスタルの噂だけ聞き、それ以上はよく知らないであろう先住民数人が、この予想外の光景にとても驚いた。
 それもそうだ。これまでクリスタルチャームから解放される魂といえば「1個につき1体」が定石だったのだから。でも今回は違う。

 「たくさんでたぁー!」
 「い、今の、8体くらい出てこなかったか!?」

 そう。
 おまじないを終えたサリイシュの言う通り、クリスタルから発射された光は8本。
 そのうち、1体が仲間の1人であるニンゲンで、あとの7体はどうぶつ。

 光たちはいずれも、広場の噴水を前に着地し、次々と実体化していったのだ。
 ライオン、ユニコーン、ヘビ、クマ、キツネ、ブタ、サソリ。そして…

 どさっ

 最後に光が飛び出し、召喚獣達の上に落下したそれは、細身で赤毛のイケメンくん。
 足場が悪すぎたのか、着地し、実体化した頃には、なぜか真っ逆さまに転げ落ちた姿。

 召喚獣――7つの大罪の使い手。「キャミ」ことキャメロン・ミルストーンズであった。
 にしても、マイキさんの時より着地がだっせぇな、オイ。


 「うっ… いててて」

 キャミは最初、目が覚めたら視界が逆さまになっていて、僕たちみんなが呆気にとられている光景に、僅かに戸惑っていた。
 だが、そんな自分の下には召喚獣たちがいる事に気づき、すぐさま体制を取り戻す。

 「よっと。みんな、重くなかったか?」

 キャミが真っ先に心配したのは、自分が不本意に潰してしまった獣たち。
 だが彼らはとても大人しく、多少人が乗っかったくらいでは全く動じない子達だ。彼らは飼い主(?)キャミを静かに見つめたり、慰める様に頬ずりしていた。


 「ひっ…! ク、クマがいる…!」
 先住民の一人が、ハッとなって召喚獣の1体に怯えだした。が、
 「大丈夫。あの子たちはちゃんとしつけられているから、襲ってこないよ」
 アゲハがそう前に出て、一瞬でその場を落ち着かせたのであった。さすが女王様。



 ――――――――――



 打ち上げ花火が遂に終わりを告げ、あとはゆっくり屋台の軽食を頂きながら、みんなが帰路につきはじめる夜。
 キャミはあのあと、自身と召喚獣について軽く自己紹介をし、先住民達の不安をいた。

 「そうか。生け花大会にリリー達を参加させるため、空中都市までの移動手段が欲しいと」

 今日までの出来事を一通りきいたキャミが、そういって顎をしゃくる。
 アゲハ、ヒナとともに、豪華な手料理が並べられた上席につきながらの会議だ。

 もちろん僕たちも、そしてサリイシュも、テーブルを囲んで座った。
 今いる仲間を全員呼んで、計10人。これだけの人数が小説内で一斉に喋りだしたら、いったい誰が誰だか分からなくなりそう。

 「なら、このアグリアにまたがっていくといい。2人まで乗れるから、ちょうどリリーとルカで間に合うだろう。大会への参加申し込みは?」
 「それなら、私とマニーの方で既に申し込んであるよ。2人はそのまま行って大丈夫」
 と、アゲハがいう。

 キャミが座っている席の後ろには、先の召喚獣7体がくつろいでいた。
 その内の1体、「アグリア」と名を呼ばれたユニコーンが、頷くように頭を下げた。
 普段は思念体なので半透明だが、自分達の意思で実体化もできるという、とても優秀な子達だ。彼らさえ付いていれば、どこかで敵に出くわしても、しばらくは何とかなるだろう。

 「そうだ。アキラ達が熊と戦っている間、マニーから連絡があってね」
 アゲハが思い出し、前置きを述べた。そして、
 「生け花大会の開催はまだ続いているから、どうせならマニーがこっちに戻ってきてから、2人にフェブシティへ行ってもらおうかな」
 「え? いいですけど彼、こちらへ戻られるんですか?」
 「うん。明日にはね」
 「明日って、もうすぐじゃないですか! この世界の時間経過はあっという間ですし」
 と、リリーもルカも驚く。
 この異常なまでの時の早さを受け入れている位には、彼らもこの異世界でのスローライフ(?)にすっかり馴染んでいる様だ。実を言うと、僕も寝不足を忘れるくらいには慣れた。

 「今日はみんなありがとう。アキラも、マイキさんたちも疲れているだろうから、マニーが戻ってくるまでゆっくり休んで。その件で、みんなに伝えたいことが」

 「伝えたいこと?」

 「今日は大きな部屋を用意してあるから、みんな一緒に寝てほしい。ヒナは私と一緒に」
 「え? いいけど、なんで?」

 と、ヒナがきょとんとした顔でアゲハに質問した。
 まぁ、今やこれだけの大人数だし、夜は修学旅行さながら一緒に寝る事になるのは大体予想がついていた。でも確かにヒナだけアゲハと一緒なのは、ちょっと引っかかるな。

 「母神様は、この国の女王と一緒。そう聞けば、国民が安心するだろうと思って」

 なるほど…?
 一瞬、納得できそうな答えではあるが、それ以外全員が1つの部屋で… てのはどうも気になる。せめて男女別にすればいいのに。

 …なんて我が儘はいえないか。さすがに。
 ここで女王様のご厚意に逆らうなど、いくら仲の良い者であろうと、体裁ていさいが悪いからだ。
 サリイシュは自分達の家があるから別として、僕を含んだあとの異世界人6人が、

 ――男女混合。1つの部屋。何も起きないはずがなく――

 なんてアホな事にはならないだろう。そう信じるしかない。
 僕も気を付けます、はい。



 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 19 個】



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