夢の世界とアガーレール! 第一部 ―カナリアイエローの下剋上―

Haika(ハイカ)

文字の大きさ
上 下
23 / 40
第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.20 もう、後戻りはできない。

しおりを挟む
 月夜に、照らされているせいもあるのかな。
 その視線には、一種の「絶望」さえ感じられた。リリーは口を開いた。


 「もう、ルカには伝えているんですけどね。私、実は相手の目をみて前世を読み取る力が今、上手く機能していないようで」
 「前世――」


 そういえば、リリーには黒百合ガラスを生み出すのとは別に、前世が見える能力が備わっているんだった。
 これは僕には付与されない力だけど、どうやらそれが不具合を起こしている様で…


 「何ていえばいいのかしら… その、ここにいる先住民の皆さんの前世が、読めないんです。どんなに目をジッと見合わせても、まったく」

 「そうなの?」

 「しかも、それだけじゃないんです… 実は、あなた達仲間の前世も、元きた世界の自分達の姿・・・・・・・・・・・しか見えなくて… すみません。いつ皆にいうべきか、タイミングが」



 …。



 おい、ちょっとまて。
 僕、リリーがいうそれ・・が何を意味しているのか、分かってしまったかもしれない。

 いや、まだそうだと判断するのは早い。
 だって、一番最初の時に、あのひまわり組が言っていたんだ。
 「お前は、今も生きている」とね。



 「まさか… それって、その元きた世界の“前”の前世が、全く見えないってこと?」

 僕は恐る恐る、リリーに問うた。


 するとリリーは、「うん」と、弱々しく頷いたのである。


 「こんなの、初めてです… 以前は、みんなの前世が6代前まで透視できたのに。今や先住民達の前世は全く読めないし、セリナ達に至っては… 元きた世界が『前世』扱い――。

 前に、アゲハがいっていました。
 私達の元きた世界は、ひまわり組いわく『消滅したのかも分からない』らしい、と」



 衝撃の事実であった。
 僕も、その言葉には頭が真っ白になった。

 リリーが、遂に堪え切れなくなり、瞳から一筋の涙を流した。

 最悪のパターンが、頭をよぎったのだ。信じたくないけど、きっと元きた世界は、もう…


 「この事は、アゲハ達に、言わない方がいいかな…?」

 僕はそうリリーに訊く。リリーは、唇を震わせながらいった。

 「まだ… 言わない方がいいと、私も思っています… だって、彼女たちの中には、元いる世界で… 大切なご家族や、恋人、友人を持っている方も、いますから」

 そうだよな。それは僕も全く同じ事を考えたんだ。
 今ここにはいないけど、かの敵陣へ調査に出向いているマニーだって、現実では子供が…

 リリーは、とたんに自身の顔を両手で覆い、嗚咽を上げながらいった。

 「どうしよう…! ルカには『不具合だから気にしないで』って言われているけど、もしこの不具合が治らないまま、元きた世界が前世扱いだなんて、アゲハ達に知られたら…! きっと、絶望するかもしれない…! そうなったら私、いったいどうすれば…!!」



 リリーの悲壮が、痛いほどによくわかる。

 僕も、ここは涙を堪えるのに必死だった。
 元きた世界には、昔から一緒だった妹達がいて、友達がいて――。
 こつこつと、キャリアも積んできたのだ。そんな世界が、もし消滅していたらと思うと。


 いや、まだ分からない。
 ルカの言う通り、リリーのそれは「異世界へ飛ばされた事による不具合バグ」かもしれないからだ。

 だが、それにしては、あまりにもパターンが安定化しすぎている。
 僕たちの中の1人か2人くらい、6代前の前世が見えてもいいものを、今のリリーでは誰一人透視できないというのである。



 という事は、僕たちの元きた世界は、やはり――。



 ――――――――――



 祭の準備は、着々と進んでいた。

 ハーフリング達は率先して、自分達が育ててきた家畜や野菜などを調達し、料理をする。
 ドワーフ族は、地中にある根菜を掘り起こしたり、一般的な日本のお祭りでよく見かける屋台や仕掛け等をセッティングしたりしていた。
 そして僕たち異世界人はというと…

 「僕たちの、元きた世界でも見かけない鉱物で出来てますね。エキドナ合金とも違う」
 「えぇ。一体、何で出来ているのかしら?」
 王宮の一室にて、リリーとルカもまじまじと見つめるその中央、汚れてもよい小紋着姿のアゲハが、ビーチで回収した機械人形の残骸について調べていた。
 調べているというよりかは、書物を頼りに解体した部品ごとに仕分け、メモを取っている、といった方が正しいかな?
 ちなみに、祭が始まるまでは、僕も見学してよいとの許しを得ている。

 「私とマニーにも、正体は分からない。フェブシティ側との認識の違いがあるかもしれないから、こっちでは仮として『オリハルコン』と呼んでいるけど」

 「オリハルコン?」

 「異世界ファンタジーもので稀にきく、最強の金属の名称だよ。明らかに鋼よりも頑丈だから、そう呼んでいるだけで、実際はもっと上の素材があるかもしれないからね」

 「なるほど。これらは最終的にどうするんだ?」

 「森の奥にある地下博物館に寄贈し、ドワーフ達に守らせるよ。それまでの間、こちらで利用や複製ができそうな素材のサンプルを一通り採取し、研究や開発を経て、国の産業物として大いに貢献できるようにしたい。私が持っている、このガラケーのようにね」

 そういって、メモを取り終えたアゲハが黒い携帯端末を取り出した。
 つまり、そのガラケーは元々、敵対勢力であるフェデュートの技術を得て開発されたという事なのかな? それとも、敵の手から丸々盗んできた…?
 いやいや、どちらにせよなんてしたたかな女王様なんだ。研究熱心なのも非常におそれ多い。

 「アゲハさーん。もうすぐ祭が始まるってー!」

 ヒナからの呼び出しだ。
 残骸についての研究は、今日はここまで。

 僕たちは、揃って外出の準備に取り掛かった。アゲハもササっと研究材料を片づけ、ガラケーだけを持って外へ出る。その時に彼女が独り呟いたのが、

 「夜が明けたら、マニーにも報告しないと」

 だった。



 ――――――――――



 『これより、アガーレール建国200周年記念祭を行います!!』

 ドーン! ドドーン!!
 パラパラパラー。


 上空に、大きく華やかな花火が舞い上がった。

 アゲハも上品な衣服に着替え、僕たち全員、王宮を背に盛大な音と光の祭を目にする。

 全身に伝わるほどの花火の音。
 先住民たちが打楽器を鳴らす。
 めかし込んだ女性の小人たち。
 四阿を囲んでみんなで酒飲み。
 そして屋台から漂ういい香り。

 ――完全に、日本でみる花火大会そのものだ。

 「みんな、気合入ってるね」
 と、アゲハが笑顔で広場を見渡すが…
 僕としてはてっきり、先にこう、女王様と母神様を称える式典が静かに行われるのかと。

(つづく)



※人魚と馬と犬と子鬼ちゃんと木ぃぃー!!!
 (変身/擬態する仲間達)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

異世界転生!俺はここで生きていく

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
俺の名前は長瀬達也。特に特徴のない、その辺の高校生男子だ。 同じクラスの女の子に恋をしているが、告白も出来ずにいるチキン野郎である。 今日も部活の朝練に向かう為朝も早くに家を出た。 だけど、俺は朝練に向かう途中で事故にあってしまう。 意識を失った後、目覚めたらそこは俺の知らない世界だった! 魔法あり、剣あり、ドラゴンあり!のまさに小説で読んだファンタジーの世界。 俺はそんな世界で冒険者として生きて行く事になる、はずだったのだが、何やら色々と問題が起きそうな世界だったようだ。 それでも俺は楽しくこの新しい生を歩んで行くのだ! 小説家になろうでも投稿しています。 メインはあちらですが、こちらも同じように投稿していきます。 宜しくお願いします。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...