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第一部―カナリアイエローの下剋上―
ep.19 ダメだこりゃ、みんな狂信的だ。
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※ここまでの道筋(~ep.21)
4人目の仲間、ヒナが人魚=母神様という噂は、このあとすぐに国内全体へと広がった。
人口の少ない国、それもほぼ集落みたいな所は、人の噂が流れるのが早い。
いや、でもそれは流石にないだろう!
だって彼女は異世界人なのだから。
…なんて僕がハッキリいえるハズもなく、ヒナはすぐさま注目の的となった。
サリバとイシュタのみならず、これにはほか種族たちも歓迎モードだ。
「いやはや! 海では人魚、陸では人間という母神様の噂は本当だったのですね!」
「洞窟の壁画にも、描かれているのですよ! それはとても美しい女性のお姿だと!」
と、ドワーフ達がこぞって露骨なゴマすりモード。
――それ、たまたまなんじゃね?
なんて僕は眉をしかめたが、驚いたのがヒナ本人の対応である。
「ありがとう、みんな… でも、ごめんなさい。私、自分が母神様だという自覚がないというか、その辺り記憶が曖昧なの。その―― ずっとチャームに閉じ込められていたから」
なんて困ったような笑顔で、当たり障りのないように切り返していた。
うん。ウソは言っていない。
あ。言い忘れていたけど、いま僕たちがいるのは夜の王宮手前の噴水前である。
「失礼ですが、女王様もここは母神様をもてなすべきです! 今の公務は全て放棄して」
「そうですよ! 母神様さえいれば、私達の生活は安泰なのですから!」
なんて、ハーフリングの夫婦がアゲハにまで無茶な事をいいだす始末。
ここまでくると、もはや一種のカルトである。アゲハもこれには陰で頭を抱えたが…
「ううん、そこまでは止めなくていいと思うの! ホラ。アゲハさんはきっと、みんなが今よりもっともっと豊かな暮らしができるよう、一生懸命頑張ってくれているから」
と、ヒナが若干冷や汗気味に、両手の平をかざしてアゲハを擁護した。
まったく。みんな母神様を優先しすぎるがあまり、女王陛下のアゲハに意見しはじめるものだから、解放されて早々、急にこんな騒ぎに巻き込まれてヒナちゃんも大変だな。
「し、しかし…!」
と、それでもまだ難色を示すハーフリングやドワーフ達。
アゲハは「はぁ」とため息をつき、鋭い目で漸く口を開いた。
「あのさ。あなた達がいう母神様本人が良いって言ってるんだから、それさえも否定していたら、これこそ『無礼』にあたるんじゃないのか? 私は公務を放り投げる気はないぞ」
「「!!」」
「それに! ヒナは、私のいとこなんだ。彼女の父と、私の母が、兄妹どうしなんだよ」
「うんうん」
…。
「「なんですとぉぉぉー!!?」」
だぁーびっくりしたぁぁー!
なんて、こっちの耳の鼓膜が破れそうなくらいに、住民達が叫んだ。
そう。アゲハの言う通り、ヒナは彼女のいとこなのである。礼治とはまた別の血筋のね。
「なんと! 母神様と女王様が、ご家族だとは全く存じておりませんでした!!」
――そりゃ、今日まで訊かれなかったら言う意味はないよな。 …と、僕は肩をすくめる。
「嗚呼、なんて神々しい…! ははーっ! これは大変なご無礼をおかけしましたー!」
「今すぐに、母神様と女王様に最高のおもてなしを致しますので、どうかお許しをー!」
と、先住民たちは揃ってアゲハ達の前で土下座をしたのである。
…たぶん、その「土下座」という作法は、女王様が国に広めたものなんだろうけど。
「皆のものー! すぐに祭の準備だー!! ありったけの食料と楽器を準備しろー!!」
「「ははーっ!!」」
と、住民達が一斉にアゲハ達に一礼してから走り去る。
おいおいマジか。リリー解放まではこんなんじゃなかったのに、ヒナのパートで急にここまで国中が大騒ぎになるなんて、想像すらしていなかったぞ。なんという贔屓だ。
「アゲハさん… なんか、ごめんなさい」
場が静まりかえり、僕たち異世界人とサリイシュだけが残った噴水前で、ヒナが申し訳なさそうにアゲハへと謝った。
アゲハは、元の穏やかな表情に戻っては首を横に振った。
「ヒナは何も悪くないよ。母神様の文献については、こちらも少し把握していたから、今回こうなる可能性を想定しなかった私の方に非がある。
…ただ、いいんだ。こうなったら住民たちの気が済むまで、祭がてら私はさっきの機械について研究を進める事にするよ。ちょうど、アガーレールの建国から200年を迎えるしね」
あー! そうだった!
僕は、アゲハが王宮で国の建国年数を教えてくれた事を、すっかり忘れていた。今、その話をきいて思い出し、ふと仲間達の方へと目をやる。
リリーはこの時、1人四阿のウッドチェアに腰かけ、何やら不安そうにしていた。
ルカは、サリイシュと一緒に世間話をしている。
僕は、その内のリリーの方へと歩み寄った。
「リリー。ちょっと、いいかな?」
僕の問いに、リリーが静かに顔を上げた。
相当追い詰められている、という程の状態ではないようだ。僕は更に続ける。
「…昨日からその、元気がないみたいだからさ。何か悩みでもあるのかな? って」
すると、リリーはルカがいる方向へと目を向けてから、すぐに僕へと視線を戻した。
(つづく)
4人目の仲間、ヒナが人魚=母神様という噂は、このあとすぐに国内全体へと広がった。
人口の少ない国、それもほぼ集落みたいな所は、人の噂が流れるのが早い。
いや、でもそれは流石にないだろう!
だって彼女は異世界人なのだから。
…なんて僕がハッキリいえるハズもなく、ヒナはすぐさま注目の的となった。
サリバとイシュタのみならず、これにはほか種族たちも歓迎モードだ。
「いやはや! 海では人魚、陸では人間という母神様の噂は本当だったのですね!」
「洞窟の壁画にも、描かれているのですよ! それはとても美しい女性のお姿だと!」
と、ドワーフ達がこぞって露骨なゴマすりモード。
――それ、たまたまなんじゃね?
なんて僕は眉をしかめたが、驚いたのがヒナ本人の対応である。
「ありがとう、みんな… でも、ごめんなさい。私、自分が母神様だという自覚がないというか、その辺り記憶が曖昧なの。その―― ずっとチャームに閉じ込められていたから」
なんて困ったような笑顔で、当たり障りのないように切り返していた。
うん。ウソは言っていない。
あ。言い忘れていたけど、いま僕たちがいるのは夜の王宮手前の噴水前である。
「失礼ですが、女王様もここは母神様をもてなすべきです! 今の公務は全て放棄して」
「そうですよ! 母神様さえいれば、私達の生活は安泰なのですから!」
なんて、ハーフリングの夫婦がアゲハにまで無茶な事をいいだす始末。
ここまでくると、もはや一種のカルトである。アゲハもこれには陰で頭を抱えたが…
「ううん、そこまでは止めなくていいと思うの! ホラ。アゲハさんはきっと、みんなが今よりもっともっと豊かな暮らしができるよう、一生懸命頑張ってくれているから」
と、ヒナが若干冷や汗気味に、両手の平をかざしてアゲハを擁護した。
まったく。みんな母神様を優先しすぎるがあまり、女王陛下のアゲハに意見しはじめるものだから、解放されて早々、急にこんな騒ぎに巻き込まれてヒナちゃんも大変だな。
「し、しかし…!」
と、それでもまだ難色を示すハーフリングやドワーフ達。
アゲハは「はぁ」とため息をつき、鋭い目で漸く口を開いた。
「あのさ。あなた達がいう母神様本人が良いって言ってるんだから、それさえも否定していたら、これこそ『無礼』にあたるんじゃないのか? 私は公務を放り投げる気はないぞ」
「「!!」」
「それに! ヒナは、私のいとこなんだ。彼女の父と、私の母が、兄妹どうしなんだよ」
「うんうん」
…。
「「なんですとぉぉぉー!!?」」
だぁーびっくりしたぁぁー!
なんて、こっちの耳の鼓膜が破れそうなくらいに、住民達が叫んだ。
そう。アゲハの言う通り、ヒナは彼女のいとこなのである。礼治とはまた別の血筋のね。
「なんと! 母神様と女王様が、ご家族だとは全く存じておりませんでした!!」
――そりゃ、今日まで訊かれなかったら言う意味はないよな。 …と、僕は肩をすくめる。
「嗚呼、なんて神々しい…! ははーっ! これは大変なご無礼をおかけしましたー!」
「今すぐに、母神様と女王様に最高のおもてなしを致しますので、どうかお許しをー!」
と、先住民たちは揃ってアゲハ達の前で土下座をしたのである。
…たぶん、その「土下座」という作法は、女王様が国に広めたものなんだろうけど。
「皆のものー! すぐに祭の準備だー!! ありったけの食料と楽器を準備しろー!!」
「「ははーっ!!」」
と、住民達が一斉にアゲハ達に一礼してから走り去る。
おいおいマジか。リリー解放まではこんなんじゃなかったのに、ヒナのパートで急にここまで国中が大騒ぎになるなんて、想像すらしていなかったぞ。なんという贔屓だ。
「アゲハさん… なんか、ごめんなさい」
場が静まりかえり、僕たち異世界人とサリイシュだけが残った噴水前で、ヒナが申し訳なさそうにアゲハへと謝った。
アゲハは、元の穏やかな表情に戻っては首を横に振った。
「ヒナは何も悪くないよ。母神様の文献については、こちらも少し把握していたから、今回こうなる可能性を想定しなかった私の方に非がある。
…ただ、いいんだ。こうなったら住民たちの気が済むまで、祭がてら私はさっきの機械について研究を進める事にするよ。ちょうど、アガーレールの建国から200年を迎えるしね」
あー! そうだった!
僕は、アゲハが王宮で国の建国年数を教えてくれた事を、すっかり忘れていた。今、その話をきいて思い出し、ふと仲間達の方へと目をやる。
リリーはこの時、1人四阿のウッドチェアに腰かけ、何やら不安そうにしていた。
ルカは、サリイシュと一緒に世間話をしている。
僕は、その内のリリーの方へと歩み寄った。
「リリー。ちょっと、いいかな?」
僕の問いに、リリーが静かに顔を上げた。
相当追い詰められている、という程の状態ではないようだ。僕は更に続ける。
「…昨日からその、元気がないみたいだからさ。何か悩みでもあるのかな? って」
すると、リリーはルカがいる方向へと目を向けてから、すぐに僕へと視線を戻した。
(つづく)
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