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第一部―カナリアイエローの下剋上―
ep.12 アガーレール王国の平均時給、○○○円。
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メロディの正体は、地下渓谷の最上部から響いていた。
リコーダー? のような笛で、2人がかりで奏でられている。人力だ。というか、
「あれ? これ、『蛍の光』じゃね!?」
という事に、僕は気が付いたのである。
そう。現実のスーパーマーケットなどで閉店前に流れている、あのお馴染みのBGM。
「あぁ。日の出を知らせるチャイムだよ。ドワーフ達が、うっかり外へ出て太陽光を浴びる事がないよう、外の見張り番が演奏する形で制定したんだ」
と、アゲハが笑顔で説明する。まさか、蛍の光が演奏されるなんて思ってなかったぞ。
「『制定』って… 著作権的に大丈夫なのか? それ」
「大丈夫でしょう。蛍の光は、確かパブリックドメインだと記憶しているから」
なんて、この異世界ファンタジーでそんなメタな話をしていいのか分からないけど、アゲハがそう肩をすくめた。
本人がそう言うなら。あとで調べてみよう… て、僕からだと調べられないんだった。
まぁここは女王の責任ってことで! 僕はこれ以上、何も突っ込まないでおこうかn…
「いらっしゃーい♪ 新米のコシヒカリ、今なら5kg500円でお得だよー!」
ブーッ!!!
おい待て! 今、そこの野菜小売店にいるハーフリングのお姉さん、なんていった!?
コシヒカリ!? 500円!? てゆうかこの国の通貨単位「円」かーい!!
「おいアゲハ…!?」
僕は再度、怪訝な表情でアゲハへと振り向いた。
どう考えても、あれらの名付け親は1人しかいないからだ。
先程の文面だけ見ると、思いきり現代の日本を彷彿とさせるこの状況に、アゲハもそろそろ気まずくなってきたのだろう。苦笑いで、自身のこめかみを掻きはじめた。
ホラその反応。さっきの名称たち、あれ絶対命名したのキミだよね…!?
この前のサツマイモといい、インターホンといい!
「はぁ~。生きているうちに、唐辛子入りのケチャップライスが食べたいわぁ~」
「私も~。だけど、今はその唐辛子の生息地を、コロニーの獣人たちが占領しちゃって、今は全然手に入らないのよね~」
「そうなのよ~。あの件がなければ、今も食べたいときにいつでも食べられたのにね~」
という、ハーフリングの女子2人が通りすがるさま、そんな世間話をしていた。
僕は疑問に思ったものだ。異世界人さながら、どうしても好奇心が芽生えてしまう。
「っ…」
アゲハが、途端に歯痒そうに視線を逸らした。
その様子だと、かなり心当たりがあるらしいが… 今は訊かないでおいた方が良さそう。
「お疲れさーん。しかし、参ったなぁ。これ以上の事業拡大となると、渓谷の壁を更に掘り進めなきゃならねぇ」
「あぁ、きいたぜ? それだけ多く、商品を仕入れるんだろ? だけど、専門家はみな『ここの渓谷はどこも掘り進めきってるからダメ』といってる」
「あぁ、地盤が崩れるかもしれないってな。まぁ、無理なら地上で営むというのも手なんだけどよ。しかしなぁ。たとえば、この岩盤の向こうには空洞があるかないか、そんな透視能力があれば、いいんだけども」
なんて、更に興味深い世間話をしているドワーフの男たち。
こちらも通りすがりだが、先の唐辛子の件とは違い、アゲハが真摯に耳を傾けていた。
「透視能力、ね」
僕も、その言葉には心当たりがあった。今度、やることリストの一部にも含まれている。
「俺達の中に、ちょうどその能力持ちの人がいたな。1人」
「うん。だけどその人は、残念ながらまだ見つかっていない。チャームに封印されているか、どうかさえも」
それなんだよな。今回の冒険において、心配な部分は。
だけど、上界には死後地獄に飛ばされている仲間は、誰もいない。そこが唯一の救いか。
「彼以外にも、チャームに封印されている仲間達を解放すればするほど、この国の人々の暮らしも、裕福になっていくのかな?」
なんて僕は野暮なことをきく。アゲハは特段顔色を変えることなく、肯定的に述べた。
「なるさ。もちろん今の状態でも、国民は最低限の生活が出来ているけど、今よりもっと便利になると信じている。だから、最近はまた地上への進出も視野に入れてるんだよね」
「地上への進出?」
「平地に家を建てて、そこで暮らす人々の数を増やす。でもそのためには、それ相応のライフラインを布かなくてはならない。例えば医療機関とか、排水機能の改良とか」
「あー。医療機関といえば、それも俺達メンバーの中に2人いたな。医師と薬剤師」
「うん。もちろん、娯楽やサービスだって重要だよ。遊園地や、ゲームセンターなどね」
「きけば結構なプランの数を立ててるんだな!? アゲハ。それら全部を実現するまでに、一体どれくらいの時間がかかるんだろう?」
「なに。希望はたくさんあった方がいいでしょ?」
と、ポジティブに述べるアガーレール王国の女王。
国のトップが、それだけ国作りにおいて前向きに動いている人だから、国民も信頼しているのだろう―― という事が、今回の道案内で、なんとなく分かったような気がした。
――――――――――
「それじゃあ、おやすみ」
あのあと、僕達は王宮に戻り、順番に寝支度を済ませておいた。
マリアは、既に近衛兵の自室を借りて寝ているため、僕はアゲハと一緒の寝室である。
もちろん、このあとは添い寝というか、キングサイズのベッドでゆったり眠る予定だ。
ただそれだけ。変な期待は一切ナシ。
「…」
アゲハが、遅れてベッドの上で横になる。
隣にいる僕はもう、先の地下渓谷散歩もあってか程よく疲れていて、夢を見る寸前だ。
何か、考え事でもしているのだろうか?
アゲハの茶色い瞳が、どこか哀愁を帯びている。
同時に、自身の耳に飾っている大きなピンク色の雫型イヤリングを、静かに触っていた。
この時のアゲハは、女王としてではなく、1人の女性としての“顔”であった――。
【クリスタルの魂を全解放まで、残り 24 個】
リコーダー? のような笛で、2人がかりで奏でられている。人力だ。というか、
「あれ? これ、『蛍の光』じゃね!?」
という事に、僕は気が付いたのである。
そう。現実のスーパーマーケットなどで閉店前に流れている、あのお馴染みのBGM。
「あぁ。日の出を知らせるチャイムだよ。ドワーフ達が、うっかり外へ出て太陽光を浴びる事がないよう、外の見張り番が演奏する形で制定したんだ」
と、アゲハが笑顔で説明する。まさか、蛍の光が演奏されるなんて思ってなかったぞ。
「『制定』って… 著作権的に大丈夫なのか? それ」
「大丈夫でしょう。蛍の光は、確かパブリックドメインだと記憶しているから」
なんて、この異世界ファンタジーでそんなメタな話をしていいのか分からないけど、アゲハがそう肩をすくめた。
本人がそう言うなら。あとで調べてみよう… て、僕からだと調べられないんだった。
まぁここは女王の責任ってことで! 僕はこれ以上、何も突っ込まないでおこうかn…
「いらっしゃーい♪ 新米のコシヒカリ、今なら5kg500円でお得だよー!」
ブーッ!!!
おい待て! 今、そこの野菜小売店にいるハーフリングのお姉さん、なんていった!?
コシヒカリ!? 500円!? てゆうかこの国の通貨単位「円」かーい!!
「おいアゲハ…!?」
僕は再度、怪訝な表情でアゲハへと振り向いた。
どう考えても、あれらの名付け親は1人しかいないからだ。
先程の文面だけ見ると、思いきり現代の日本を彷彿とさせるこの状況に、アゲハもそろそろ気まずくなってきたのだろう。苦笑いで、自身のこめかみを掻きはじめた。
ホラその反応。さっきの名称たち、あれ絶対命名したのキミだよね…!?
この前のサツマイモといい、インターホンといい!
「はぁ~。生きているうちに、唐辛子入りのケチャップライスが食べたいわぁ~」
「私も~。だけど、今はその唐辛子の生息地を、コロニーの獣人たちが占領しちゃって、今は全然手に入らないのよね~」
「そうなのよ~。あの件がなければ、今も食べたいときにいつでも食べられたのにね~」
という、ハーフリングの女子2人が通りすがるさま、そんな世間話をしていた。
僕は疑問に思ったものだ。異世界人さながら、どうしても好奇心が芽生えてしまう。
「っ…」
アゲハが、途端に歯痒そうに視線を逸らした。
その様子だと、かなり心当たりがあるらしいが… 今は訊かないでおいた方が良さそう。
「お疲れさーん。しかし、参ったなぁ。これ以上の事業拡大となると、渓谷の壁を更に掘り進めなきゃならねぇ」
「あぁ、きいたぜ? それだけ多く、商品を仕入れるんだろ? だけど、専門家はみな『ここの渓谷はどこも掘り進めきってるからダメ』といってる」
「あぁ、地盤が崩れるかもしれないってな。まぁ、無理なら地上で営むというのも手なんだけどよ。しかしなぁ。たとえば、この岩盤の向こうには空洞があるかないか、そんな透視能力があれば、いいんだけども」
なんて、更に興味深い世間話をしているドワーフの男たち。
こちらも通りすがりだが、先の唐辛子の件とは違い、アゲハが真摯に耳を傾けていた。
「透視能力、ね」
僕も、その言葉には心当たりがあった。今度、やることリストの一部にも含まれている。
「俺達の中に、ちょうどその能力持ちの人がいたな。1人」
「うん。だけどその人は、残念ながらまだ見つかっていない。チャームに封印されているか、どうかさえも」
それなんだよな。今回の冒険において、心配な部分は。
だけど、上界には死後地獄に飛ばされている仲間は、誰もいない。そこが唯一の救いか。
「彼以外にも、チャームに封印されている仲間達を解放すればするほど、この国の人々の暮らしも、裕福になっていくのかな?」
なんて僕は野暮なことをきく。アゲハは特段顔色を変えることなく、肯定的に述べた。
「なるさ。もちろん今の状態でも、国民は最低限の生活が出来ているけど、今よりもっと便利になると信じている。だから、最近はまた地上への進出も視野に入れてるんだよね」
「地上への進出?」
「平地に家を建てて、そこで暮らす人々の数を増やす。でもそのためには、それ相応のライフラインを布かなくてはならない。例えば医療機関とか、排水機能の改良とか」
「あー。医療機関といえば、それも俺達メンバーの中に2人いたな。医師と薬剤師」
「うん。もちろん、娯楽やサービスだって重要だよ。遊園地や、ゲームセンターなどね」
「きけば結構なプランの数を立ててるんだな!? アゲハ。それら全部を実現するまでに、一体どれくらいの時間がかかるんだろう?」
「なに。希望はたくさんあった方がいいでしょ?」
と、ポジティブに述べるアガーレール王国の女王。
国のトップが、それだけ国作りにおいて前向きに動いている人だから、国民も信頼しているのだろう―― という事が、今回の道案内で、なんとなく分かったような気がした。
――――――――――
「それじゃあ、おやすみ」
あのあと、僕達は王宮に戻り、順番に寝支度を済ませておいた。
マリアは、既に近衛兵の自室を借りて寝ているため、僕はアゲハと一緒の寝室である。
もちろん、このあとは添い寝というか、キングサイズのベッドでゆったり眠る予定だ。
ただそれだけ。変な期待は一切ナシ。
「…」
アゲハが、遅れてベッドの上で横になる。
隣にいる僕はもう、先の地下渓谷散歩もあってか程よく疲れていて、夢を見る寸前だ。
何か、考え事でもしているのだろうか?
アゲハの茶色い瞳が、どこか哀愁を帯びている。
同時に、自身の耳に飾っている大きなピンク色の雫型イヤリングを、静かに触っていた。
この時のアゲハは、女王としてではなく、1人の女性としての“顔”であった――。
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